Story from music | ナノ


▼ くちづけからはじめよう

こんな時、どうしたらいい?
私は今すごく困っている。
真島さんが……落ち込んでいる!

「真島さん?」
「なんでもあらへん言うとるやろ……」

名前を呼んだだけなのに、その後に続くであろう言葉を先読みされてしまって、私はその言葉を呑み込むことしかできない。
あの軽快で覇気満々たる真島さんは何処へやら。力無い声、溜め息も聞こえる。
何があったかはわからない。
でも何かがあったことはわかる。
ソファに座ったまま一点を見つめて考え込む真島さんを見たことがないから、必死にいろんな策を講じてみるものの、脳内にいるいつもの真島さんにすべてを阻止される。
どんなに言葉を尽くしても彼には敵わない。
感情的になっているなら特に私の励ましなんて届かないだろう。

「真島さん……」
「……なんや、まだそこに ――」

言葉で伝えられないなら直接。
機嫌が悪い時に出す低く響いた声を私の唇で受け止めた。

ごめんね、真島さん。
落ち込んでるってわかってるのに何もしてあげられなくて。
元気を出してもらえるような言葉を何一つ掛けてあげられなくて。
こうすることしかできなくて、ごめんね。

そんな気持ちを込めて、そっとキスをした。
いつもならすぐさま真島さんから攻めてくるはずなのにその気配はない。
相当落ち込んでいるのか、それとも私の行動に怒ってしまったのか……。
恐る恐る唇を離すと、私を見つめる真島さんと目が合ってドキリ、と心臓が音を立てた。

「真島さん、元気出して」
「なまえ……今の、ええな」

そう言われて気づけば真島さんの腕の中。
いつもと違うのは、抱きしめる腕の力がいつもより強いこと。
抱きしめるというより、しがみつくのほうが合っているかもしれない。
私は手を回して、優しく真島さんの背中を擦る。
すると今度は真島さんが私と同じようにそっとキスをしてきた。
柔らかくて優しいキス。
ああ、本当は彼もたくさん私に話したかったのかもしれない。
でも私と同じように言葉にできなくて呑み込んでいたのだと思う。
だから今こうしてキスで心の言葉を紡いでいるのだ。
今は思う存分、真島さんに唇から想いを注いでもらおう。
少しずつ深くなっていくキスに身を委ねる。


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