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▼ デート(仮)

なんでこんな嘘をついてしまったんだろう。
そう、気づいた時には後悔しかない。
嘘は一端ついてしまうと重ねられ、上塗りされてそれと共に罪悪感を伴う。
それでも私はそうしていたかった。そうすることであの人と会う口実ができてその瞬間だけは私との時間になる。

今はただそれだけが救い。

◆◇◆

「ほんで、デートには誘えたんかいな?」
「それができたら苦労しませんよ。」

溜息を尽きながらいつもの様に私は真島さんに恋愛相談をしている。
…といっても相手は横にいる真島さんで本人は気づいていないだろう。
もはや架空の誰か分からない人物であることにしている。
なぜそんな滑稽で稚拙な嘘を?

傷つくのが怖いからだ。
だって真島さんモテるんだもん。
以前も素敵な女性が横に並んでいた。
私とは違い颯爽と街を歩く真島さんとその女性は目立っていてまさにお似合いのカップルといった感じで私なんか真島さんの横に並んだら恐縮してあんなに自信をもって街を歩けない。

「そんなん言ってたらいつまでもこのままやで。ええんか?」
「そうですけど…。」

グラスを取ってお酒を一口。
甘い。
でもお酒の弱い私にとって飲めるカクテルは限られている。
そしてこのスノーボールは私のお気に入り。
まろやかな口当たりでさっぱりとしている。

真島さんは面倒くさそうに煙草に火を点けている。
そう、じゃあ、私と遊びに行きませんか?
そう言えればこの展開の次がある。
…でも言えない。

「しゃあないのぅ。そしたらゴロちゃんがひと肌脱いだろか!」
「えっ…。」

いつもと違う展開に私は動揺する。
さて、ひと肌脱ぐという意味とは?

◆◇◆

何でこんな事に。
そう思いながらも私は部屋にある洋服を片っ端から取り出しては着る、脱ぐを繰り返す。
決まらない。
…いや、寧ろいつも通りでいいんじゃないか。
でも、少しでも可愛く見られたい女心。
もうこれでいいか。

アンサンブルのトップスにレースのスカートを取って準備を始める。
いつもよりも髪を丁寧に巻き、化粧をしていく。そして香水瓶を取って軽く吹き付ける。
これで見栄えだけでもちょっといつもとは違うか。
そう思いながらもいつもは履かないヒールの靴に足を通す。

そして向かうは神室町、真島さんの所へ。

真島さんからはデートの練習するから来週の土曜空けときやとメールがきていた。
断ろうとも考えたが断ってしまえば二度とこんなチャンスはない。
考えた結果わかりましたと簡潔に返した。
こういう時可愛い女の子ならハートマークやら可愛い絵文字を使うのだろうと思いながら。

待ち合わせの場所に行くとすでに真島さんは来ていて私が声を掛けると少し驚いた様子。
もしかして、マスカラパンダになってますか?と思いながらもさっと鏡を取り出して確認するが特に異変はない。

「名前チャン、今日はいつもと雰囲気違うから驚いたで。」

可愛いやんか!と言いながら私の手を取る。
私はすでに心拍数が上がり、キャパオーバーになりそうだ。
真島さんと横を歩いてる。ただそれだけなのに。
見慣れている街なのに色めきだっているように見える。

そして思う。
こういう所が女の人にモテるんだろうなぁと率直に思う。
私みたいに姑息な嘘を使わず、正直だ。
こんな事をしている私を真島さんはどう思うのだろうか?
弾む気持ちから一遍して心に黒い靄がたちこめる。

◆◇◆

「映画ですか?」
「せや、見たかったやつがあるねん。」

そう言いながら、渡されたチケットとポップコーン。
甘い香りとしょっぱい香り、2つの味が入っている。

渡されたチケットを見ながら席につくとまた私は驚いてしまう。
これはなんですか!
手すりは1人一個じゃないのか!
…というかソファーなのこれ!
そう思いながらも真島さんは特に気にせず座っている。

「真島さん、これなんですか?」
「知らんのかいな。これはカップルシート言うんやで。」

ほれと言いながら私の席を叩いて座るように言っている。
立っているのもあれなので座る…がしかしだ!
近くないか!

私はどうしていいかわからずとりあえずポップコーンを一口齧る。
甘い。これはキャラメル。
すると手がすっと伸びてくる。

「名前チャン、1人で全部食べたらあかんで。」
「あ、すみません…。」

そういってトレイを真ん中に。
そう、ここで壁を作れば大丈夫。
あたふたとしている内に照明は暗くなる。

私は画面に見入る真島さんをそっと見る。
ゾンビに追いかけられる人達を見て嬉しそうに見ている。
私はどうしていいか分からずぼんやりと画面をみたり、時々真島さんをそっと見たり。
距離が近い分、真島さんが驚いたり笑ったりすると肩が触れてその度に鼓動が跳ねる。そんな事をしている内に映画は終わり、私は映画の内容もそこそこにドキドキが止まらない。

「おもろかったな。」
「そうですね。」

そう言いながらもゾンビがどうなったのか、人がどうなったのかも覚えていない。
触れた肩の部分だけじんじんと熱を帯びているかのように麻痺している。

「そしたら、次はこっちやで。」

私の手を取り、また収まり始めていた鼓動が速くなる。
真島さんはきっと気づいていないだろう、こんな私の気持ちに。
気づいてほしい、いや、気づかずこのままでいい。
揺れ動く気持ちがまた一層強くなりそれが黒い靄となる。

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