黒のアバンドーネ | ナノ


▼ episode-no.17 ≪PM18:10≫西谷

車内。撃たれた男は腹から血を垂れ流しながら鼓膜が破けんばかりの大声で喚いていた。

「ミルは?! ミルはどうなったんじゃ!!!」
「落ち着け真島君! 大丈夫や言うとるやろ」

幸い、肩を撃たれた佐川の狙いが外れ、弾は真島君の脇腹の肉を少し抉ったくらいのようだ。これなら傷口を縫う程度で済むだろう。

「何が大丈夫や! 俺は、ミルに拳銃持たせてしもたんや! 俺のせいで……人、殺させてしもた……。落ち着けるわけないやろっ!」
「美流ちゃん、人殺してへんで。美流ちゃん撃った弾、組の車に当たっとった。修理費、よろしゅう頼むで」
「せ、せやけど佐川組のやつ、ハジかれてたやろ!」
「止め刺したんはワシの組員や。せやから美流ちゃんは人殺しちゃう」

それを聞いて安心したのか、それとも痛みのせいか、真島君は力が抜けたように項垂れた。

「やっぱり、俺はミルを幸せにできん男や」
「はぁ? いきなり何言うてんの? 腹撃たれておかしくなってしもたか?」
「惚れた女守れんと傷つけてばかりや。俺と一緒におれば、ミルはまた……」
「真島君て感傷にひたるタイプなんか? それとも、ただのアホか?」
「なんやて?!」

怒りに満ちた表情で真島君に襟を掴まれた。
喧嘩するか? と喜んでみせると、一睨みされて鼻を鳴らし乱暴に放された。つまらん。

「お前なんぞに俺の気持ちがわかるはずないやろ」
「せやなぁ〜、真島君の気持ちはさーっぱりわからんわ。せやけど、美流ちゃんの気持ちはわかるで」
「あぁ?」
「人間にはな、道を選択せなあかん時が何度もあんねん。今回の場合もそうや、美流ちゃんには二つの選択肢があった。一つは佐川に頭ぶん殴られてそのまま意識を失う選択、もう一つは頭ぶん殴られても意識失わんと、使うたことも無い拳銃撃って好きな男を守るっちゅう選択」
「っ……」
「楽なのはどっちや? 美流ちゃん、ホンマなら身体動けへんかったと思うで。それでも真島君を助けようと必死に自分自身と戦っとったんや。そんな美流ちゃんを真島君は突き放すんか? 突き放すんならワシが遠慮なくもらう――ゲフッ」

真島君の重たい拳が鳩尾に入った。腹を撃たれてるのによくこんなに力が入るものだと感心する。

「誰が放すかボケ」
「命を助けてやった恩人に対する態度かそれかぁ?! 感謝くらいせぇや」
「……すまん。今回はほんまに助かった。せやけど、どうしてあの場所がわかったんや?」
「ナツメちゃんや」
「ナツメ?」

佐川組に追われている真島君と美流ちゃんを目撃し、交番に向かっている途中のナツメちゃんと出くわした。
しばらく蒼天堀には戻ってこれないと思い、最後になじみの店のたこ焼きを買いに行くところだった。

「追っとるのがワシの組員や思ったらしくてな、もう止めてって泣き叫ばれたわ。急いで車手配して倉庫に行けば案の定もぬけの殻、間に合うて良かったで。ノートパソコンやら美流ちゃんの薬やらはちゃあんと積んどるからな」
「西谷……、おおきに」
「礼はナツメちゃんに言うんやな。あの子おらんかったら二人ともあかんかったで。今、ナツメちゃんには美流ちゃんの手当してもろうとる。もろに催涙弾浴びてしもたからなぁ、ありったけの水で付着したもん流すよう指示した。……今頃前の車、びっちゃびちゃやで! これも請求させてもらうで」
「……わかった。ところで、どこに向かっとるんや?」
「まずはその腹治さんとな。美流ちゃんも診てもらわなあかんやろ。大阪の病院は近江のヤツらがおって使えんから、神室町の病院や」
「大丈夫なんか?! お前、東城会に狙われとるやろ」
「せやから神室町や。まさかワシが神室町におると思わんやろ。灯台下暗しっちゅうやつや。心配せんでええ、その辺しっかり手配しとる」

気づけば外はもう夜。
順調とは言えないが計画は前に進んでいる。
佐川に追われ、東城会に追われ、今から日侠連に乗り込もうとしている。
こんな刺激的でスリリングなことがあるだろうか。
いつもなら自分が勝つか負けるか。でも今回は真島君がいる。
共に戦える喜びと、守らなければいけないという新たな感情。
逸る気持ちを抑えるように流れる景色を眺める。
反対側の景色を真島君はどんな気持ちで眺めているのか。


◆拍手する◆


[ ←back ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -