浅葱の煌 | ナノ


▼ 13:新たな住処

ひとつ何かを手に入れたら、ひとつ何かを失う。
私の場合は沖田さんの思い人になったことで、住む場所を失った。
人斬りと男女の仲になってはならないというイワさんの言い付けを破ったのだから仕方ないけれど……、これからどうしようか。
いつまでも屯所の沖田さんの部屋に二人きりでいるわけにはいかない。

「沖田さん、私、今日は看護部屋に泊まります」
「何言うてんねん! ゆずちゃんを一人で屯所に泊まらせるなんてできるわけないやろ!」
「どうしてですか?」
「ここは壬生狼だらけの屯所やで? 万が一ゆずちゃんが襲われたら……、ワシ全員ブチ殺すで!」
「それは駄目です! じゃ、じゃあ、沖田さん、一緒に……。ダメですか?」
「はぁ〜っ、ゆずちゃん〜! ワシもそうしたいんや! ホンマはワシの休憩所に連れて行きたいんや! せやけどなぁ……」

どうやら先日沖田さんが源さんにこっ酷く叱られた際に、「次にゆずと何かあったら副長に灸を据えてもらうからな」と言われたらしい。
土方さんのお説教はとにかく長くて精神的にやられる、と沖田さんは嫌な記憶を振り払うかのように頭を振っていた。

「別にワシが叱られるのは構へんねんけど、この件はイワ婆も関わっとるし、ふみとみやも巻き込んでしもてるから勇ちゃんにも話がいくはずや。ここはきっちり源さんや歳ちゃんに話つけたいねん」

任せてもらえるやろか? と真剣な表情の沖田さんに私は大きく頷いて、その時は私もお供しますと伝えた。

「許しもろたらぁ、ワシん家にお泊まりやで」
「はっ……、はいっ」
「ええ返事や」

嬉しそうに沖田さんは私の額にチュッと唇を落とした。
それと同時に「沖田」と外から声が聞こえて、襖がスッと勢いよく開いた。

「はあぁぁぁぁっ! お、お前ら、ここで何してんだっ?」
「あ、ハジメちゃん、まだおったんかいな」
「まだいたのかじゃねぇよ! 沖田、お前っ、ゆずに今っ!」
「ハジメちゃん、ワシぃ、ゆずちゃんの思い人になったんやぁ」
「……な……、なんだって?!」

私は最初から今に至るまで説明した。
初めはどこか腑に落ちないような顔をしていた斎藤さんだったが、最終的に複雑な表情を浮かべながらも「わかった」と返事をしてくれた。

「それでお前ら、これからどうするんだ?」
「どうするかのぅ……。そもそもなんでハジメちゃんはワシのところに来たんや?」
「お前が飲みたいからどこかに連れて行けって言ってたんだろうが!」
「せやったか。……あ、おぉっ! ええこと思いついたでぇっ!」

パンッと手を叩いて沖田さんが勢いよく立ち上がった。

「ゆずちゃん、寺田屋に世話になったらどうや?」
「寺田屋ですか?」
「他にも宿屋はあるけど、寺田屋はデカいし風呂もあるから便利やろ。帰る途中に店寄って買い物もできるしなぁ」
「たしかにそうですね。でも……宿代がかかります」
「宿代はワシが持つで。なぜなら、ワシも一緒に泊まるからな」
「えっ?」
「何っ?」

私と斎藤さんが同時に声を出して沖田さんを見つめた。
寺田屋に私一人では泊まらせたくない。けれど二人で一緒には泊まれない。それなら斎藤さんの部屋に沖田さんが泊まっていることにすればいい、と。

「お前ら二人のことに俺を巻き込むのか!」
「源さんと歳ちゃんに話つけるまででええねん! な、この通りや、頼む!」
「しかし」
「私からもお願いします。落ち着くまで寺田屋に泊まらせてもらえないでしょうか? 斎藤さんにご迷惑はかけませんから」
「チッ。さすがに俺も部屋が空いてるかまでは知らねぇぞ」
「よっしゃ! ほな、部屋が埋まってまう前に早よ行こ!」

私は荷物を手に取り、沖田さん、斎藤さんと一緒に寺田屋へと向かった。





「はぁ〜、なかなかええ部屋やないかぁ〜」

幸い空き部屋があり、そこに寝泊まり出来ることになった。
ただ……

「ホンマにええんどすか? 布団一組しか用意できまへんけど」
「ええねんええねん! むしろありがたいわ」

出迎えてくれた女将のお登勢さんとおりょうさんが不思議そうな顔をしているが、沖田さんだけは満足そうにイヒヒと高笑いしている。

「急に押し掛けてしまって申し訳ありません」
「謝らんといてください。お客様は大歓迎どす。それより皆さん、夕飯はどうされます?」
「それなら沖田たちと外で食べてくる」
「沖田? 沖田って、あの美少年って噂されとる……」
「せや、ワシがあの "美少年" 一番隊隊長の沖田総司や」

浅葱色の羽織を着ていないからわからなかったのだろう。
沖田さんはキメ顔をしてみせているが、お登勢さんとおりょうさんは顔を見合わせていた。

食事は寺田屋からすぐ近くにある福々屋で芋煮や湯豆腐を食べ、私は1杯だけ伏見のお酒をいただいた。沖田さんや斎藤さんはお酒が入って饒舌になったのか、新選組の人たちのことや行きつけのお店なんかの話をたくさんしてくれて、楽しい時間を過ごした。
締めにうまい屋で月見うどんを食べ、寺田屋に戻った頃には煌々と月が輝いていた。

「それじゃあ、また明日な。……沖田、変な気起こすんじゃねぇぞ」
「言われんでもわーっとるって! ほな」

斎藤さんと別れて用意された部屋に入った途端、後ろから沖田さんに抱き締められた。

「お、沖田さんっ」
「やっと、ホンマに二人きりや」

身体を沖田さんのほうにくるりと回転させられて、そのまま顔を覗かれた。

「緊張せんでええ。話つけるまでは何もせぇへん」
「は、はい」
「せやけど、早いうちに決着つけるで」
「っ……」
「え、あ、やっぱり、口だけ……、吸わせてもろてもええか?」

私は無言のまま目を閉じて、唇を差し出すように恐る恐る顎を上げた。
最初は軽く優しく押し当てられた沖田さんの唇は徐々に強く激しさを増して、息が苦しくなって開けた唇の隙間から柔らかくて熱い沖田さんの舌が咥内に入ってきた。
必死に沖田さんの口吸いに応えようと努力してみるが、吸おうとした酸素すら奪われて頭がボーっとしてくる。

「んっ……は、ぁ」

苦しくて息をしようとすると、自分が発したのかと思うくらいの甘い声と吐息が唇から漏れていく。
力が抜けてすでに敷かれている布団へとなだれ込み、しばらく沖田さんの唇と舌に捕らえられていた。

「はぁ、ゆずちゃん、めっちゃ好きや」
「あの……、私」
「ん?」
「こういうこと、初めてで……」
「そ、そうなんか。ゆずちゃん、未通女やったんか」
「慣れてなくて、ごめんなさい」
「謝ることなんかあらへん。少しずつ覚えていったらええんや。ほんなら……今日は気持ちようなる口吸いのやり方、教えたるな」

沖田さんの手が私の後頭部に回る。
一晩中、私は沖田さんの熱に包まれていた。

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