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『さあ、いよいよクライマックスです!チャンピオン・トウヤ、最後のポケモンは……おーっと出ましたッ!!数多のチャレンジャーを退けてきた最後の難関、そしてこのイッシュの地を護る伝説のポケモン!はくようポケモン、レシラムだーーっ!!今再び、巨大な純白の翼を広げてチャレンジャーの前に立ちはだかる!!』
『いやあ、いつ見ても神々しいですねえ』

巨大スクリーンの向こう。レシラムの登場と同時に土埃が立ち込め、観客の熱狂的な歓声がスピーカーを通してでもビリビリと伝わってくる。一旦上空からの画面に切り替わると、満員の観客席が映った。

『さあ、対するチャレンジャー・アヤト選手のポケモンは、……どうやら先ほどに引き続きニンフィアで戦うようですね。イッシュ地方では見慣れないポケモンですが、その愛らしい姿から爆発的人気が出ているアヤト選手のニンフィア!巨大なレシラムを相手にどこまで戦えるのでしょうか!?』
『可愛い見た目から想像ができないほど勇敢に戦う種族ですね。タイプ的にも有利ですが、先ほどのエンブオーとのバトルでだいぶ体力を消耗しているようですし……』

「うおーっ!!アヤト様ーーッッ!!もうちょっとっスーーッ!!」

首にかけていたタオルを引っ手繰ると、叫びながら頭上でぐるぐる回しているトル兄。ここ最近見かける度にやたら疲れているなと思ったら、今日この日のために仕事を全て早めに片付けていたらしい。毎回録画もしているというのに、さらにリアルタイムで観戦する熱狂っぷり。……まあ、その気持ちが分からないわけではないけれど。



『素早い動きで錯乱するニンフィアに対し、堂々とその場から動かないレシラム!まさに王者の風格!……と、ここでニンフィアのムーンフォース!レシラムすかさずクロスフレイムで相殺!会場が一瞬にして幻想的な景色となったところ、爆風に包まれる中、まだまだニンフィアは止まらない!果敢にレシラムの懐へ飛び込みました!!マジカルシャインから……再びムーンフォース!決まったあ!決まりましたあ!……が、おっとお!?レシラム倒れない!未だ立ちはだかっているー!!』

「おい、見ろよひより。今日のモヤシ野郎、本気だぜ?あのクソガキまた負けるんじゃねえか?」
「いいや、アヤトは負けない。今度こそ勝つと言っていたからな」
「……グレ兄の言う通り。それに今回は俺も鍛えた。美玖から秘策も得たと言っていた。だから絶対に負けない」
「あ?テメエらには聞いてねえよ」

テレビの前。張り付くように見ているキューたんとグレちゃん、そしてセイロンの後ろ姿を見た。聞いているとまるでケンカをしているようにも思うけれど、彼らはいつもあんな感じだし、並んで座っているのを見るとどこか可愛く見えてつい笑みが零れてしまう。一緒にご飯の支度を手伝ってくれている陽乃乃くんも、小さくくすりと笑う。
……大丈夫、アヤくんならきっと。



『距離を開けるニンフィアに対して追いかけるようにストーンエッジが繰り出される!そして、……げきりん!レシラム、怒涛の反撃だーッ!』
『前回もニンフィアにはかなり苦戦していましたからね、今回はチャンピオンも特に警戒しているようです』
『ジャッジさん、この戦いはこれからどうなるでしょう!?』
『難しいですね。ただチャレンジャーであるアヤト選手は今回で3回目の挑戦となりますし、もう後がありません。なので個人的には応援していますよ』
『ずばり、勝敗の決め手は!?』
『ここでいかにニンフィアがレシラムの体力を削れるかにかかっているでしょう。あとは噂の"切り札"を出すか否か……』

「ハーさん見てよ!?祈ちゃんがあんなボロボロに……なのにまだ立ち向かって……うう……っそりゃこんな姿見せられたら惚れないわけがないよお……なんて強く美しい子なんだあ……っ!」
「うむ、ハーくん。しっかり見ているから揺らさないでほしい。しかしアヤト……今回はどうするのだろうな」

今度アヤトたちが遊びにきたとき、祈ちゃんと詩ちゃんからサイン貰わないと。忘れないように心に刻みながら、ハーさんの言葉を聞いて再び画面に視線を戻す。
……イッシュ地方全土に生放送される四天王戦・そしてチャンピオン戦。一度目は四天王最後で敗退、二度目はレシラムに敗れ、そして今回……。一度目に"切り札"を出したことで一躍色々な意味で有名になったアヤトたちだが、二度目は出さなかったことでまた名を広め、今では全国民が注目しているトレーナーと言っても過言ではない。……さて、今回はどうなることやら。でもまあ僕の予想では、。



『激しい攻防戦が続いておりますッ!ドレインキッスで自身は回復しながらもじわじわと相手の体力を削るニンフィアと、クロスフレイムやだいもんじといった大技を連続で出し、余裕を見せているレシラム!圧倒的力の差を見せつけられているようですッッ!!』
『いやしかし、毎度彼のニンフィアには魅せられますねえ。何度も立ち上がる姿はこう……胸を打たれますよ』
『どうやら会場も見入っている様子……っと、ここで……っここで来るか!?まさかのレシラム、りゅうせいぐんを繰り出したーッ!!見た目の美しさとは裏腹に物凄い威力ですッッ!数多のチャレンジャーを戦意喪失させてきた技が!今ここで出されましたーッ!!ニンフィアは、ニンフィアはどうなったのでしょうか!?私のところからでは未だ土埃で姿が見えません!』

「シュヴェルツェ。君こそあの会場で見るべきではなかったのかい」
「エネにも"見に来てね"と言われたが、オレはマハトと共に見届けたいと思ったからここへ来た」
「……そうかい。君を見ると、どうしても彼を思い出してしまうからあまり気乗りはしなかったんだが……それが狙いだったのかな」
「さて、どうだろうな。しかしマハトが思い出してくれるなら、博士もきっと喜んでいることだろう」

小さなテレビの前から動かないシュリとリヒトの母親とは対照的に、少し離れているこのテーブルでオレと向かい合って座っているマハトを見ると、少し変な表情をしていた。む。また間違ったことを言ってしまっただろうか。……しかしリヒトの母親が淹れてくれる紅茶は美味い。一口飲んでからカップを置いたとき、画面から人々のざわめく声が聞こえてきた。あらゆる方向から撮られている映像が映る中、上空からの映像が一瞬映った。途端、マハトも立ち上がってテレビの前まで歩いて行く。……ということは、。



『っと、ここで……ああっ!ついに旗があがる!ニンフィア、戦闘不能だーっ!りゅうせいぐんに弾き飛ばされたニンフィアの元へ向かうアヤト選手!会場からは感動の声があがっているッ!バトルはまだ終わっていないにも関わらず盛大な拍手が聞こえてきておりますッ!!』
『いやあ、ニンフィアかなり粘りましたね。素晴らしいバトルでした』
『さてここでアヤト選手、ニンフィアをボールに戻して……レシラムを見上げています!高すぎる壁を前に彼は何を……』
『ははあ、笑っていますね』
『さすが不屈のアヤト選手!前回の悔しい表情から一変、今回は笑顔でレシラムを見上げている!!』

──……そりゃ、笑う。笑っちまうよ。
この広すぎるバトルフィールドと、その周りを囲うようにいる大勢の観客。鳴り響く人々の声や自分の心臓の音。激しい緊張が燃え滾る思いに変わり、ただ今はひたすらに楽しい。もう一生味わえないかと思うほどに楽しいと思っている。
ロロ、エネ、イオナ、詩、祈。ここまでやっと繋いできた勝利への道。

「……容赦ないっスね、マシロさん」
"わざわざ私を指名して、さらに全力で戦えと言ったのは君だろう?……しかし、ああ。君たちはこの2年でまた強くなったね。私もとても楽しかったよ"
「"楽しかった"、……はは。いや、いいや。まだまだこれからじゃないですか。
 
 ──……今日こそお前をぶっ倒す」

……目の前。
黒い影が勢いよく落ちてきて地面を抉る。青く長いマントがふわりと地面に落ちる手前、一瞬にして会場全ての音という音が消えた。数多の視線に射貫かれる中、ゆっくり立ち上がりながらマントを脱ぎ捨て、ただ目の前の壁を見る。

観客席が明らかにざわついている。リヒトには色々聞こえているかも知れないが、それでも振り返らずに前を向くというのなら俺も心配することはない。
コートの袖口を少し下げ、手首で仄かに光る虹色の石に触れると一気に光が溢れ出す。……もうブーイングは聞き飽きた。だから今日は、もっとすごいものを見せてやろう。

「よく見ておけよ。
 ──……これが俺の、"切り札"だ」




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