東徹の部屋 | ナノ


▼ 悪魔の宴

眩しい光と音を放出していたゲーム機器の電源が落とされた。
清掃を終えた店員さんが「お疲れ様でした。お先に失礼します」と私たちに気を遣ったのか先に帰ってしまい、静寂が訪れた店内には東さんと私の二人きり。

「遅くまですまねえな。結局掃除まで手伝わせちまって」
「いいんです。人手が多いほうがすぐに終わるし」

シャルルは小さくてレトロ感漂うゲームセンターだが、東さんの人柄もあってか子供たちが懐いてよく遊びにやって来る。
今日はハロウィン。東さんは特に何もする気はなかったようだが、せっかく子供たちが来るならと簡単ではあるが店内をそれっぽく飾ってみた。もちろんコスプレも。私は足首まである真っ黒な魔女のドレスとマントを羽織って子供たちにお菓子を配った。東さんと店員さんにも「コスプレしてもらわないと」と半強制的に悪魔の角が付いたカチューシャを装着。それを見た子供たちは「東、何それ! ギャハハ」と彼をからかい、東さんは顔を真っ赤にして「うるせぇ!」と照れ笑いならぬ照れ怒り。
何はともあれ無事にシャルルのハロウィンイベントは終了、余韻として残っているのは私と東さんのコスプレだけ。

「今日はありがとな。助かった」
「子供たちが喜んでくれてよかったですね!」
「まぁ、そうなんだがよ。あの……、なぁ、一つ聞いてもいいか?」
「何ですか?」
「なんで、ソレなんだ?」
「それ?」

東さんが伏し目がちに私に向けて軽く顎をしゃくった。どうやらこのコスプレのことらしい。魔女というより死神っぽかっただろうか。

「この服のことですか?」
「お前ならもっと……、他に似合うのがあっただろ」
「他のって?」
「わ、わかんだろ、そんくらい!」

また東さんの顔が赤くなっている。こういう全身を隠すようなやつじゃなくて、セクシーなのがご希望だった……とか? 探るように東さんの顔を覗き込んだら目を逸らされた。

「子供たちが来るのにその "他の" は着れないです」
「そ、そうだな」
「ただ、私はこんなコスプレで終わるつもりはないですよ」
「どういう意味だ?」
「これ、外してみてください」

マントを取って背中の留められたボタンを指差した。

「は、外してって、お前……」
「早く」

戸惑いながら東さんの手がボタンに伸びて、もどかしいくらいにゆっくりとそれをひとつ、またひとつと外していく。
ワンサイズ大きなものを着ていたので、ボタンが全て外され、袖から腕を抜けば自然にシュルッと音を立ててドレスが落ちた。

「魔女から悪魔に変身! ……なんちゃって」
「こ、これ……、わざわざ仕込んでたのか?」
「これでお揃いです。東さんと」

すっかり取るのを忘れている東さんの悪魔の角付きカチューシャ。私の言葉で思い出したのか慌ててそれを取ろうとするので、思わずその手を掴んでしまった。

「ま、まだハロウィン中ですから。……あっ」

腰に手を回されたかと思った途端、そのままグッと引かれて東さんに抱き締められた。私の首に触れている東さんの頬が熱い。

「他の女の子に目移りして欲しくなくて」

ハロウィンの夜はキレイで可愛い女性たちが、惜しみなく肌を露出させて歩き回っている。シャルルを出たらそんな人たちがたくさんいて、東さんに色仕掛けで迫ってくるかもしれない。
それが嫌で、恥ずかしいけれどそれなりにセクシーな悪魔のコスチュームをドレスの下に着ていたのだ。

「ヤベェ……」
「東さん?」
「可愛過ぎんだろ、お前」
「東さんだってカッコいい悪魔です」
「悪魔にカッコいいとかあんのかよ」
「それを言ったら可愛い悪魔もいないんじゃないですか?」
「いるだろ? ここに」

東さんの親指が私の唇を撫でた。
今日はハロウィン。残り少ないこの夜を、悪魔同士悪戯し合うのも悪くない。


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