五条に無理やり開けられる*
うーん…どうしようかな、
「名前なに見てるの?」
後ろから声が聞こえて振り返る。悟くんが俺の手元を覗き込んで、そう聞いてきた。
「えーとね、ピアスもう一個開けようかと思って」
スマホの画面を一生懸命見ていたから、話しかけられるまで悟くんが帰ってきていたことに気付かなかった。おかえりと声をかけて、二人がけのソファーの端へ移動する。
よっこいしょなんて言いながら、悟くんが隣に腰掛けた。悟くんが買ってくれたお高いソファーはとても座り心地がよくて、二人で座ってもまだ余裕がある。
「ふーん…なんでいきなり?」
「え、特に理由ないよ。唐突に開けたくなって…片方2つ空いてたら可愛くない?」
今は1つずつしか空いていない。最も一般的と言えるが、なんだか急に開けたくなったのだ。
「名前、今空いてるのは自分で開けたの?」
「ん?うん、そうだよ」
「こういうのって、自分で開けるの怖くないの?」
「俺は人に開けてもらう方が怖いかなぁ」
そういうもん?と言われて、そういうもんと同じ台詞を繰り返した。
「ねぇ名前、僕が開けたい」
…話聞いてた?
「名前にピアス開けたいっ!やらせてっ!!」
こうなったら悟くんを説得するのは骨が折れる。でも人にやられるのはどうしたって怖い。
「やだよ、自分でやる」
「…えー、なんで…」
「怖いんだってば、この話終わりね」
バチンッ
「…っ、!?」
ベッドで寝ていたら耳元で大きな音が鳴り目が覚めた。…それに耳がジーンと熱くなる感覚がする。
「悟くん…」
寝てる間に勝手に開けるなんてそんなことある?俺は犯人であろう人物を睨み付けた。
「だって僕が開けたかったんだもん。いいでしょ?痛くなかったでしょ?すっごく似合ってる。あのね…右耳のピアスはね、守られる人って意味があるらしいよ」
恍惚とした表情でそう捲し立てられ、なにも言えなくなる。
「…はぁ、そんなに開けたかったの?」
「僕が名前に傷を付けたと思うと興奮する」
「…」
悟くんってこういうとこあるよなぁ…愛されていると言えば聞こえは良いけど、ちょっと行きすぎている所があるのは否めない。
「ちょっと鏡見てくる」
ぴりぴりと痛む右耳を鏡で見てみると、水色の…アクアマリンだろうか。キラキラと小さい石が輝いていた。
「ねぇ悟くん、俺も悟くんにピアス開けていい?いいよね。断らないよね?」
「え、僕はいいよ。痛いのやだもん」
「痛くないよ。特級呪術師なのに、ピアスが怖いの?人には勝手に開けておいて?」
「僕仕事があったんだった…じゃあね名前っ!」
まったく、俺の恋人はこう言うところが…、
…堪らなく可愛いんだよなぁ。