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『わあーひよりー、随分お腹大きくなったんだねえー』
「そうでしょう?ときどき、お腹の中で動いてるんだよ」
『へえー……すごーい……!』
笑いながらお腹を撫でて、小さな画面に映されているチョンを見た。
チョンはまた配達の仕事を始めたらしく、首からゴーグルを引っ提げている。飛べるようになったと聞いたときは、嬉しさと感動のあまり画面越しに号泣したものだ。そうしてまた、いつかその背に乗せてもらうことを再び約束したのはいつのことだったか。
『……ひより、今日は体調、大丈夫……?』
「心配してくれてありがとう、セイロン。大丈夫、今日はいつもより良いの」
『……そっか』
優しく微笑むセイロンに笑い返すと、ふと画面が揺れた。
セイロンを押しのけた直後、画面いっぱいに顔を映し出される二体の人形に吹き出せば次にロロが現れる。
『あーあ、とうとうひよりちゃんもお母さんかあ……嬉しいような、寂しいような……』
『聞けよ、ひより。コイツ昨日、お前とシマシマ野郎の名前呼びながら号泣、』
『余計なことは言わないんだよ』
なんだかんだ、キューたんとロロは気が合うらしい。コントのように息のあった動きにまた面白く思いながらも、キューたんの頬を抓っているロロに訊ねる。
「ロロ、ココちゃんは?」
『順調だよ。美玖くんと陽乃乃くんと一緒に、一旦ジョウトへ戻ったよ。……あと最近、あーさんもいい人見つけたらしくてさあ。おっさんにもとうとう春が来たって大騒ぎだよ』
「ええっ、そうなんだ!?」
楽し気に話すロロに、私まで楽しくなってくる。それからゆっくり座り直していれば、"大丈夫?"なんて心配の声が聞こえた。頷くと、ちょうど玄関で鍵が開く音がする。画面越しのロロにも聞こえていたらしく、"うわ帰ってきたよ"なんてあからさまに口先を尖らせて見せていた。
「おかえり、グレちゃん」
「ただいま、ひより」
するりと頬に添えられる手に目を瞑り、互いに頬にキスをすると画面から低い声が聞こえてくる。言わずもがな、ロロである。
グレちゃんはその声で、やっと向こうと繋がっていたことに気付いたのか、私の頬に手を添えたまま画面を見つめて固まってしまった。
「…………ロ、ロロ。いつから居たんだ……?」
『ええ、そりゃもう最初からだよ!なんだよー!俺はグレちゃんをそんな子に育てた覚えはないんだけどなっ!』
「わ、悪い……知らなかったんだ。見なかったことにしてくれ」
『やだね、断る!みんなに言いふらしてやる!』
「いや、頼むからやめてくれ……」
不貞腐れるロロに弁解するグレちゃんの顔は真っ赤で余計に面白い。
『くそーっ!いいよ、俺はひよりちゃん専用の愛玩ポケモンだから!愛人だから!』
「そうなの?」
『そうなの!!』
それじゃあまたね!なんて、いつもより随分早く電源を落としてしまい、画面がすぐに真っ暗になってしまった。それにグレちゃんと顔を見合わせてからクスクス笑う。
画面を閉じてから作っておいたご飯を用意するため立ち上がろうとすれば、そっと肩を押さえられて代わりにグレちゃんが立った。……慣れない仕事で疲れているだろうに。だけど、この身体のことを考えると今はすごく有難い。
かなりの重量を持ってきたお腹を支えるのはとても体力がいる。それに後期に入ってからは目まぐるしく体調が変化して、その度にお仕事中のグレちゃんを呼びだしては病院にお世話になるという日々。
……正直、すごく大変だけど、この先の未来にはきっと計り知れない喜びと幸せがある。立つと足元が見えなくなるぐらいまで膨れたお腹をゆっくり撫でていると、グレちゃんが料理をテーブルの上に置いてから、そっと私のお腹に触れる。
「……楽しみだな」
「ふふ、そうだね。……そうそう、私、グレちゃんのことパパって呼ぼうかなって思うんだけど、どう?あ、グレちゃんも私のことママって呼んでもいいよ!」
「…………か、考えておこう……」
そっと視線を逸らすグレちゃんを見ながら、またお腹を撫でる。
……早くあなたにも見せたいな。この幸せで、素敵な世界を。