ポニテとテクノと私 | ナノ


▼ 08:刹那的温度

薄っすらと広がる意識の中にジュージューと何かが焼ける音、そしてコーヒーの香り。
それらが寝坊した事実を告げていることに飛び起きてスマホを見る。

「8時40分……。寝坊しちゃった」

セットしていた24時間シンデレラを無意識に止めてしまっていたらしい。
昨日は疲れてお風呂に入ってからすぐベッドに入ってしまったから、早起きしてゴロちゃんの朝食を準備しようと思っていたのに。きっと何も食べずに仕事に行っただろう。
そしてこの目覚まし代わりのいい匂いは、真島さんが作ってくれている私たちの朝食の匂い。
パジャマのまま寝室を出て、キッチンに立っている真島さんに頭を下げる。

「真島さん、ごめんなさい。目覚ましセットしてたんですけど」
「アイツなら仕事に行ったで」
「ゴ、ゴロちゃん?!」

華麗にフライパンを返してオムレツを作ってくれていたのは、真島さんではなくゴロちゃんだった。

「え? バイトは?」
「お前が調子悪そうやったから休んだ。せやから今日はお前も休みやで。俺から連絡入れればオバはんも文句言えんやろ」

そんなことを言いながら出来上がったオムレツを皿に盛り付け、テーブルに並べていくゴロちゃん。さすが支配人、手際が良い。

「すごくいい匂い」
「せやろ? それにしても……ヒドい寝ぐせやなぁ」
「あっ」

伸びてきたゴロちゃんの手がハネた髪を何度か撫で付けるようにした後、そのまま私の腕を掴み自分のほうへ。
薄い生地のパジャマにゴロちゃんの熱が入り込んで、すぐに私の肌へ伝わってくる。

「可愛えな。パジャマ姿もええで」
「朝ご飯……、冷めちゃう」
「せやな。今日は休みやし、アイツもおらんし。……二人でゆっくりしよや」

ゲーム中では聞いたことのない誘うような低い声、見たことのない熱を宿した隻眼。
その言葉の意味を理解した私は、静かに頷いてパジャマ姿のまま食卓の席に着いた。





「柊」

感じた甘い予感のとおり、私はゴロちゃんと身体を重ねた。
お互いの存在を確かめ合うように優しく激しく。
行為が終わった後も熱は冷めない。

「後悔しとらんか?」
「ゴロちゃんは後悔してる?」
「するワケないやろ」
「私も同じです」

本当は私が先に訊きたかった。
私なんか抱いてよかったの? と。

「柊の身体あったかいな。いや、熱いくらいや」
「離れましょうか?」
「ちゃうちゃう。そういう意味やない。……お前のこと、ちゃんと感じられて嬉しいんや」

ゴロちゃんが力を込めてぎゅっと身体を抱き締めてきたので私も抱き締め返した。
いつか真島さん二人に帰る日がやってくる。
来た時のようにテレビとパソコンのディスプレイに繋がる不思議な道を通って行くのか、それとも朝目覚めたら突然何もなかったかのようにいなくなっているのかもしれない。
未来はわからないから……今あるこの瞬間を、ゴロちゃんを思いきり感じたい。

「好きやで、柊」
「私も好きです。ゴロちゃんが私を好きになるよりもずっと前から」
「ああ、せやな」

私たちは何度もキスをして、何度も抱き合った。
しばらくそうして、幸せな疲労で瞼が重くなってきた頃。

「少し寝たらええ」
「うん」

ゴロちゃんの胸に擦り寄り、頭を撫でてもらう。
すぐに気持ちよくなって自然と閉じていく瞼に逆らうことなく睡魔に身を委ねた。

ガチャリ──

意識が途切れる直前、そんな音を遠くで聞いた。


back / next


◆拍手する◆


[ ←back ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -