浅葱の煌 | ナノ


▼ 15:過去

源さんと向かい合い座ると、開口一番「総司をよろしく頼む」と言われた。
少し感情が抑えられずに突っ走ってしまうところがあるが、根は真面目で正義感の強い男なんだ、と。

「てっきり源さんに反対されるのかと思ってました」
「いや。むしろあんな血の気の多い男を受け入れてくれてありがたいと思っている」

肯定的な言葉の割に源さんの表情が硬い。

「源さん?」
「ゆず……、お前に隠していたことがあるんだ」

突然、源さんは畳に額をつけて私に土下座をした。
頭を上げてくださいと言っても頑なに頭を下げ続けている。

「げ、源さん! 急に、どうしたんですか? 隠してたことって」
「お前の父親のことだ」
「お父様のこと?」
「お前の父親は……、俺が斬った」

源さんが、お父様を、斬った?
頭が真っ白になり、何を言っているんですかと笑ってみせても源さんは頭を下げたまま動かない。

「わ、わからないです……。源さんが、何を言ってるのか……」
「黙っているつもりだった。しかし、お前と総司が思い人になった今、打ち明けたほうが二人に迷惑を掛けずに済むと思ったんだ」
「頭、上げてください」

私の言葉に上体を起こした源さんは、複雑な表情を浮かべてぽつりぽつりと話し始めた。

「お父様を、斬ったって……」
「ああ」
「でもっ、それは強盗が」
「あいつらは俺が斬った後に来たんだ。……お前の父親は、闇医者だったんだ」
「……えっ」

町医者として誇りに思っていたお父様。
しかし、手当てをしていたのは京に紛れ込んでいる長州藩の間者で、お父様はその間者たちに内情を諜報していたと知らされた。

「父親の許へ、文がたくさん届いていなかったか?」
「たしかに、届いてました……。で、でもそれは病状を知らせるものだと」
「それは間者たちとの密文書だ」

思い返せば、夜に目が覚めるとお父様が囲炉裏の中に文を放っていたことがあった。
もう処置が済んだ者からの文だと言っていたけれど……。

「俺は幕府からの命を受け、この闇仕事を引き受けたんだ」

源さんはお父様を斬殺。その後すぐに強盗の男たちがやってきて、逃げられなかった源さんは身を隠した。そこに買い物を終えた私が帰ってきて強盗と鉢合わせてしまったのだ。

「私を助けてくださった覆面姿のお方は、源さん、だったんですか?」
「そうだ」
「どうして? ……お父様を殺したのになぜ私を生かしたのです?」
「重なったんだ」
「重なった?」
「全く同じだったんだ、あの時と」

あの時、とは源さんが水戸にいた頃。
闇仕事で水戸藩に抵抗している男を斬殺した源さんは、その娘が狂乱して襦袢姿のまま長屋を飛び出すところを目撃した。その娘を追って強姦が追いかけていくところも。

「男を斬って仕事は終わった。だから、俺は見て見ぬ振りをしたんだ」
「その娘さんは……」
「翌日、何も身に纏わぬ姿で川に浮かんで死んでいた」
「っ……」
「俺が助けていれば、あの娘は死なずに済んだはずだ」
「だから、私を?」
「咄嗟に同じ目に遭わせてはならないと思った。俺の勝手な罪滅ぼしだったんだ……」

お父様は目の前にいる男に殺された。
けれど、私は目の前にいる男に生かされた。
きっと源さんは今日まで、私の姿を見るたびにお父様を斬った時のこと、そして壮絶な最期を遂げた女性のことを毎日思い出していたに違いない。

「お父様に何も非がなかったのなら、今ここで源さんを絞め殺していたかもしれません」
「…………」
「でも、まさか闇医者だったなんて……」
「ゆず……」
「私がこうして生きていられるのは、源さんが助けてくださったからです」

慣れない屯所での生活を一番支えてくれたのは源さんや永倉さん、そして沖田さんだ。私はその三人に家族であるような温かささえ感じていた。
だから、今聞いた話が事実であろうと他人事のように聞いている私がいる。

「いまさら、嫌いになんてなれません」

勝手に涙が溢れてくる。私のその様子に源さんはただただ頭を下げ続け、「申し訳ない」を繰り返した。

「どうか……、今までどおり、私と接していただけませんか?」
「俺を、許してくれるというのか?」
「私は源さんを恨みも憎みもしていません。これからもずっとです」

私の言葉に源さんが深々と頭を下げた。
その肩は震えていた。

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