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今度こそ三人を見送り、一度大きく息を吸い込んだ。目を閉じて、ゆっくり息を吐きだしてゆく。
そうして目を勢いよく開き、入口向かって飛び込む。
「なんだ、お前!?」
「お願いグレちゃん!電撃波!」
ここは先手必勝だ!プラズマ団よりも先にボールを放り投げることに成功し、ひと足早く攻撃を繰り出す。
光るたてがみからバチバチと音がなったと思うと、鋭い線を描きながらプラズマ団めがけて電気が走る。瞬間、小さく悲鳴があがったと同時にプラズマ団の一人が床に倒れた。必ず当たる"電撃波"。グレちゃんに威力を出来る限り弱めてもらったものの、痺れはしばらく治らないだろう。
わずかに申し訳ないと思いつつ、敵が一人減ったのを確認してから続けて指示を出す。残されたプラズマ団も慌てながらもしっかりポケモンを出しているのを見ると、大人しく退くつもりはないらしい。
「あなたは100%、パーフェクトに侵入者ね!レパルダス、ねこだまし!」
音が鳴り、一瞬、動きが止まった隙に懐に入られグレちゃんが一歩後ろへ下がる。
「グレちゃん!」
『かすり傷だ!』
声とともに足を振りあげ、レパルダスを蹴飛ばした。飛ばされながらも身体を捻って宙で一回転するレパルダスは、また軽やかに地に足をつける。本拠地というだけあって、プラズマ団たちのポケモンも決して弱くはない。
「電磁波!」
「みだれ引っ掻きよ!」
……しかしながら、こちらの方が上である。
指示に従い、電磁波を浴びたあとも歩みを止めないレパルダス。が、麻痺は回避できない。小さく呻き声が聞こえた瞬間、雷鳴が轟く。
「放電」
空間全体が電気に覆われ、一瞬、真っ白になった。その中をさらに明るい白が走るのを見る。次第に焦げた臭いが漂い、煙も徐々に消えてゆく。
前を見るとすでにレパルダスの姿は無く、代わりにボールから赤い閃光が出ているのが見えた。
「このままだと侵入される……っ!」
プラズマ団の女はそういうと、未だ麻痺して動けない仲間を引き摺るように抱えて私たちを睨んだまま外へと逃げるように駆け出した。大人しくそのまま見逃して、私は視線を先へと向ける。
「本当だ。バリアだ……」
『高圧電流が流れているみたいだな。ひより、絶対触れるなよ』
「う、うん」
妖しく黄緑色に光る台の手前、青白い光が幾重にも連なって私たちの行く手を阻んでいる。高圧電流のバリアですら、プラズマ団の科学力があれば簡単に設置できてしまうのか。
なんとなくゆっくりバリアから離れては隣にある機械の前に立つ。画面を見ると、"パスワードを入力してください"の文字が浮かんでいる。案外適当な文字でも入れてみれば解除できるかも知れない。なんて思いながら画面に映っているキーボードに指で触れた。
──瞬間。
「…………え?」
『解除……できた……!?』
電子音が規則的に鳴りながら青白い直線の光がどんどん消えてゆく。唖然としながら画面を見ると、確かに「パスワード入力成功」の文字が並んでいる。わけがわからない。
『ひよりが解除したのか……!?』
「た、確かに今画面には触れたけど、"あ"しか打ってないよ!?」
本当に、適当に最初の文字に触れただけだった。まさかパスワードが"あ"だけな訳が無いだろう。
何となく嫌な予感がして、慌てて画面から手を離してはグレちゃんの元へ行く。そうして、まるで私たちを待っているかのように光り続けている黄緑色の光を睨んだ。不規則に上へも光を飛ばしているあの装置は何だろう。
『うーん、ボクの出番かな?』
セレビィくんが姿を現す。それと一緒にボールががたがたと揺れ出した。……本当は出したくはない。けれど自ら名乗り出たんだもの、私が止めてもきっと彼は行ってしまうんだろう。
「……チョン……、」
『あー、そんな顔しないでよー、ひよりー!ただ様子を見てくるだけだってばー』
『そうだよそうだよ!それに伝説のポケモンである、このボクだっているんだから!心配ないない』
「……うん、」
どんな仕掛けになっているのか分からない。それに仕掛けが一つとも限らない。
心配だけど、……二人を信じて待っていよう。一度、羽を広げるチョンの前に屈んでから抱きしめる。
『あれ、ワープ装置みたいだよ。踏むとどこかへ一瞬で移動できるみたい』
セレビィくんが言っているのは、あの光り続けている黄緑色の光のことだ。
「どこかって、どこ?」
『さあ?ボクにも分からないけど、この船の中のどこかだと思うよ。まあ変なところに行っちゃったらすぐ時渡りで戻ってくるからさ』
そんなセレビィくんを見ていると、腕の中の感触が変わる。さっきまでは私が抱きしめていたのに、いつの間にか逆に抱きしめられていた。どくん、どくんと音を鳴らすチョンの心臓は少しばかり速い気がする。
「すぐ、戻るからね」
「うん……待ってるよ」
「うんー!」
身体を離して、立ち上がるチョンを見る。私も後からゆっくり立ち上がり、慎重に歩みを進める彼らを見守った。バリアがはっていたところは特に何も無く通過し、いよいよワープ装置だ。
一度、チョンが立ち止まり、片足をそっと上げる。そうして光を踏む。その瞬間、──……二人の姿が、一瞬のうちに消えた。
「……どうか何事もありませんように、」
目を閉じて、両手の指を絡ませてはしっかり握る。祈るしか、今の私にはできない。
そうして再び目を開ければ、いつの間にかグレちゃんが私のすぐ横に来ていた。特に言葉は何もなく、視線も二人が消えたところへ向いたまま。そんな彼に少しばかり身体を傾けると、鼻先が擦り寄った。
……どうか、どうか。