いろんな人の部屋 | ナノ


▼ フェアゲーム

薄暗い中、ひとつのデスクだけ煌々と灯りがついている。
二年前に神室署組織犯罪対策課に配属となった後輩にあたる女、みょうじなまえのデスクだ。山積みになった書類を漁ったり、ノートパソコンのディスプレイを睨んだり、無駄に忙しそうだ。

「よぉ。まだやってんのか?」
「あ、黒岩さん」

今、みょうじが真剣に追っているのは例のモグラだ。まだ煙ような存在でしかなく、頭を抱えている姿をよく見かける。ある程度輪郭を捉え始めている人間がいるとすれば、それはここの刑事たちではなく『俺の』名付け親、インチキ弁護士からインチキ探偵に転職した八神だろう。

「そう簡単にモグラは尻尾を掴ませてはくれませんね」
「そうだな」

危うくクツクツと喉を鳴らしそうになった。ペーペーの新人刑事にそう簡単に尻尾なんか掴ませるか。

「次の事件が起こるのも時間の問題だっていうのに」
「どうしてそう思う?」
「東城会と共礼会の対立が激化しています。羽村の弁護をした新谷正道はその抗争に巻き込まれてしまった……。そのうち多くの一般人も犠牲の対象になるのではと考えています」
「なるほどな」

全くの見当はずれ。この事件がヤクザ同士の喧嘩だと考えている時点で終わってる。神室署にいる刑事全員がそう考えているだろう。ただ、八神はその線を疑い始めている。インチキとはいえ弁護士をやっていただけあって推察力が鋭い。八神と組んでいる元ヤクザの海藤とかいう男もやけに勘が働く男のようだ。
考えるほどでもないが、もし俺の正体が暴かれるとしたら……、どうせなら八神たちではなくみょうじに暴いてもらいたい。そのほうが面白いからな。
目の前にいるこの俺が、刑事で先輩のこの俺がモグラだと知ったら、お前はどんな顔をするんだろうなぁ。それを想像したら妙に背中がぞくぞくして気分が高揚してきた。

「なぁ、そろそろ終わるんだろ?」
「はい。でもまだ目を通していない捜査資料が溜まってて……」
「あまり根を詰めるのは仕事効率を悪くするぞ。たまには息抜きも必要だ」
「えっ?」

みょうじにヒントを与えてみようと思う。俺がモグラであるというヒントを少しずつ。白い紙をほんの少しだけ黒いインクに浸すようなイメージで。黒が白を端から中心へじわじわと侵蝕していく。その紙が黒一色になった時……、一体どうなるんだろうな。

「雰囲気の良いバーを知ってる。付き合ってくれないか? もちろん俺の奢りだ」
「でも」
「ここは先輩の言うことを聞いておいた方が賢明だぞ。それに、お前の眉間に皺を寄せた顔以外も見てみたいしな」
「わ、わかりました。でも少しだけ待ってください。すぐ終わらせますから」
「それじゃあ外で待ってる。急がなくていい、ゆっくり準備しろ」

ゲームを楽しむならお互いフェアでなければならない。
お前に俺を探らせるんだ、俺もお前を探らないと。お前がどんな人間でどんな女なのか。その崩れない真面目な表情の下にどんな顔を隠し持っているのか。全部暴いてから俺の真実を教えてやる。
みょうじに背を向けた途端、口元が緩み舌なめずりをした。……楽しくなってきたな。


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