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▼ 予行演習

久しぶりの連休。
しかも真島さんも一緒にお休みが取れて、久々に二人で街中をブラブラしていた。
祭日ということもあってかカップルや家族連れが多い。

「なんや、迷子か?」

先に気づいたのは真島さんだった。
たくさんの人が行き来する中、男の子が一人蹲って泣いていた。

「どうしたの?」
「ぅう、ママッ……、ママぁ!」

どうやらお母さんとはぐれてしまったらしい。
この雑踏の中ではお母さんのほうもこの子を見つけられないのかもしれない。
しゃがんで男の子の顔を覗き込みながら頭を撫でて、少しずつ落ち着かせる。

「お名前は?」
「……しょうくん」
「それじゃあ、しょう君、一緒にママ探そうか」

そう言ってしょう君から真島さんに目線を移せば、「せっかくのデートやのに」と小さな声で口を尖らせながら文句を言っていた。

「歩ける?」
「ヤダ! こわい!」
「ここから歩かないとママ探せないよ?」
「もうあるけない!」
「チッ、ワガママなボウズやな! 行くでっ!」

駄々をこねるしょう君に痺れを切らした真島さんが、片手でしょう君の身体をぐいっと抱き上げる。
一瞬何が起きたのかわからなかったのか、騒いでいたしょう君はぴたりと口をつぐんでしまった。
しかし真島さんが歩き出すと、高くなった視点に興奮したのかキャッキャと笑い出した。

「すごい! おじさん、たかい!」
「オッサンちゃうわっ! どこからどう見てもお兄さんやろがっ!」

しょう君を抱っこした真島さんと一緒にお母さんを探す。
こうして一緒に歩いていると、なんだか本当に家族みたいだな……。
そんな想いが込み上げてチラリと真島さんを見れば、同じように私を見ている真島さんと目が合った。

「な、なんや」
「ううん、なんでもない。……しょう君のお母さん、いませんかぁ?」

声を張り上げながら歩いていると、ポッポ天下一通り店から女性が半泣き状態で飛び出してきた。しょう君のお母さんだった。
どうやらお母さんが銀だこでたこ焼きを買っている最中に、しょう君が目の届かないところへ勝手に行ってしまったらしい。
ポッポの店員さんに助けを求めていたところに、私たちが通りがかったようだった。

「もう一人で歩いたらあかんで」

真島さんは地面にしょう君を下ろすと、その頭を優しくくしゃりと撫でた。
そんな真島さんのさりげない心遣いが愛おしかった。
お母さんに抱き着いたしょう君に、私はしゃがんでバッグから菓子袋を取り出し、カラーフィルムに包まれたいくつかのラムネを掌に乗せて差し出した。

「頑張ったからご褒美。何色が好き?」
「……きいろとあお」
「お前ズルいやっちゃな! 好きな色言われたら普通はひとつ――」

説教じみたことを言い出した真島さんにシーッと人差し指を立てて彼の口を閉ざし、しょう君にどうして黄色と青が好きなのか聞いてみた。

「きいろはね、おかあさんがすきなの。あおはおとうさん」
「そっかぁ、お父さんとお母さんが好きな色を選んだんだね。しょう君は優しいね! じゃあ、しょう君は何色が好きなの?」
「あか」
「じゃあ、赤と黄色と青あげるね」

どうぞ、と言うと、私の掌に乗ったラムネからしょう君はちゃんと自分が言った色だけを取っていく。

「ちなみに真島さんは何色が好きですか?」
「お、俺か? 俺は別にラムネいらんで」
「いいから」
「ピ、ピンクや」
「ピンクですか? ふふ、意外。私は緑が好きです。だから……はい、これもあげる。私たちの好きな色」

ただ単にしょう君にラムネをあげたかった。お母さんもそれを察して何度もありがとうございますと頭を下げた。
それじゃあね、と手を振ると、しょう君が可愛らしい笑顔でお別れを言ってくれた。

「バイバイ、おねえちゃん、おじさん」
「せやからオッサンちゃうてっ!」

仲良く手を繋いで去っていく親子を見送り、私たちも何事もなかったかのように歩き出すと、真島さんがいつもより強めの力でギュッと私の手を握ってきた。
どうしたんだろうと横顔を見つめると、首を傾けて珍しく照れくさそうな表情で私を見る。

「……子供の扱い、上手いんやな」
「そ、そうですかね」
「いいお母さんになれるな」
「真島さんも、いいお父さんになりますよ」

そう返すと「せやろか」と恥ずかしそうに後頭部を掻いた。
私がお母さんで、真島さんがお父さん。
いつか訪れるであろう二人の未来を一緒に想像していたのかと思うとなんだか嬉しい。
そんな幸せを感じていたのも束の間、真島さんの表情が深刻なものになった。

「なまえ、俺、そんなにオッサンやろか……」
「え?」
「なぁ、ハッキリ言うてくれや! 俺オッサンか?」
「んー、真島さんは……、すごくカッコいいです」

一瞬目を丸くして驚いたようだったが、すぐに「質問の答えになっとらん!」と軽く頭を小突かれた。
それでも真島さんはとても嬉しそうで、久しぶりの連休はたくさん幸せを感じられそうだな、と私は繋がれた手をまたギュッと握った。


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