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▼ 桃の香り

「なまえ、帰ったでぇ〜」

上機嫌で帰宅した真島さんは、黒い皮手袋をした手で可愛らしい花束を握っていた。

「お帰りなさい。どうしたんですか?」
「今日は3月3日やろ」
「もう私、女の子じゃないですよ?」
「ええんや! ほれ」

手渡された桃と菜の花の花束からは甘い香り。
早速花瓶に活けて飾れば、部屋に春が訪れたような気分になった。

「ええやんかぁ、春って感じやな」

着替え終えた真島さんが飾られた桃の花を嬉しそうに見ている。

「すごくキレイです」
「ほな、仕事終わりの一杯やりながら花見といこうやないか」

冷蔵庫にある缶ビールを取りに行こうとする真島さんの手を取り、何も言わず首を横に振る。

「あ? どないした?」
「真島さんもひな祭り、しません?」
「俺、女やないで」

不思議そうにしている真島さんの前に、後ろ手に隠していた日本酒を差し出した。

「お、日本酒やんか! 買うてきたんか?」
「 "桃花" っていうお酒なんです。真島さんと一緒に飲みたいなと思って」
「なんや、俺を酔わしたいんか? それとも……酔わせて欲しいんか?」
「そ、そうじゃなくてっ」
「その慌てぶりやと図星なんやろ?」

悪戯っぽく笑う真島さんにからかわないでくださいと怒ってみせても、それが余計に彼を煽ってしまってすっぽり腕の中に収められてしまった。

「俺もな、花の他に一緒に楽しめるモン買うてきたんや」
「な、なんですか?」
「桃のええ香りがするボディクリーム」
「へっ?!」
「大人がひな祭り、楽しんでもええよなぁ」

私の身体を解放してグラスを取りに行った真島さんが、途中振り返って思わせぶりな表情で唇を動かした。

「どんな味がするか楽しみやな」


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