ポニテとテクノと私 | ナノ


▼ 09:望んでも望んでも

眠りの中から少しずつ浮上して、瞼を持ち上げると室内は薄っすらとした明るさで、陽が落ちてきているのがわかった。

「ようやくお目覚めか?」
「ゴロちゃん」

隣に寝ているゴロちゃんに手を伸ばす。が、伸ばしても伸ばしても触れるのはシーツばかり。
身体を起こすとベッドの縁に座っていた。

「ええ眺めやなぁ」

耳に届いた声、そして目に入るパイソン柄のジャケット。
まどろんでいた私の脳が一気に覚醒して咄嗟にタオルケットで裸の上半身を隠した。
座っていたのはゴロちゃんではなく真島さんだった。

「隠すことないやんか」
「ま、真島さん……」
「ぐっすり寝とったなぁ。相当激しかったんか? ま、溜まっとったからしゃあないわ、あの頃の俺。それにしても帰って来たら二人して裸で寝とったからビックリしたでぇ」

低く出されたその声を私はよく知っている。
真島さんが怒っている時に出される声色。

「仕事が予定より早く終わってのう。俺が家に居らんのをええことに二人仲良うセックスとはなぁ」
「……ゴロちゃんは」
「あ? アイツか? アイツにはちぃと説教したんや。今、頭冷やしにでも行っとるんちゃうか」
「説教って、なんですか?」
「ちょうど身体も鈍ってたとこやったんや」
「ケンカしたんですか?!」
「そないにアイツが心配か? 俺やのうて、支配人の俺のことが!」

怒りを露にした真島さんの声が怖くて反射的に目を瞑る。そして再び瞼を開くまでの間に身体はベッドに押し付けられ、真島さんが私の腹の上に跨っていた。

「柊ちゃん、自分が何したのかわかっとるんか?!」
「…………」
「俺ら、柊ちゃんの前から消えるんやで? 一緒に居られんようになるんやで? どんなにお互い好きや、愛してる言うても離れなあかん日が──」
「いいんです。それでも……」

私は真島さんの言葉を遮った。そんなことはずっと前からわかっていたから。
真島さんの鋭い視線がせつなく哀愁を帯びたものに変わった。

「あかん、あかんで柊ちゃん。俺らはええ思い出で終わるかもしれん。せやけど一人残されるのは柊ちゃんや。苦しむのは柊ちゃんなんやで!」

真島さんは優しい。いつも自分より相手のこと。
私の肩を押さえつけている真島さんの手に手を重ねて静かに涙を流す。

「好きって言えないほうが苦しいよ、真島さん」
「っ……」
「間違いなく今こうして真島さんは存在して生きているから、限られた時間であっても私は本気で真島さんを好きでいたい」
「せやけど!」

何気ない仕草や表情に惹かれていく。筋の通った考え方や言葉に心が動かされていく。今こうして真剣に怒ってくれていることにさえときめいている。
どんどん好きになるのを止められないのに、いざ別れの日を迎えたら「じゃあ、あちらの世界でもお元気で」だなんて。奇跡が起こったのにこんなあっけない最後を迎えるのが嫌だった。
それに真島さんたちと過ごした日々の記憶だってもしかしたら消えてしまうかもしれない。だから私は今、愛して、愛されたい。

「真島さん、好きです」
「ほんならどうして今まで言うてくれへんかったんや? 正直俺は何度かモーションかけたで。せやけど柊ちゃんはなんも言わんかった。柊ちゃんがその気やないのに手ぇ出せへんやろ。それやのに、なんでアイツには好きや言うて簡単に身体許してまうんや!」
「真島さんの心の中に思い続けてる人がいるから。だから、言えませんでした」

私の言葉に真島さんは一瞬言葉を詰まらせ、「何でも知っとるんやったな」と苦笑いした。

「ゴロちゃんと先にこういうことをしてしまったのは……ごめんなさい。でも、ゴロちゃんと真島さんを比べたことなんか一度もありません!」
「柊ちゃん」
「心から大好きなんです、真島さんのことが!」

半分叫んでいるような私の告白に真島さんは驚いた様子だったが、そうか、と肩から手を離して革手袋を外した。

「真島さんは私のこと、好きですか?」
「言ってええんか? 言ってもうたら、もう、我慢せぇへんで」

真島さんの手のひらが私の頬を包み、未だ自然と流れている涙を親指で拭っている。

「ホンマに、ええんやな?」
「はい」
「柊ちゃん、ずっと好きやった。好きになってもうた」

愛の言葉と共に唇に優しくキスされた。

「身体ツラいやろ? 今日はこれで我慢しとくわ」

真島さんはジャケットを脱いでベッドの中に潜り込むと、私の身体を引き寄せてギュッと抱き締めた。

「身体冷たいなぁ。冷えてしもたな」

汗が引いたせいもあり、たしかに身体が冷えていた。
それに喉も乾いている。

「……温めて欲しい」
「あ、な、なんや、無理せんでええんやで!」
「真島さん」

どうしてこんなに寒いんだろう。
今はただ、真島さんの温もりがたくさん欲しい。
私は真島さんの首に腕を回した。

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