黒のアバンドーネ | ナノ


▼ episode-no.20 ≪PM14:20≫真島

部屋の扉が閉まったのを確認して西谷が口を開いた。

「アンタに自己紹介しとらんかったなぁ。近江連合直参鬼仁会会長の西谷誉や」
「俺は真島や。真島吾朗」
「真島、俺が知っている限り嶋野の穴倉から生還したのはお前だけだ。よく生きて出てきたな」
「……俺の話はどうでもええやろ」
「フン、まぁいい。では本題に入ろう」

西谷と俺は事の発端から今に至るまでの全てを話し、世良にノートパソコンを渡した。

「これを取り戻してくれたことは素直に感謝する。我々の計画では佐川を泳がせる予定だったんだが、想定外のことが起きてしまいそうもいかなくなった」
「想定外?」
「真島と美流さんがそういう関係になったということだ」
「なんやそれ、俺とミルは別に関係ないやろ」
「お前が佐川を裏切って西谷と手を組んだのは美流さんのことがあったからだろう? 本来であればお前がノートパソコンを手に入れ、佐川に渡したところでヤツを泳がせる予定だったんだがな」
「……そんなもん、知るかいな」
「まぁ、真島君が美流ちゃんとくっついてワシらは手ぇ組めたんやし結果オーライちゃうか」
「俺がわからないのはなぜ近江連合のお前が真島と一緒に行動しているんだ?」

よく聞いてくれました! と手を叩き西谷が長々と話し出したところでハイライトに火をつけ煙草を吹かす。
病院で吸えなかった分とても煙が美味い。
半分聞き流していた世良だったが、東城会堂島組系赤井組の話に及ぶと表情が険しくなった。

「それでお前は赤井に雇われたのか」
「そうや。せやけど別にワシは赤井のことはどぉでもええねん。喧嘩できればそれでええ。そんならオモロい真島君についたほうが楽しいやろ?」
「お前の価値観はよくわからんが、赤井はお前が裏切ったことを知っているのか?」
「知ってるで。本人に直接電話してやっぱ辞めますわぁ言うたからな」
「……どうするんだ?」
「どないもこないもないやろ。赤井んとこ行って組ぶっ潰すだけや……明日な」

吸っていた煙草の灰が床に落ちたのも気づかなかった。
この男はなんて言った? 明日やりに行くと言ったのか?

「明日やるなんて聞いてへんで」
「そりゃ今初めて言うたからな。真島君ならその程度の腹の傷、屁でもないやろ」
「傷の問題ちゃうわ。なんも準備しとらんやろ」
「なんや真島君、意外と慎重派なんやな。朝ぱぱぁっと準備すればええんや。佐川のオッサンがワシらのこと狙うとるんやで? 『二兎を追う者は一兎をも得ず』っちゅうことわざ聞いたことあるやろ? 佐川に見つかる前に……確実に殺るんや」
「西谷、俺が東城会の人間だということを忘れたのか?」
「あぁ、せやったなぁ。ほんなら今からワシとここで殺り合うかぁ?」

西谷はドスを取り出し挑発するような目で世良を見ている。
本当に何を考えているんだ、この男は。

「お前には呆れる。……正直赤井は東城会でも手を焼いている存在だ。今の話は聞かなかったことにしてやる」
「さすが総裁はん! 優しいわぁ〜」

抜いたドスを懐に仕舞ったところで世良の部下が食事を持って部屋に入ってきた。
やってくるタイミングが早ければ本当に乱闘になっていたかもしれない。

「はぁ〜ええ匂いやぁ! ワシ、美流ちゃんとナツメちゃん呼んでくるわ」

調子のいい西谷の態度に世良も俺も溜め息をつく。
喧しい男がいなくなったところで聞かなければならない質問を世良にぶつけた。

「世良、ミルはホンマにパスワードを知っとるんか? 父親のことをなんも知らんミルが知っとるんか?」
「……巧が言っていたんだ。信用できる人間にしかわからないものにすると。我々の仕事は裏切りの連続だ、それはお前もよく知っているだろう。巧が信用している人間は美流さんしかいない」

裏切りの連続。
そう言われてあの時のことを思い出す。
兄弟と二人で襲撃するはずだった、それなのに行くなと言われ、拘束され、拷問され……そして兄弟は俺に裏切られた。
この世界は誰しもが裏切り者になるのだ。

「お前にも聞きたいことがある。真島、お前は……本気で美流さんと付き合っているのか?」
「……なんやて?」
「俺は小さい頃の美流さんを知っている。巧は美流さんをとても可愛がっていた。もしただ遊んでいるなら――」

世良が言葉を言い切る前に胸倉を掴んだ。

「俺は、ミルを愛しとる」
「そうか。巧の宝物だ、決して危険な目に遭わせるな」
「そんなんいちいち言われんでもわかっとるわ」
「フッ、クールだと思っていたがお前もそんな顔するんだな」
「う、うっさいわ! チッ、西谷のやつ帰ってきぃひん!」

若干ニヤついている世良の顔がムカつく!
なんだか居づらくなり戻ってこない西谷の様子を見に寝室へと向かった。


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