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サンギタウンまでも道行くトレーナーとバトルをしながら進み、ポケモンセンターで一休みする。そして19番道路。「お得な掲示板!せっかくの出会いです いろんな人とお話ししましょう!」なんて書いてあるのを横目に通り過ぎ、ヒオウギシティにやってきた。
ポケモンセンターで回復をして、出て、すぐ横。モンスターボールの銅像が入り口の両端に置かれてあり、また金縁の赤い旗が揺らめく学校のような外装の建物。……き、来てしまった。ヒオウギジム。

「じゅ、じゅんびはいいか、いのり……」
『アヤト、だいじょうぶ……?』
「お、おうっ!おおおおれはこのとおり、」
『じゃあいこう』
「お、おおうっ!」

ボールに戻る祈を見て、入り口を見て。……やばい、心臓がうるさすぎて頭がくらくらする。中にはジムリーダーの他にもトレーナーがいる。このジムがどんな内装だったのか薄っすらだけど覚えているが、緊張しすぎてなんかもう色々ぶっ飛んでいる。思うように動かない足と、誰も見ていないのに道行く人の視線をすごく感じて早く入らないとと焦る気持ち。

『ほらアヤくん、早く入りなよ』
「あっ、ま、まだ心の準備が……!」

そんな俺に笑いを含んだ言葉を投げ、勝手に中に入って行ったロロの背を反射的に追いかけてしまった。
……あ。入って、しまった。足元を見ると緑色のマットの上。横にはお姉さん、目の前には並ぶロッカー。横にいるお姉さんはトレーナーだったっけ。それとも「おーっす!みらいのチャンピオン!」とかいう人だったっけ。でもアイツは確か男だったな。ならこのお姉さんは。

「こんにちは!アデクさんはいないわよ」
「は、はあ」
「これからは若い人の時代だからって、先生を断られたのよね」
「は、はあ……」

金髪のお姉さんの話は、それだけだった。一体彼女は、なんなのか。なんだかここがジムなのかどうかすら分からなくなってきてしまった。ロロの揺れる尻尾を見ながらお姉さんに背を向けて、薄っすら酸欠気味になりつつ歩き始めた。
床の色が変わる。カラフルな床に、並ぶ机。本当に学校みたいだ。そこで男の子と目が合い、もしやここでバトルか!?と思わず構えてしまったが、なぜかディフェンダーをもらう。そしてやっと思い出す。……そうだ、ヒオウギシティのジムは、学校の中にあったということを。

『ほら。この先が、君の本命だよ』

ロロはすでに知っていたかのように、開きっぱなしのピンク色で塗られている扉の先を尻尾で指し示した。
拳を握り、今度こそ自分の意思で扉を抜けると、広い校庭──……ではなく、バトルフィールドが見えた。地面に描かれた白い白線。中央にはボールの形。……やばい、本物、だ。
立ち尽くす俺に、真っ先に話しかけてきたのが「おーっす!みらいのチャンピオン!」っていう本人だった。ゲーム通り、おいしい水を渡される。俺の好きなものなだけに少し嬉しくなった。そしてその先。背を向けていた男は、。

俺に気づいて振り返った男は、想像していた以上に整った顔だちと爽やかな笑みを浮かべていた。見た目や第一印象は完全に教師のそれである。よくまあ立派に成長したことだ、なんて、俺より年上の相手に思ってしまうのは前作もプレイしていたからだろう。

「ああ、チャレンジャーだね。ようこそヒオウギシティのポケモンジムへ!ぼくはチェレン。ジムリーダーをしています」
「お、俺はアヤトです。……よろしく、お願いします」
「よろしく。さあ二人とも、チャレンジャーを迎える準備をするよ。持ち場に移動して」

はい。返事をする二人がチェレン越しに見える。そうだまずは、この二人に勝たないとチェレンに挑めない。俺が思っていたことと同じことを説明すると、ジムリーダーが一番奥へ歩いて行った。その手前には二つのバトルフィールドがある。本命はチェレンだ。その前のトレーナーはさっさと片付けよう。

まずはたんぱん小僧と勝負だ。立ち位置に付き、ボールを構える。
おいおい、何ビビってんだよ俺。たんぱん小僧とはもう何度もバトルしてきただろう?とっととやっちまおうぜ。自分を奮い立たせるのも大切なことだと、虫取り少年のアイツから教えてもらったことだが、だいぶ効果はあるようだ。

「よろしくな!」
「よろしく」

ボールを握る。まだ心臓はうるさい。けど、やれる。

「バトル、はじめ!」

旗が上がる音と同時に、思い切りボールを投げた。赤い閃光が走り地面に落ちる。相手も同じく。フィールドにはミネズミとレパルダス。聞いて驚け、なんとあのロロが、今だけ俺のポケモンとして目の前に立っている。どういう風の吹き回しなのか、ジムリーダーまでのトレーナーの相手はやってあげようとか言ってきたのだ。悔しいけれど甘えて今に至っている。なんてったって100レベのロロだぜ?負ける気がしない。

「行くぞロロ!」
『いつでもどうぞー』
「猫だまし!」

やる気のない声に、イラッとする時間さえなかった。音も無く、目の前で小さく土埃が起こったと思えばすでにミネズミの目の前まで移動していたロロが、宙で一回転した直後、尻尾で地面を叩きつけるとバチィン!とものすごい音がした。大きな両目を激しく瞬いて驚くミネズミの姿が見える。ミネズミだけじゃない、俺だってめちゃくちゃ驚いた。

『アヤくん次は?』
「っつ、辻斬り!」
『はいはい』
「ミネズミ、すなかけ!」

俺の声にハッとしたようにたんぱん小僧も指示を出してきた。しかしそれも一歩遅く。ミネズミが砂をかこうと手を地面に付けたときには、既にロロの爪が目の前にあったことだろう。風の切れる音と、ロロの着地する音が重なり。……ミネズミが、倒れていた。

審判の旗が、俺の方の旗が上がる。
……甘くみていた。ロロを、甘くみすぎていた。まさかこんなにあっさりと、しかもムカつくぐらい華麗に勝ってしまうなんて。唖然としている俺の方を振り返り、レパルダスの姿でもはっきり分かるぐらいのニヤつく表情を見せられた。正直腹が立ったが、バトルには文句の付けどころが全然なくて口を噤むと面白そうに尻尾を揺らす。ロロの目的は俺に自分の強さを見せつけるためだったのか。有り得なくはないだろう。
次いで、ヨーテリーもあっさり倒してバトルはものの数分で終わってしまった。なんというか、……なんというか。

「君強いな!それともポケモンが強いのか?そうだなポケモンが強いんだな!」
「……」

自己解決するたんぱん小僧と握手を交わす。……俺だって強くなったしい。ポケモンだけの強さじゃねえしい。、とは言えず。渋い顔でお礼を言ってから、ミニスカートな女の子が待つ次のバトルフィールドへと向かった。




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