Story from music | ナノ


▼ 指だけでは伝わらない

真島さんの体調は大丈夫だろうか……。
しばらくグランドで真島さんの姿を見ていない。遠回しに店長に聞いてみたが『忙しくしている』ということしかわからなかった。

「みょうじさんのこと『無理してへんか?』って心配してたよ」

店長に聞くなら直接私に聞いて欲しかった。
仕事が終わり、グランドを出てから私はポケベルに届いたメッセージを眺めていた。
私を気遣うメッセージや真島さんが決めてくれた "58(ご飯)158(行こや)" のメッセージが蒼天堀のネオンに照らされている。
ポケベルの番号を知っているのだからメッセージをくれてもいいのにと思っていたが、本当に忙しくてそれどころではないのかもしれない。

(待ってるだけじゃ、駄目だよね)

そんな考えが浮かんだ私を呼び寄せるかのように、道端にある電話ボックスが夜の中にぼんやり浮かんでいて、迷わずその薄汚れた扉を開いた。
パチパチと音を立てながら不規則に点滅する黄色っぽい蛍光灯の下、緑色の受話器を手にして10円玉を数枚入れるとガチャリ、とコインが中に落ちて受話器からツーと音が鳴った。
あんなにメッセージを送ると意気込んでいたのに、いざこうして狭い電話ボックスの中に立つと指が震える。
いつもの私なら送るのを止めていたはず。でも、今日はおかしいくらいに込み上げてくる感情が抑えられず、戸惑っていた人差し指に力を込めて数字のボタンを押した。

0203(真島さん)1871(会えない)3341(寂しい)

彼女でもないのにこんなメッセージ……でも、本心だった。
嫌われてしまうかもと思いながら#を2回押してメッセージを送った。
いつの間にか外で待っていた中年の男性に電話を譲り、ポケベルを握り締めて家に向かい歩き出したものの、ひょっとしたら真島さんから "58(ご飯)158(行こや)" とメッセージが来るかもしれない。そんな期待からいつしか足は自宅とは逆方向へ。
公園のベンチに座ってみたり、喫茶店に入って意味もなく紅茶を頼んでみたり、いつ来るかもわからないメッセージを待ち続けたが、ポケベルはいつまで経っても鳴らなかった。

「そう、だよね」

忙しいと言っていたんだからすぐに見るとは限らない。もしかしたら迷惑だったのかもしれないし、迷惑以上に本当に嫌われてしまったのかも……。
私の甘い期待は負の感情に溶けて無くなり、途方に暮れてネオン輝く街中をとぼとぼと歩いているとマハラジャが見えてきた。
以前、真島さんからストレス発散に時々踊りに行くと聞いていた私は、行き場のない感情をどうにかしたくて大音量のディスコミュージックに合わせて一人踊ることにした。
DJに曲を頼んで踊り始めると、知らない男たちが寄ってきて話しかけてくるが何も耳に入ってこない。
私が会いたいのは真島さんなのに。
ミラーボールやスポットライトが照らしているはずなのに、まるで暗い海の中にいるようで、私はもがくように一心不乱に一人踊った。

メッセージ、送らなきゃよかった。



疲労感で身体がフラついてきた頃、口説いてくる男たちを押し退けてマハラジャを出た。
諦め悪くポケベルを見たがメッセージは届いておらず、勢いに任せてしまったことを後悔した。
お店で真島さんと会ったらどんな顔をしたらいいんだろう……。
そんなことを考えながら歩き続け、自宅マンションが見えてきた。すると入口近くの壁に背を凭れて腕組みしている人影が見える。
少しずつ近づくにつれ、それが見覚えのあるシルエットだと気づいて急いで駆け寄ると、そのシルエットの人物は嬉しそうに微笑んだ。

「なまえちゃん、待っとったで」
「真島さん?!」

強く腕を引かれてぐらりと揺れた身体は真島さんの腕に受け止められ、一気に香水と煙草の香りに包まれた。

「俺も寂しかったで、なまえちゃん」

私のメッセージが届いてすぐに真島さんはここにやってきたが留守だった為、ずっと待っていてくれたらしい。
すれ違いになりたくなくて、ここから動けずメッセージを送れなかったと……。
私がまっすぐ家に帰っていれば真島さんを待たせず済んだのにと心から謝った。

「どこか行っとったんか?」
「……マハラジャに、行ってました」
「マハラジャやて? 一人でか?」
「真島さんからメッセージが来なくて……、どうしたらいいのかわからなくなって……」
「ヤケ起こしたんか? あないなとこ一人で行くもんちゃうで。ろくでもない男が寄って来たやろ。今度行く時は俺と一緒やないとあかんで」

私の身体を抱き締めたまま大きな手が優しく頭を撫でて「メッセージ、嬉しかったで」と耳元で囁かれた。
真島さんに会えた嬉しさと、嫌われていなかったことへの安心感に涙が浮かぶ。

「真島さん……、会いたかっ――」

顔を上げて素直な気持ちを伝えている途中で唇が唇に塞がれた。
チュッと音を立て離れた真島さんの唇から漏れた熱い吐息が私の肌を撫でた。

「なまえちゃんっ……!」

そのままマンションの壁に身体を押し付けられ、私は真島さんとお互いの寂しさを舐め合うような深いキスをした。




---イメージ曲:刹那の人魚姫-Heart break mermaid-


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