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少年は口だけじゃなく本当にトークも上手かった。聞き上手でもあり、当たり障りのない話題を次から次へと持ち出しては広げていくのには心底感心した。話すのが得意ではない俺でも十分すぎるぐらい楽しんでいたんだ、少年の腕前がそれほどすごいということである。
ただこの少年やはり仕事のプロといったところか、どれほど話が続こうとも少年自身の個人情報はほとんど出てこなかったし、またそれを俺自身まったく不自然だとも思わなかった。
そんな中、唯一得た情報がある。それは美男美女から美少女美少年と素晴らしいお相手を揃えているこの店でなぜ少年が人気No1なのかということだ。

「みんな基本男の子だけとか女の子だけとかなんだけど。ぼくは男の子も女の子も、あとまあどっち側でもできるから、指名される回数が多いんだあ。もちろんそれだけじゃないけどね」
「……どっち側でもってどういうこと?」
「男の子相手のときに限るんだけど、分かりやすく言えばお尻の穴に挿れる側か挿れられる側かってこと」

これほどまでに聞いたことを後悔したことはあっただろうか、いや、ない。思わず顔を歪めて少年を見ると、やはりニコニコと笑顔を浮かべていた。
男同士でどうやってヤるんだと思っていたらまさかケツの穴だって?排泄するところに入れるってバカじゃねえの。いやありえねえ。ていうか絶対入んないだろバカかよ。……ああクソどうでもいい知識を得てしまった。できることならすぐさま忘れたいところだが衝撃的すぎて一生忘れられそうもない。

「……ふああーあ」

ふと時計を見てみるとあれからすでに2時間以上経っていた。いつもならすでに寝ている時間だ。大きな欠伸をもう一度してから目をこする。リヒトとだってこんなぶっ続けで喋ったことなかったせいか、喋りつかれて眠くなってきた。ベッドの上で作っていた胡坐を崩してからうっすい掛布団を持ち上げて布団の中に挟まる。
寝心地はかなりいい。やはりベッドもいいものを使っているのだろうか。これはいい夢が見られそうな気がしてきた。ギラギラの照明はまぶしくてうざったいけど毛布を頭までかけちまえばこっちのもんだ。目を閉じて、ゆっくり息を吐き出して、。

「……ねえ、本当に何もしないの?」
「うおあっ!?い、いつの間にっ、……ちょ、どっ、どこ触ってんだよバカ!」

まるでホラーだ。
布団の中、さっきまでベッドの端に座っていた少年が潜り込んでいて俺の足元から腰にかけて抱き着いている。最悪だ。完全に油断していた。裾幅の広いハーフパンツにはすでに下から手を突っ込まれていてもう指先が俺の大事なところに絡みついている。
人質ならぬチン質だ。
いやバカなこと考えてないでどうにかしなくちゃマジでヤバい。でも急所を掴まれてちゃ俺だってどうしようもないし!いやどーすんだマジで!?

「ねえ、ぼくに任せてくれれば大丈夫だからさあ」
「やっ、やめろってばあ……っ!」
「言うわりに、もうおっきくなってきてるんだけど?」
「ばっ……!ちが、!」

つい恥ずかしくなりながら慌てて毛布を剥いで見て愕然とした。いやらしい手つきでゆっくり撫でられているところが盛り上がっている。信じられないが、信じたくないのだが。少年相手に、興奮しているということなのか。
いや違う!そうじゃない!断じて違う!こんな触り方されちゃあ童貞なんかすぐ勃っちまうにきまってる!!

「嫌だ、やだあ、!」
「だいじょーぶだから、ね?」

片手で柔く握られたまま上下に擦られ、また指先で先端を撫でられると腰がびくりと持ち上がる。こんな小柄なガキぐらいすぐにでも殴り倒して逃げられるというのに。気持ちとは別にすでに身体がその気になってて脳みその言うことを聞かなくなっていた。
半泣きの俺を横から覗き込むようにみる少年。その表情ときたら、完全に欲情した獣のようだった。擦れる音に水音が混ざってきて、気持ちよさをまだ上回っていた羞恥心が一気に押し寄せる。両腕をクロスして顔を隠して唇を噛むと少しだけ少年の手が止まった。

「泣かないで、大丈夫、怖くないよ。痛いことはしないから」
「っう、うえ、やだ、おれ、おとことしたくない、きもちわるいぃ、っ」
「……その言葉、もう二度と言わせないぐらい気持ちよくしてあげる」

顎まで流れていた涙を舐められて「ひっ」と思わず声が漏れる。ぞわりと鳥肌が立つ。ふっと目の端から少年が消えたと思えばズボンの裾から手を抜いて堂々とウエスト部分を引き下げた。俺もバカだ。どうしてゴム紐のズボンを履いていたんだろう。
慌てて起き上がろうとするもチン質は今も尚続いていて、あろうことか、少年がそれをゆっくり口に含んだのだ。舌がまるで一つの生き物のように動きまわって快楽の波を引っ切り無しに生み出していく。

男同士でするなんて気持ち悪い。その考えは変わらない。けれどもう、今は頭も心も身体も全部がドロドロに溶けていてどうしようもなかった。

今まで一度も味わったことの無かった絶頂に目元を隠していた腕もいつの間にか両脇に力なくぶら下げるしかなくて。荒くなった息を吐き続けながらぼんやりとギラギラ光っている天井を見つめた。
ごくん、と飲み干す音がやけに大きく聞こえたが、もはやそれが何なのかすら考える頭がない。次いで封を切る音がして、視線だけ下に向けると歯に銜えたまま手慣れた手付きでゴムを取り出す少年が見えた。俺の視線に少年が気づくと、うっとりとした表情を見せる。……つい可愛いと思えてしまうぐらい俺の脳みそはイカれていた。

「そろそろぼくもいいかなあ」

ゴムを付けられたのはなぜか俺だけ。訳が分からないがただ少年を見ていると、いつの間にか全裸になっていた身体で俺を跨いで立膝をつく。腹につくぐらいそそり立った少年のものがそのまま見えて一気に現実に引き戻された。その直後、今までにない快楽に襲われる。
片手を俺の胸元に押し当て身体を支えながら、ゆっくり腰を落としていく少年。ビクビク身体を震わせて、全部咥え込んだことを確認するように眺めるとそのまま上下に動き始めたのだった。

あとはもう、されるがままだ。
頭がまっしろ、視界はチカチカ。
言葉にならない声を出してしまったことが何回あっただろうか。何を言って、何を言われたのかすら覚えてないが。


「…………」

次に目が覚めたとき、全部悪い夢だったんだと思った。そうだ俺がまさか、男で、だなんてそんなバカな。ははは。はは、は……。
手触りは、まんまシーツ。そして腕に触れているのは誰かの肌で。恐ろしいものを見るように視線をゆっくり横に動かして。

「おはよお、アヤトくん」
「…………やっちまった、」

にこり。うつ伏せの体制で枕を胸元に抱え込むようにいれて、片手で顎を支えながら俺を見ているピンク色のエロ猫を見た瞬間に飛び起きた。頭を抱えて下を見れば、俺のフルなチンが可哀想なことになっていた。まるで精気がない。吸いつくされて死んでいる。しばらく再起不能なのでは。

「もう、途中で気絶しちゃうなんてひどいよ。あ、でもお、それぐらい気持ちよかったってことだよね?」
「っああああ!バカ!嘘だ!やめろ!!」

薄っぺらい毛布をを引っ手繰って頭から被って膝を抱える。嘘だ、こんなの絶対嘘だ。
この俺が、男で童貞卒業だなんて。そんな馬鹿な。

「どーよ、ぼくのテクニック。女の子とするより気持ちいいと思うんだけどなあ」
「ばっかじゃねーのっ!?男同士なんて気持ち悪いだけだってーの!!」
「どの口が言うんだかあ」

にやにや。どこかの誰かと似たようなクソムカつく笑みで俺を見る少年に中指を立てる。ファック!!チクショー!!テメエは練習だコラァ!次は絶対美人で巨乳なお姉さんとえっちするんだかんなクソボケエ!!

心の中で叫びながら歯ぎしりをしていると、電話が鳴る音がした。思わずびくりと肩を飛び上がらせると少年が笑いながらベッドから起き上がり素っ裸のまま受話器を取った。あんなところに電話があったのか。知らなかった。
一言頷くとすぐに受話器を戻して俺を見る。

「今回はここまでみたい」
「っしゃおらぁ!ようやくテメエともお別れだなクソビッチ猫!俺の童貞を奪いやがってえ……!」
「君の初めてをぼくにくれてありがとう。とっても素敵な夜だったよお」

少年のウインクにゲロを吐く真似を見せてから、急いで着替えて分厚いドアノブに手をかけた。ふと、後ろから俺の名前を呼ぶ声がした。少し悩んでから渋々後ろを振り返ると、少年が一瞬視線を斜めにさげて照れ笑いを浮かべる。

「あのね、……ぼく、たくさんお話しできて楽しかったよ」
「あーそーですかー」
「また来てほしいなあ。なんて」
「テメエが変なことしなけりゃまた来てやってもいいけどお?」
「ごめんってばあ。今度は手出さないように我慢するから。……待ってるね、アヤトくん」

ひらり手を振る少年を見る。真っ白いシーツ一枚を羽織って広い部屋に立ちつくす少年を、俺は口先を尖らせたまま返事はしないで扉を開けてまた閉めた。重たい扉が再びしっかりと閉まり、俺をまともな世界へと引き戻す階段を下りていく。
どんどんどんどん降りてゆき、ロビーで暢気に受付の人と話しているロロを思い切りぶん殴った。殴って避けられ、蹴って空振って。

店の前の道。朝はものすごく静かで、夜の賑やかさと華やかさの欠片もなかった。都会の中のただの寂れた一角にすら思えた。

そうしてまた、俺と少年の世界は離れていく。




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