thx & for... | ナノ


▼ 以心伝心

大人になるって何だろう。
そんな事をふと思う。考えた所で答えなんて出ないのに。
それと共に思うことがひとつ。
子供の頃に戻りたい。
そう思う時はすでに大人になっているのだろう。
そんな私はとうに大人でもう子供なんて言える可愛い年齢ではない。
そんな大人になった私だが、いまだに子供の時と変わらないときがある。
それは恋をしているとき。

まさに今がそうだ。
5日間の仕事を終えてクタクタになりながらも考えるのは想い人のこと。
今日はちゃんとご飯を食べたのだろうか、元気にしているのか、今は何をしているのだろうか。そんな事が先ほどから浮かんでは消えている。

じゃあ、連絡してしまえば?
それが大人と子供の違いなんだろう。子供だったら何も考えずに会いに行ってしまっていただろう。それが大人になると急にそのテンションが下がる。要は相手の気持ちを考えるようになったということ。今、突然押しかけたら迷惑だろう、忙しいかもしれないなどとストッパーがかかる。

じゃあ、メールだけにしよう。
そう思って先ほどから文面を考えては送ることができず下書きのフォルダーに溜まっていくだけ。そう、文だけじゃ足りない。
じゃあ、電話にしよう。
声を聞くだけでも気分はだいぶ上がる筈だ。安心できるし、メールでは得られない充足感が得られる筈。いや、やっぱり声だけじゃ足りない。
声を聞いたら会いたくなる気持ちが抑えられなくなってしまうんだ。あの人の前では大人の女性でいたい。気遣いができて落ち着いた女性として。…とはいっても理想を掲げているだけで現実はいつも甘えてばっかりの自分。

真島さん、会いたいな。

夜道を歩きながら見える綺麗な月を見てそんな事を。やっぱりメールだけにしておこうと携帯を開くと同時に振動。反射的にボタンを押すと聞き慣れた声がそこにはあった。

「名前、今、大丈夫か?」

「…はい。」

嬉しい気持ちをそっと抑えて返事はシンプルに。その声を聞いているだけで疲れていた足が急に元気になる気がする。さっきまでは早く帰ろうと思っていた夜道をゆっくり歩きながら耳に神経を集中させる。

「なんや外か?」

「はい、仕事終わりで帰ってます。」

「変わらず遅くまで仕事なんやなぁ。1人で危なないか?」

「大丈夫ですよ。今日は綺麗な月灯りがありますから。」

「そうやのぅ…。」

そう話すと急に真島さんの声が聞こえなくなって通話が切れる。まだあんまり会話していないのに。やっぱり忙しかったのかなぁ。疲れてたのかなぁ。そんな事を思っていると背後に気配。怖いと思っている内に後ろから抱きしめられている。それはよく知っている温もり。恐怖だった気持ちは驚きに変わり、最後は嬉しさに。

「真島さん…。」

「家の前で驚かしたろかと思ったけど声聞いとったら我慢できんかったわ。」

私と同じ気持ちだったことに思わず笑みが零れる。ほな、帰ろかと手を差し出している。いつもと違うなぁと思いながらも私はその手を取る。真島さんはいつも黒い手袋をしている。何か意味があるものなのかは分からない。けれどそれを外す時は限られている。お風呂に入るとき、寝るとき、そして情事のとき。とても限定的だ。だからこそ今のこの状況がとても珍しいなぁとそんな事を思ったのだ。

「明日は1日ゆっくりできるから久し振りにどっか行こか?」

「そうですね…。」

真島さんからは見たい言うてた映画でもええし、買いもんやったら好きなもん買ったるでと言っている。嬉しい提案だ。いつも真島さんはこんな風に会えない時間を補う為に私を甘やかしてくれる。十分過ぎるほどに。そしてそれは時々申し訳ない気持ちにさせられる。

「私は家でゆっくりしたいです。」

「ほんまにそれでええんか?」

考えた末に出た答えがこれ。月灯りに照らされた真島さんの顔を見ると少し疲れた様子だった。無理して来てくれたんじゃないかとそんな風に思う。映画は家でも見れるし、買い物はいつでもできる。ならば、明日はゆっくり真島さんと過ごしたい。

「名前はほんまにエロいのぅ…。」

「えっ…?」

急にテンションが変わった空気。真島さんはイヒヒと笑いながら繋いだ手を一つ一つ指を絡ませた繋ぎ方にかえる。それは何となく情事の繋がっているときを彷彿とさせるようで一気に身体に熱が帯びる。

「部屋でするこというたら一つしかないやろ。」

「色々ありますけど…。」

真島さんの思うことはひとつ。でも私もそうだ。早く家に帰って真島さんに甘やかされたい。結局の所、まだまだ大人といっても根は子供なのかもしれない。
ならば、ここは素直になってしまった方がいい。

「真島さん、私も会いたかったです。」

「可愛いこと言うてくれるやないか、名前。」

絡ませた指をぎゅっと握り、家まではあと少し。綺麗な月の下で今日も好きな人と過ごせる。幸せだなぁ。今日も私は大人と子供の狭間で揺れ動きながら今宵はオンナとしての夜を過ごす。


***


1周年記念のお祝いに、仲良くしていただいている『Endorphin』のmame様からステキなステキなお話をいただきました。本当にありがとうございます!

[ ←back ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -