ポニテとテクノと私 | ナノ


▼ 04:好きは置いてけぼり

真島さんたちが来てから数日が経過した。
もちろんこの二人と過ごす日々にはまだ慣れない。
ゲーム中での姿しか知らない私にとって、毎日夢を見ているような感覚からはなかなか抜け出せない。
家の中ではくつろいでもらいたいと思い、ドンキで買ったトレーナーやTシャツを着てもらっている。そんな格好をもちろん見たことがないから、それはそれはとても、カッコいい。

「おはようさん。柊ちゃん、もう起きとったんか?」
「お、おはようございます。今、朝ご飯作ってます」

上半身裸で黒のスウェットパンツを履いた真島さんが起きてきた。
寝癖のついた髪と伸びた無精髭。本当にここで真島さんが生きてるんだなと実感する。
本来、就寝時は下着のみらしいが、私のベッドに入ってくるならとそのスタイルはご遠慮いただいた。見ちゃいけない気がする……見たいけど。

「アイツは?」
「バイトに行きました」
「もう行ったんか」
「早朝シフトで、朝5時から10時までの勤務になったみたいです」

ゴロちゃんは私が働いているコンビニで働き始めた。
オーナーの奥さんが相当気に入ったらしい。
真島吾朗に似ていると客に絡まれるのも心配だけど、奥さんからセクハラされないかがかなり心配……。でも、ゴロちゃんなら上手くスルーしてくれるはず。

真島さんは朝起きたらすぐにシャワーを浴びる。毛穴を開いて髭を柔らかくしてからシェービングするらしい。
朝ご飯の準備をしながら聞こえてくるシャワーの音。そして真島さんの鼻歌。
生々しくて恥ずかしいけれど、なんだか幸せな気分になる。
今日はフレッシュ野菜のクロワッサンサンドとふわふわオムレツ、しめじとベーコンのコンソメスープにしてみた。
適当でええで、と言われている。自分一人の時はたしかに適当だったけど、食は身体の資本。真島さん二人が元気でいられるかどうかは、私が作る食事にかかっている、と思うと当然気合いが入る。

ドアが開く音がした。どうやらシャワーを終えたらしい。私が作っていたスープもちょうど出来上がった。
食事をテーブルに並べていると、洗面所から真島さんの大きな声。

「柊ちゃん〜! 替えの刃、そっちにあるか?」
「あります! 今持っていきますね」

オシャレな真島さんは髪はもちろん髭もこだわっていて、ドンキで買ってきて欲しいリストの中に、寝ている毛を起こしてカットする『クシ付き髭バサミ』、長さを整えるための『ひげトリマー』が書いてあった。電気シェーバーも買うんだろうなと思っていたが、使い慣れているT字カミソリがいいとお願いされ、できるだけ肌に優しいものを選んで買った。
急いで洗面所にカミソリの替え刃を持っていくと、頬から顎下までシェービングジェルに包まれた真島さんがいた。

「おおきに。助かったわ」

刃を替え、髭を剃っていく真島さんが鏡に映っている。
濡れた髪のまま、顎を上げ、頬を膨らまし、右へ左へと首を動かす仕草がすごくセクシーで目が離せなくなってしまった。
髭を剃り終わったらジェルを洗い流して、ローションや乳液で肌を整えるのだろう。きっとその肌の触り心地といったら──。

「そないに見つめられたら照れてまうわ」

ついつい見とれてしまい、鏡の中の真島さんとバッチリ視線がぶつかった。

「ま、真島さんが髭を剃るシーンなんてゲームではなかったから」
「ほぉ〜。ほな、他の奴はそないなシーンもあったんか」
「桐生さんのシャワーシーンはありました」
「なんやて?! 柊ちゃん、見たんか?」

それはシャワーシーンのこと? それとも桐生さんのブツを、ということ?
どっちの意味にも取れてしまい、当たり障りのない「上半身だけ」という程度の返答に留めておいた。

「なんや恥ずかしいわぁ。俺らは見せもんちゃうで」
「そう……ですよね、ごめんなさい」
「ま、柊ちゃんにそない顔赤くされて蕩けた目で見つめられたら……、俺もおかしな気分になってくるで」

囁くように発せられたその声は、真島さんが挑発する時に出すような低い声。溢れ出る真島フェロモン。

「わ、私」
「今日はしばらく俺と二人きりやからなぁ。何でもできてまうなぁ、柊ちゃん」

鏡の中の真島さんが片方の口角を上げてニヤリとする。私を捕らえて離さない眼は楽しそうにしているが、その奥に男の欲が見え隠れしている。

「な、なな、何言ってるんですか! あ、スープ、冷めちゃいます! 温め直してきま──」

踵を返してキッチンに戻ろうとしたところを背後から抱き締められた。
肌と肌が触れた部分から真島さんの体温が入ってきて、熱くて溶けてしまいそう。

「可愛えなぁ」
「……も、もぉーっ! 真島さんいっつも私をからかって!」
「ヒヒッ。ウブな柊ちゃんにはちぃと刺激が強すぎたかのう?」
「ご飯! 準備してきますからっ」

腕を振りほどき、私は逃げるようにキッチンへと戻る。

「からかっとるつもり、ないんやけどなぁ」

私の背中に聞こえるか、聞こえないか、くらいの声で言われたその言葉。
どう受け取ったらいいのだろう。

「だって……、こんなに好きなのは私だけじゃないですか、真島さん」

私も聞こえるか、聞こえないか、くらいの声量で、その言葉を温め直しているスープの中に閉じ込めて蓋をした。 

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