東徹の部屋 | ナノ


▼ クローズド・オアシス

憧れのシャルルにバイトとして雇ってもらってから三ヶ月が経過した。
大学生にもなってゲーセンなんて、と友達から小言を言われたが、私の癒しはゲームであり、そしてこのシャルルが癒しの空間。
動画でしか見たことがなかった古い筐体が稼働しているシャルル。東店長に「休憩中と仕事終わりになら遊んでいい」と許可をもらってプレイしている。お金も稼げて憧れのレトロアーケードゲームで遊べるなんてまさに天国。それに東店長も何気にカッコいい。この前のお昼休憩中、話の流れで好きなタイプとか彼氏はいないとか、そんなことを話してしまった。
東店長ともし、もし、良い仲になれたら──。

「フンッ、まーたやられてんぞ」
「え? あっ!」
「大事なとこでボケッとしてるからだ」

仕事終わり。業者からの電話が長引いた東店長から「先に帰っていい」と言われたが、先に帰るなんてもったいない! いつもよりゲームを長く遊べるチャンス。「店長の電話が終わるまで遊んでます」という言葉を両手の人差し指に乗せていつも遊んでいるゲーム機を指差すと、電話で話しながら呆れたように笑った東店長が頷いた。
それから夢中になって遊んでいたのだが、いつの間にか電話は終わっていたらしい。しかもよこしまな考えを思い浮かべていた私の顔を見られていたことにカーッと全身が熱くなった。

「お電話終わったんですね」
「ああ。それに気づかないくらいの考え事か?」
「え、えっと……、最後のボス、勝てないなぁって」
「へぇー、ボスまではいったのか」
「はい」
「じゃ、電話に付き合わせた礼に、ラスト一回遊んでいいぞ」
「ホントですか?」
「ああ。ちなみに俺はこのゲーム、クリアしてるからな」
「店長もゲームするんですね」
「一応客にやらせる前にどんなゲームか確認すんだ。クリアできねえっていちゃもんつけてくる輩がいるからよ」

口調は少し乱暴だけど東店長は真面目だ。少し寒くてくしゃみをすると「暖房入れてやろうか?」と言ってくれたり、忙しくて残業した日は「お疲れさん。頑張ってもらった礼だ」とコンビニでスイーツをわざわざ買ってきてくれたり。何かと気遣ってくれて、とても優しい。東店長はそんな人だ。

「ボス戦、どこがダメなのか俺がチェックしてやるよ」
「ええっ?! 緊張しちゃいます」
「ほら、もう始まってんぞ」

隣のゲーム機の前にあった椅子を引っ張ってきて、私の斜め後ろに陣取った東店長がお金を入れて強制的にゲームスタート。
昔ながらのBGMが賑やかに鳴っているのに一番聞こえるのは私の心臓の音。それは東店長の香りがすぐ傍にあるせいだ。煙草をたくさん吸うから、香水はその臭い消しだと言っていた。私はその煙草の香りも香水の香りも好きだから、それをこんな近距離で感じてしまうとゲームどころではなく……。
案の定、ボスまでは辿り着いたがあっけなくやられてしまった。

「あぁ……、負けちゃいました」
「残念だったな」

後ろからフッと楽しそうな笑い声が聞こえた。
「やっぱり強いですよねぇ、また今度頑張ります」。そう言って終わると思っていた。でも、終わらなかった。画面に『Continue』の文字が表示され、カウントダウンが始まっている。
5、4、3、2、ちゃりん。
1になる前に東店長がゲーム機にお金を入れた。

「店長?」
「このボスをやっつけんのにはな、コツがあんだよ」

ズズズ、と椅子の脚が床を擦る音が響く。東店長が私の真後ろに移動した。

「あ、あ、あぁのっ」
「しっかり画面見てろよ」

背後から伸びてきた東店長の手が、スティックとボタンに置いている私の手に重なった。

(背中に……、くっついてる?!)

あたたかな温度が背中にある。そしてより強くなった東店長の香り。ほぼ抱き締められている状態で私の手は東店長に操られていた。

「いいか? ここはこうしてっ、上に避けてからボタンを連打するんだ」

肩越しに東店長の顔があるのがわかる。こんなに甘ったるい低い声を出す人だったっけ? 時折頬や耳に感じる吐息がくすぐったくて身を捩ると、逃がさないとでも言っているようにぎゅっと手を握られた。

「ほら、あと少しだ。みょうじの好きなように動かしてみろ」
「……はい」

好きなようにといいつつ東店長が動かす方向を誘導してくれる。華麗なスティックさばきにドキドキしているのか、それとも東店長にドキドキしているのか。きっと、両方だ。
ほぼ身を委ねるような感じで操作していたら、ボン、ボン、バリバリ、とボスが何度も煙を上げ、その姿は崩れて消えた。
初めてこのゲームを制覇した。東店長との共同作業で。画面には『CLEAR!』の文字が浮かんでいる。それが消えると画面は一瞬真っ黒になった。鏡のようになった画面に私と東店長が映り、その中で目が合う。

「っ……」
「クリア、したな」

大きな息を吐いた後、離れた東店長の手が私の腰に回った。今度こそ、完全に抱き締められた。

「ひが、し、てんちょ」
「もう……、我慢すんの無理だ。おまえのこと、好きなんだ」
「っ!」
「たまんねえんだよ、おまえの笑った顔。こんな埃っぽいちっぽけな店なのにいつも楽しそうで、ニコニコ笑って。最初はなんでもねえただのバイトだったのによ、嫌なことがあってもおまえの笑顔見たら、そんなもんすぐに吹っ飛んじまう」
「店長……。わ、私……」
「……その店長っての、仕事以外の時間はもうやめにしねえか? 彼氏、いないんだろ? 俺も仕事が終わったらおまえのこと、その……、" なまえ "って呼ぶからよ」

心臓が爆発しそうだった。
この憧れのゲームをクリアしたら、きっと天にも昇る気持ちになるんだろうなって思ってた。でも、そんなのとは比べ物にならないくらい東店長からの言葉が嬉しくて、苦しいほどに胸がいっぱいになった。


「俺じゃ、ダメか?」
「東、さん」
「……そうか。呼んでくれんのか、なまえ」

首を横に向けると東さんの髪が頬に触れた。
ちゅっ、と軽く頬にキスをされ、それから唇にも。
レトロゲームは聞き慣れたBGMを奏で始め、チカチカと眩しい光が私たち二人を照らしていた。


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このお話は、『Twenty Four Seven』のユキ様とTwitterにて、PS4でスクショした東から発展した妄想を、同じシチュ、ワードで固定して書いてみよっか、ということになり生まれたお話です。
→ ユキ様のサイト【Twenty Four Seven

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