黒のアバンドーネ | ナノ


▼ episode-no.17 ≪PM19:45≫真島

部分麻酔で手術は1時間も掛からなかった。
傷口が開かないよう絶対安静を言われ、今は個室で一人ベッドに横たわっている。
あの世行きにならなかったのは間違いなく西谷とナツメのおかげだ。
車から運び出されたミルの意識は無かった。
佐川に殴られた部分は紫色に変色し、催涙弾に含まれる成分のせいで皮膚は所々が赤く腫れていた。
ミルに付き添うようにナツメがいて、俺が深々と頭を下げるとナツメも同じように頭を下げた。

ズキズキと傷の痛みを感じながら天井を眺めていると、控え目に病室のドアがノックされ、ナツメが入ってきた。
身体を起こして座るように促したが、首を横に振って再びナツメは頭を下げた。

「支配人、大丈夫、ですか?」
「俺は大丈夫や。……ミルは?」
「検査も処置も終わりました。脳も目も問題ないそうです」
「そうか、良かった」
「あの……」
「西谷から聞いた。ほんまに助かった、おおきに」

お礼を言うと、ナツメは堰を切ったように泣き出した。
結局この子にも危ない橋を渡らせることになってしまった。
謝ろうと口を開きかけた時、ナツメがごめんなさいと何度も繰り返す。

「謝るのは俺のほうや。ナツメちゃんを巻き込んでしもた」
「ずっと、謝りたかったんです! 美流に酷いことして、支配人にもご迷惑をかけて、ずっと後悔してました」
「グランド、無断欠勤しとるんやってな」
「出勤なんて、できるわけありません! 美流や支配人にどんな顔して会えばいいのか……怖くなってしまって、出勤できませんでした」

俺はすべてを話した。
今起こっていることも、自分の素性も、ミルとの関係も。
ナツメは相変わらず泣きながら頷いて静かにそれを聞いていた。

「どうして付いてきたんや? 西谷に俺らのことを伝えればそれで済んだことやろ?」
「二人が心配で、こんな私で役に立つなら助けたいと思ったんです。それに……まだ美流にちゃんと謝ってないから、謝りたくて」
「命の危険が伴うかもしれんのやで?」
「美流に間違われて捕まった時、私は自分の感情を抑えられず、何も聞かずにその場から逃げました。それからずっと考えていたんです。美流や支配人は何を抱えて生きているのか、何が起っているのか……。二人とも大切な人なのに、見捨てるなんてできません」

西谷の言うとおり、いろんな選択がある中でナツメは俺とミルを助ける選択をした。
けれど、俺はナツメを振った男で、ミルはナツメの好きな男を奪った女。
それでもそんな二人を命懸けで助けるというのか。

「辛くないんか? ほんまにそれでええんか?」
「担架で運ばれていくミルに何度も名前を呼び続ける支配人の姿を見て、胸に突っかかっていたものがすべて無くなりました。だから、もう大丈夫です」
「そうか……。ほな、俺がおらん間、ミルを頼んだで」
「本当に、支配人は美流が好きなんですね」
「いや、好きやない」

愛しとるんや。
そう言うと泣いていたナツメがようやくいつものように笑った。


◆拍手する◆


[ ←back ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -