▼ Happy!Birthday!
別に取るに足りないこと。そう、365日の内の1日。
それでもいつもと違う今日という日。
日付が変わる頃から仲の良い友人からデコレーションされたメールやら電話やらで今日が自分の産まれた日である事を実感する。
嬉しさ半分恥ずかしさ半分。そしてふと携帯を見て溜息をひとつ。
本当に言ってもらいたい人にはまだ言ってもらえていない。
言った訳ではない、知っている訳がない。
それなのにどうしてそんな風に思うのか。
好きだから。
言ってもらいたいのに自分はその大切に温めた気持ちを持て余しているだけ。
要は相手に自分の事は特別とは思われていないということ。
折角の特別な1日なのにいつもと変わらず仕事を終えて帰るだけ。
それでもちょっとだけ期待を込めてあの人がいる街へ。
今日も変わらず赤いネオンが輝く通り、特になにもすることもなく歩く。
連絡すればきてくれるかもしれない。
それでもしない。
偶然に期待したいんだ。
出逢えたら想いを伝えよう。
そんな風に自分の中での小さな賭け。
そんな賭けは見事に私の負けだ。
あの人が行きそうな所に顔を出してみたが、どこにもいない。
やっぱり私とあの人には縁がなかったんだ。
気づけば今日も終わりの時間。
自分だけの特別な1日が終わりを告げる。
帰ろう。
持て余した想いはまた自分の心の中にそっと仕舞いこむ。
これで今度、偶然会ったときにも平静でいられる。
また“オトモダチ”という関係で甘んじることができる。
来た道を戻るようにまた赤いネオンの入口の通りまでたどり着く。
特別な1日の魔法が解けるかのように。
通りまであと少しというところで私の歩みが止まる。
ゆっくりと息をのむ。
いつもと同じその姿。
素肌にパイソンのジャケット、レザーパンツ。
そして私を見て笑うその顏。
どうやらまだ勝負は終わっていない。
「名前ちゃん、探しとったで。」
「えっ…。」
まさかの第一声に動揺してしまう。
探していた?
「家まで行ったんやけど、おらんようかったから方々探してやっと見つけたで。」
「どうして…?」
「そりゃ、今日は名前ちゃんの誕生日やからのぅ…。」
ゆっくりと真島さんは私に近づいてくる。
その度に私の鼓動が速くなる。
「誕生日おめでとう。」
「…ありがとう…ございます。」
早く言わなきゃ。今ならベストタイミング。
それなのに、うまく言葉がでてこない。
そんな様子に真島さんはなんや嬉しそうやないなぁと言って私の顔を覗き込む。
突然の行動に私の顔に熱がこもる。
恥ずかしくなって私は俯く。
いつもそうだ。
真島さんは何も気にすることなくこんな風に自然に私の中に入り込んでかき乱す。
私の事をどう思っているのかはわからない。もしかしたら他の女の子にもしているのかもしれない。
でも、期待してもいいかな?
今日は特別な日。
探してくれていたという言葉を信じて、そっと自分に魔法をひとつ。
「…真島さん…好き。」
私の言葉にちょっとだけ驚いた顔をした真島さん。
やっぱり迷惑だったんだろう。
…やっぱり嘘ですと言いかけた言葉は言えなかった。
唇に触れる柔らかいもので封じ込まれた。
反射的に閉じた眼を開けると嘘ではなくて本当。
真島さんが私に口づけをひとつ。
「名前ちゃんに先に言われもうたのぅ…。」
「嘘…。」
「嘘やあらへん。今日、会うたら伝えようと思てたんや。」
いつものようなへらっとした顔ではなく真面目な顔。
どうやら本当のようだ。
「ほんなら行こか。」
「えっ…?」
「プレゼントは置いてきたんや。一緒に来てくれるか?」
「…はい。」
差し出された手をぎゅっと握る。
どうやら賭けは私の勝ち。
長かった想いは特別な1日のおかげで伝えることができて想いが通じた。
今まで生きてきた中で最高の1日になった。
*
「ここにプレゼントあるんですか?」
「せや、ごっついの用意したで。」
辿り着いた場所はピンクの派手なネオンのホテル街。
思わず、ちょっと後ずさりしていると腕をしっかり掴まれて耳に吐息がかかる。
「今日はゴロちゃんを好きなようにしてええで。」
耳が熱くなって動けない私。
それでもその手は離せずそのままホテルの中へ。
誰にも言えないごっついプレゼントを私はその日もらった。
***
mame様よりお誕生日のお祝いとしてゴロちゃんのお話をいただきました。ありがとうございます!