▼ 次の春もまた
公園にある桜の大木が見事に咲き誇っている。
思わず足を止め、うっそりと眺めていると強い風が吹いて薄桃色の花びらが舞った。
乱れた髪を直して隣を見れば、いつからそうしていたのか真島さんが優しい微笑みを浮かべて私を見ていた。
「なまえ、髪に花びらついとるで」
髪に絡まっていた桜の花びらを、真島さんは黒い皮手袋の掌へ乗せて私に見せたが、すぐに風がさらっていってしまった。
「キレイに咲いとるのに、なんですぐ散ってしまうんやろなぁ」
たまにこの人はこういうロマンチックなことを言う。
桜を見つめながら呟いた真島さんの横顔はどこか儚げで、思わず私は真島さんの手をギュッと握った。
「ん? どないした?」
「それは、次にまた春が来ることを知っているからです」
私が桜の枝の下に入って花を見上げれば、真島さんも同じように真似をした。
「次の春がやってくるって知ってるから、思い切り咲いて、思い切り散っていくんだと思います」
ふと大きく風が吹いた。
桜の木の下、私と真島さんの視界は薄桃色になり、美しい桜吹雪の中で見つめ合った。
「せやから、こうして散る姿も美しいんやな」
「はい」
私は真島さんの髪に手を伸ばして桜の花びらを取って見せた。
「また来年、一緒に見てください」
「ああ、約束や」
願い事を掛けた花びらは、風に乗って空高く舞い上がって行った。