お題 | ナノ


▼ Tシャツの下を今すぐ見たい

「なんで水着やのうてTシャツやねん」

隣にいる真島さんがビールを呷りながら口を尖らせてボヤいている。

「なまえさんのTシャツ、可愛いですよ!」
「ありがとう、遥ちゃん」
「ああ、俺も似合っていると思う。着たい服を着ればいい。柏木さんなんてスーツだからな」
「俺は真島に騙されてここに連れて来られたんだ。桐生、お前は俺が海にスーツを着てくるような馬鹿野郎だと思ってるのか?」
「ま、まさか……」

桐生さんと柏木さんのやり取りに遥ちゃんが気まずそうに笑う。

「お肉が焦げちゃいますよ! せっかくのバーベキューなんですから、仲良く食べましょ!」

今、私は東城会が所有しているプライベートビーチに来ている。
きっかけは真島さんから「夏と言えばなんや?」と突然訊かれ「う、海?」と返したことだった。私の返答にあれよあれよという間に真島さんが準備を進め、一週間後の今日、海を見ながらのバーベキューを楽しんでいる。
ここが沖縄から程近い所にあり、せっかくならとアサガオにいた桐生さんと遥ちゃんを呼んだ。柏木さんは真島さんが無理矢理車に乗せて(正しくはさらって)連れて来たらしい。

「一回ちゃんと頼んだんやで? 大吾チャンに休みくれ言うて」

海に行きたいだって? 真島さん、先日お願いした書類はどうなりましたか? 俺の記憶に間違いが無いなら昨日までに目を通して回答をもらうことになっていたはずだ。息抜きをすることはもちろん大事がそれは今じゃない。そもそも真島さんから連絡すると言われて待っていたのに電話がかかってくる様子は全くない。こちらから電話をしても繋がらず、真島組に確認すれば親父は行方不明と言われる始末。真島さん、もう少し東城会の幹部として自覚と責任を持ってもらえませんか? 東城会が今、大事な時期を迎えていることは真島さんも──

「……嫌なこと思い出してしもたわ」
「まったく。なまえと海に来たいがために俺を出しなんかに使いやがって」
「柏木さんが『休みたい』言えばさすがに大吾チャンもOKくれると思てな」
「俺は休みたいなど一言も言ってないが」
「『柏木さんが息詰まる言うてたからバカンス連れてったる』って置手紙してきたからなんも心配あらへんで」
「てめぇっ」
「実際、息詰まっとったやろ? せやからゴロちゃんバーベキューへのご招待や、ご・しょ・う・た・い!」

いつものように真島さんはイヒヒと笑いながら、柏木さんは真島さんにメンチを切りながら焼けた肉を頬張る。
ジュージューと肉が焼ける音、食欲をそそる匂い、足に触る心地よい砂の感触、目に映る寄せては返す波、ケンカしつつも仲の良い大好きな人たち。
私は最高の時間を過ごしている。

「なまえ、何考えとるんや?」
「うん。みんなとバーベキューできて嬉しいなぁと思って」
「せやろぉ。二人きりで過ごすのもええけど、バーベキューはみんなでワイワイしたほうが楽しいからなぁ。お、ほれ、早よ食べんと焦げてまうで」

真島さんが私の皿に焼けたお肉を取り分けてくれた。そんな何気ないことが嬉しかったりする。他の三人が話に夢中になっていることを確認して、ありがとう、とこっそり頬にキスをした。

「ヒヒッ。俺のなまえちゃんは意外と大胆なとこあるのう」
「そうですか?」
「はぁ〜。せやのになんで水着やないねん!」
「そんなに着て欲しかったですか?」
「当り前やろ。海言うたらビキニの水着やろが」
「二人きりだったら着たかもしれませんけどね」

ハイビスカスの絵が入った白のグラフィックTシャツにピンクのショートパンツ。私の頭のてっぺんから足先までをなぞるように見た真島さんは、わざとらしく大きな溜め息をついて、またぐびぐびとビールを飲んだ。

「そろそろ肉が無くなるな。遥、スイカ割りでもするか?」
「うん!」

お肉を平らげた私たちはその後スイカ割りをして(叩く棒は真島さん愛用のバット)、ビーチバレーをして(真島組特製ビーチボール)、桐生さんvs真島さん(途中から柏木さんも参加)の砂浜穴掘り対決を見て……。
あっという間に時間は過ぎていき、いつの間にか海は夕日に染まっていた。

「もう少しで日も落ちる。暗くなる前に帰らねぇとな」
「うん。すごく楽しかったね、おじさん」
「そうだな。真島の兄さん、なまえ、今日はありがとな」
「ええて。柏木さんも少しは息抜きできたんとちゃうか?」
「ふん、どうだろうな」
「素直じゃないのう。……ん? なまえ、何しとるんや? 帰るで」
「うん。一個やり残したことがあって」
「やり残したこと?」
「兄さん、俺たちは先に車に行ってる」

海を眺めている私に気を遣ってくれたのか、桐生さんたちは諸々の荷物を持って駐車場へと向かい、浜辺に真島さんと二人きりになった。

「やり残したことってなんや?」
「真島さんと二人だけの夏の思い出、作りたいなと思って」
「思い出?」
「海に入って泳ぎませんか?」
「あぁ? 泳ぐぅ?」
「見たかったんですよね? 私の水着」
「そ、そら、もちろん。せやけど──」
「見たいですか? Tシャツの下」

真島さんの目が大きく開かれ、驚きの表情から一変して満面の笑みになった。

「なまえ、もしかして……」
「もしかするかも」

準備の段階から真島さんが私の水着姿を楽しみにしていたことは知っている。
でも私のそんな姿は真島さんにしか見せたくない。だから──

「なまえ〜ッ! ホンマに大好きやぁッ!」

真島さんにTシャツを脱がされながら、私たちは海の中へと倒れ込んだ。


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