ポニテとテクノと私 | ナノ


▼ 02:三人の朝

スマホにセットした真島さんが歌い出した。……朝だ。
アラームを止めようとベッドに横たわったままそれに手を伸ばすと、もうひとつ伸びている別の手とぶつかった。

「っ?!」
「まだ……早いやろ」
「ん、んんっ?!」

驚いて目を開くとすぐ隣にパイソンの真島さんが横たわっている。

「ちょ、ちょっと! どうしてここに真島さんがっ」
「小さいこと気にすんなや。こんだけベッド広いんやったら二人で寝たほうが効率ええやろ」

昨日、あれから真島さん二人はリビングで寝ると言って、どちらがソファで寝るか争っていた。
私はもちろん自分のベッドで一人眠りについたはずなのに……、たぶんこの真島さんが床で寝る羽目になって勝手に私のベッドに潜り込んできたのかと。

「そういう問題じゃないですっ」
「柊ちゃんは俺のこと好きなんやろ?」
「それはっ」
「ほんならええやん」
「あ」

もう少し寝てようや、と腕を引かれて再びベッドの中へ。
私の身体は真島さんの腕と足にしっかりホールドされた。

(それにしても真島さんの寝起き声、可愛すぎる……)





「なんであんた、柊と一緒に寝とんのや」
「この家の床エラい痛いし寒いねん。年食うたらお前もわかるわ」
「ここで寝る言うたやろ!」
「あぁ、若き日の俺、真面目やなぁ〜! そんなことばかり言うてたら身体がもたんで?」

どこかで聞いたあのセリフを聞きながらトーストを焼いて朝食を準備する。
幸い今日は休み。真島さんに必要な物を買いに行こうと思う。

「真島さん」

名前を呼んだら二人同時に「なんや?」と返事された。
どっちも真島さんだもん、そりゃそうなるよね……。
二人に何か頼みたい時は都合がいいけど、どちらか一方に用事がある時は困ってしまう。

「ん〜、お二人を呼び分けできたらいいんですけど」
「柊の好きに呼んだらええやないか」
「じゃ、じゃあ支配人の真島さんは……、ゴロゴロゴロちゃん?」
「俺が書いたハガキのペンネームやないか! そもそもゴロゴロゴロちゃんて長いやろ!」

俺の生活覗かれとるの恥ずかしいわ、と若干頬を赤くしている支配人の真島さん。……可愛い。
私のほうが支配人の真島さんより年上なので、彼をゴロちゃん、パイソンの真島さんは普通に真島さん、と呼ぶことにした。

「俺もゴロちゃんがええ! なんなら『吾朗』でもええんやで」
「さ、さすがに呼び捨ては照れます」
「まぁええわ。そのうち、『吾朗』呼ばせたるわ」
「っ!」
「ヒヒヒッ、顔真っ赤やで〜柊ちゃん」

真島さんにからかわれながら朝食をとった後、生活で必要な物を紙に書き出してもらい、出掛ける準備をする。
一人では荷物を持ちきれないだろうということになり、ゴロちゃんに付き添いをお願いした。

「ホンマに柊が金出すんか」
「だって、二人はお金持ってませんよね?」
「ない。せやけど女に金払わせるんは気に食わんのう。このカード使えんか?」
「この世界には存在しないクレジットカードなのでダメです」
「お前バイトやろ? 俺ら二人分やで。そないな金あるんか?」
「……つい最近まで公務員でした。だから、大丈夫」

高校を卒業してすぐに就職した役所を私は退職した。
貯金もそれなりにしていたし、退職金も貰ったから多くはないが三人でしばらく生活していける分は残っている。

「それじゃあ、ゴ、ゴロちゃん……」
「っ……、いちいち照れんなや。お前が呼び分けする言うたんやで」
「す、すみません。じ、じゃあ買い物、一緒にお願いします」
「俺もいーきーたーいー! 寂しいやんかぁ」
「同じ顔した二人を一緒に連れて歩けませんよ!」
「双子言うたらええやろが」

パイソンジャケット姿で歩かれたら間違いなく龍が如くを知ってる人だったら寄ってくるし、本格的なコスプレだと思われるならまだしも、本物の "ヤ" に絡まれる可能性もある。
真島さんに丁重にお断りし、ゴロちゃんには薬箱から医療用の眼帯を手渡して黒い眼帯と取り換えてもらった。

「……ダサっ」
「言うなや! わかっとるわ」
「それじゃ、行きましょうか」
「ほな、お土産待っとるでぇ〜」

真島さんに見送られ、私はゴロちゃんと共に買い物へと出かけた。

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