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「……、よし」

チルットのマスコットが付いたボールペンを静かに置いて、ノートを閉じる。
ココちゃんたちと一緒に行ったコガネ百貨店で買ったノートには、私の文字で埋めつくされたページがすでに何ページもある。
──……元の世界のことを忘れないように。そして、もう二度と大切な人たちのことを忘れてしまうなんてことがないように。

「見られないようにーっと、……」

私の心情も、このノートには包み隠さず書いてある。だから誰にも、絶対に、このノートの存在を知られてはならない。もしも見つかり、見られてしまったのなら……、うわ、考えるだけでも恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。

『……ひより』
「っ!?」

その声に思わず身体を飛びあがらせてしまった。それと同時に慌ててノートを鞄の奥底に隠し、その上にあらゆるものを乱暴に乗せていく。……部屋は暗く、元から設置してあった卓上のライトしか付けていなかったことが救いか。

『……何、してたの?』

コジョンドことセイロンが足元までやってきては私を見上げて首を傾げる。

「えっ、!?何もしてないよ!?え、えーっと、そう、寝てた!座りながら寝ちゃってたんだよー!」
『……?』
「そっ、それよりセイロンはどうしたの!?」

訝しげに小首を傾げるセイロンを、咄嗟に抱き上げて思い切り抱きしめた。苦し紛れの行動である。……が、これがどうやら正解だったらしい。一瞬、驚いたような声が聞こえたがそれもすぐに柔らかな声色に変わる。

『……やっと、ひよりから俺に触れてくれたね』
「──……え、」
『……すごく、嬉しい』

ぎゅう、と抱きしめ返されるそれに私は思わず固まってしまう。
……そうだ。以前は私からよくセイロンに抱きついていた。けれど言われてみれば、確かに再会してから一度も私から触れることは無かった。もしかすると無意識に遠ざけてしまっていたのかも知れない。

『……俺はひよりさえ居てくれればいい。ひよりだけいれば、……、』
「……セイロン?」

その言葉に戸惑いつつも、途切れた言葉の続きを待ってみたがそのままセイロンは口を閉ざしてしまった。
そうして開きっぱなしの扉の向こう、今度は別の声が私を呼んでいる。がやがやと色んな声がひしめくあちらは、セイロンにとって居心地の悪い場所になっているんだろう。だから私のところにやってきたのかもしれない。

「ねえセイロン」
『……なあに?』
「お腹空いたね」
『……』
「その姿のままなら私の膝の上でもいいよ」
『……!……お腹、空いた。早く行こう、ひより』

すぐに態度を変えるセイロンに思わず笑みを零しながら、大人しく手を引かれて一緒に部屋を出る。

「おうおう嬢ちゃん、遅ぇよぉ!」
「ごめんごめん」

広いテーブルには色とりどりの料理が並び、あーさんの周りにはお酒がずらりと並んでいる。すでに飲んでいるようで、もう酔っぱらっているようにも見える。相変わらず、酔いが回るのが早いらしい。

「はいはーい、席についてくださーい!」

チョンの掛け声に、料理を運び終えたグレちゃんとロロも捲っていた服の袖を下ろしながら席につき、それに続けて私も座る。空かさず私の膝の上に飛び乗るセイロンを見て、隣にいるマシロさんが笑みを浮かべるとセイロンは少しばかり視線を逸らしていた。

「えー、この度はお集まりいただきー、誠にありがとうございますー」
「なぁ、それより早く食おうぜぇ?」
「……そうだねー、オレもお腹ぺこぺこー」

椅子から立ち上がってチョンが話している間、私たちの目の前では小皿やお箸などの受け渡しが行われていたり、つまみ食いしようとしていたロロの手を私とグレちゃんで叩き落としたりしていた。つまり、好き勝手にやっている。……この感じ、久しぶりだ。

「みんなー、グラス持ったー?あ、オレはモモンジュースがいいー!」
「私もモモンジュースがいいー!」

チョンの真似をしてグラスを持つと、完全にお世話役に回っているグレちゃんが私たちのグラスにジュースを注いでくれた。
そうして各々のグラスを持つ中、チョンがそっとグラスを高く持ち上げる。

「それではー、色んなことを祝してー!乾杯ー!」
「「乾杯ー!」」

チイン、と響くグラスの音。それから「色んなことってなんだよ」とすかさずツッコミや笑い声が部屋にドッと生まれた。
音という音、全てが"今"を色づけているこの時間が、とても愛おしく感じた。









──厚い雲を切り裂いて、それは段々と降下を始める。

「……キュウム、そろそろだ」
「はい、ゲーチス様。このワタクシが、最高のパーティにして差しあげましょう!」

……その時は、刻一刻と着実に近づいていた。



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