浅葱の煌 | ナノ


▼ 20:二人の休日

「そのような仕事ぶりでは困る」

申し訳ありません、と頭を下げた。
目の前には土方さんが居て、腕を組んで私を見下ろしている表情に感情は読み取れない。
朝飯の準備を終えて一息ついた後、呼び出されて土方さんの部屋にいる。

「お前の気持ちもわからないではないが、少しは気持ちを切り替えてもらわねば」
「……はい」

源さんが亡くなって三日が経ったが周りは驚くほど何も変わらない。
六番隊の隊士たちは他の隊や勘定方などに配置され、喪に服していたのはほんの一時。多くの死に触れている隊士たちにとって、源さんの死はそのたくさんある死の中のひとつにすぎないのだと思う。
私だけが源さんのことを引きずって未だ日常に戻れないでいる。味噌汁を煮立てて吹きこぼしてしまったり、依頼されていた薬草の準備をすっかり忘れていたり。正直、頭も心もまだ整理がついていない。

「今日はもう帰って休め」
「えっ、でも」
「今のお前は心ここにあらず。これ以上失態を繰り返されても困る」
「っ……」
「明日は非番だ。ゆっくり休めていないのだろう? しっかり休んで気持ちを入れ替えてもらいたい」
「申し訳ありません」

迷惑ばかりかけて、何やってるんだろう私。
罪悪感が込み上げて俯いていると、ドタドタと廊下を駆けてくる足音がして勢いよく襖が開いた。

「歳ちゃん! もうええで」
「総司、何度も言っているが──」
「ゆずちゃん、どないしたんや? 歳ちゃんにイジめられたんか?」
「人聞きの悪いことを言わないでいただけるかな」

部屋にやってきたのはなぜか浅葱色の羽織ではなく葡萄色の着物を着た沖田さん。なぜここに? 驚いて目を丸くしていると隣に来た沖田さんに頭を撫でられた。

「シュンとしてもうて可哀想に」
「屯所内だ、態度を慎め」
「ゆずちゃんが落ち込んどるから慰めただけやろが。なぁ〜、ゆずちゃん」
「……それよりちゃんと指示してきたんだろうな?」
「当り前や。少しでも怠けたら五番隊の隊長に夜の特訓仕込んでもらうで言うたら全員ビビっとったわ。ヒヒヒッ」
「あの、沖田さん?」
「ワシも非番になったんやで。副長命令や。なー、歳ちゃん」
「え?!」
「そういうことだ、ゆず」
「ほな、後はよろしゅう頼むで」

土方さんの計らいなのか、それとも沖田さんのわがままなのか。今から私と沖田さんは非番となり、沖田さんに手を引かれるまま土方さんの部屋を後にした。

「お、沖田さん、これって」
「ゆずちゃん元気ないやろ? 少し息抜きさせなあかんなぁ思て」

やっぱり沖田さんが土方さんに非番にするよう言ったんだ。
私は繋がれた沖田さんの手をぐいっと引いて門の手前で足を止めた。

「ん? 忘れ物か」
「違います。……こういうの良くないと思います」
「あぁ? なんでや?」
「だって」

少なからず六番隊の隊士たちや源さんに近しい人たちは私と同じ胸中のはず。特に沖田さんと永倉さんは覚悟していたとはいえその衝撃は大きかったと思う。それでもちゃんと任務に就いているのに私だけこんな……。
うまくそれを言い出せずに心の中でぶつぶつと呟いていると、沖田さんに頬をむにっと摘まれた。

「うっ」
「なぁ、自分がどんだけ落ち込んだ顔しとるか自覚ないやろ」
「そんなに酷いですか?」
「みんな心配しとるで。ハジメちゃんも新八ちゃんも飯ちゃんと食うとるんか聞いてくるし、みやとふみにはワシがゆずちゃんに無理させとるんやないか言われて……アホかっちゅうねん!」
「直接私に聞いてくれればいいのに」
「そんだけ話し掛けにくいっちゅうことや」
「そんなに、ですか」
「せやで」

再び手を引かれ、私は沖田さんと屯所を出る。
そういえば沖田さんと手を繋いだのに土方さんからは何も言われなかったし、隊士たちも見て見ぬ振りをしてくれている。きっと気を遣ってくれているのだろう。

「そろそろ元気出さな。ゆずちゃんがそないに落ち込んどったら源さんも心配するで」
「……ごめんなさい」
「謝らんでええ。さ、これからゆずちゃんの着物買いに行くで!」
「私の?」
「約束したやろ。もちろん、覚えとるよな?」

意味深に唇を私の耳元に寄せて話す沖田さんの声に一気に頬が赤くなった。
しっかり覚えている。初めて沖田さんとまぐわった日、新しい私の着物を選んで買ってくれると言っていた。
無言でそっと頷くと、色を含んだ柔らかな男の声で「嬉しいで」と一言。ふわりと耳に当たる息が熱い。

「ほな、行こか」

ぎゅっと手を握られて、私は連れられるまま呉服屋へと向かった。

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