黒のアバンドーネ | ナノ


▼ 20:エフェメラル・タイム

辿り着いたのは、とある古びたバーだった。
躊躇なく "CLOSED" の看板が掛かった扉を開いた世良の後に続いて中へと入り、軽く会釈をしたマスターの横を通って奥の部屋へ。さらにその奥にある扉を開くと地下へ繋がる階段があり、狭い通路を一人一人順番に降りて行けば、その先に小綺麗なテーブルやソファなどが置かれた部屋が現れた。

「どういう構造になっとるんや、ここは……」
「驚いている暇はない。早速詳しい話を、と言いたいが女性二人はかなり疲れているようだ。美流さんから話を聞くのは後にして、まずはお前たちから話を聞きたい」

世良は真島と西谷にソファに座るよう顎で指示する。

「こっちもアンタから聞きたいこと、たーっぷりあるわ」
「なぁ〜世良の総裁はん、ワシら昼飯食うてへんからごっつい腹減ってんねんけど」
「……わかった、手配させる。お二人はあちらに」

美流とナツメは素直に案内された部屋に移動した。
そこはビジネスホテルのような造りになっている寝室で、セミダブルサイズのベッドが二つ並んでいた。

「やっとゆっくり話せる」
「うん、本当に」
「もういろいろ聞いた?」
「ある程度支配人や西谷から聞いてる。でもちゃんと美流から話を聞きたい。私も話したいことがいっぱいあるの」

それぞれベッドに寝転んで、白い天井を見ながらお互い今までどう過ごしてきたかや胸に抱えていた感情を、包み隠さず全て打ち明けた。
いいことも悪いことも、嬉しかったことも悲しかったことも全部。

「大変だったね美流」
「ナツメも辛かったよね」
「私たちさぁ、めっちゃ頑張ったよね」
「うん、頑張った」

今更どうしてこんなことになったのか、なんて疑問は美流にもナツメにも無い。
ねえ、と声を掛けられナツメのほうを見ると、泣きながら笑っているナツメが手を伸ばしていた。
ナツメは相変わらず美しかったが少しやつれたような表情をしていて、初めてそんな表情を見た美流は慌てて伸ばされた手を取り強く握った。

「ごめんね、美流」
「私こそ、ごめんね」
「……ちょっと疲れちゃった」
「このまま寝ちゃおうか」

二人は手を繋いだまま目を閉じた。





「美流ちゃ〜ん、ナツメちゃ〜ん、ご飯の時間やでぇ〜って……ありゃ?」

食事が届けられ西谷が二人を呼びにやってきたのだが、スースーと寝息を立てている美流とナツメの姿を目の当たりにして男としての性が一気に昂る。

「た、たまらんなぁ! しゃあない、ワシも一緒に寝たろ」

ブツブツとはしたない感情を吐き出しながら忍び足で二人の許に近づく西谷の気配に気づいてか否か、ナツメが目を覚まして上体を起こした。

「なんやナツメちゃん、起きてしもたんかぁ?」
「シーッ、美流が起きちゃう」
「すまんすまん。せやけどナツメちゃんもまだ眠いんちゃうか? ワシが子守歌歌ったるで〜」
「結構です。あっ、ちょっと! 何するの?!」
「シー、静かに。美流ちゃん起きてまうやろぉ?」
「……ホンマ、何しとんねんアンタ」
「へ?」

美流とナツメを呼びに行った西谷がなかなか戻ってこないので、不審に思った真島が寝室にやって来た。
すぐに西谷をナツメから引き離し一発頭を殴る。

「イタッ! 何すんねん! 後ろから殴るのは卑怯やでぇっ!」
「うっさいオッサンやなぁ、静かにせぇや! ナツメちゃん、西谷連れて先飯食うてくれんか? 俺はミルちゃん起きてから食うわ」
「わかりました。ほら、行きますよ!」
「ええとこやったのに〜。せめて美流ちゃんの寝顔拝んでから……」
「ミルの寝顔見んなや!」

西谷はナツメに引きずられるようにして寝室を出て行った。
それからすぐに美流は目を覚まし、ベッドの縁に座っている真島と目が合って慌てて起き上がった。

「あ、あれ、真島さん! ナツメは?」
「飯が届いたんや。呼びに来たんやけどミルちゃんがぐっすり寝とるから先に行かせたで」
「すみません! 真島さんまだ食べてませんよね?」
「ああ。せやけどミルちゃん疲れとるやろ? 寝足りないならまだ寝とってええで」
「いえ、大丈夫ですよ」

行きましょうと真島の手を引き部屋を出ようと前を歩く美流。
なんだかその行為と後ろ姿が急に愛おしくなり、力任せに繋がれたその手を引き戻し、真島は身体を寄せて美流を壁に押し付けた。

「ま、真島さん」
「ミルちゃんの目、ちゃんと見えとるか?」
「は、はい」
「そうか、安心したわ」
「ご、ご飯は?」
「そんなもん後でええ。……包帯取れたらたっぷり見つめたる、言うたやろ?」

真島は包帯をしていた美流がしたように、髪や眉毛、耳、目、鼻、口の輪郭をたしかめるように指を這わせていく。
くすぐったいというより、じわり、と身体の奥から湧いてくる熱い感覚に美流は身を捩り、その様子を嬉しそうに見つめる真島と目が合って頬がひどく紅潮した。

「可愛え」
「真島さ――」

美流の声はすぐに真島の口内へ。
シン、と静まり返った部屋に舌が絡まる粘着質な音と興奮した息遣いだけが響いている。
思う存分美流とのキスを堪能し、真島は名残惜しそうに唇を離して、舌と舌を繋いでいる銀の糸をぺろりと舐めた。

「夜まで我慢できへんかった」
「……っ?」
「ホンマは病院のベッドでしたかったんやけどミルちゃん具合悪かったやろ?」

だから今夜。
耳元でそう囁いて真島は美流の手を引き西谷、ナツメの元へと合流した。

「自分だけズルいで、真島君」

頬を真っ赤に染めた美流を横目に、恨めしそうな声で西谷が真島にボソリと呟いて韓来の焼肉弁当をかきこんだ。
それぞれが思い思いの時間を過ごす。

朝が来たら、行かなければならない。

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