とある国際警察の呟き


新入りと一緒に、事件の真相を追うことになった。

──今回の事件は連続監禁事件である。
ここ数日間で行方不明となった人・ポケモンの数は10人を超えている。場所は特定されておらず、調査の結果、一番被害が出ているのはコガネシティだと判明した。被害者の年齢や性別に一貫性はなく、無差別犯罪だと思われる。

この内容を聞いた限りでは、よくある事件と同じだと思った。しかし、今回は普通と違う点がある。
某被害者の証言によると、何をされるでもなく、ただ数日間の間暗い部屋に閉じ込められて他愛もない会話をしていただけだという。犯人は姿を一度も現すことなく、声のみのやりとりだったらしい。親切なことに食事もちゃんと出ていたというのだから、ますます意味が分からない。
その一方、同じ手口で連れ去られては残忍に殺されていたケースもある。どちらも同じ犯人なのかは、未だ調査中だ。

「何を考えてこんなことをしているんだろうか……」
「……うん、俺。……そうだよ」
「って、おい!仕事中だぞ!」

仕事中に堂々と私用で電話をかけるなんて非常識だ。俺の刺さるような視線にはビクともせず、変わらず電話を続けている新入りを横目で見る。
──コイツは少し、変わっている。

「そっちはどうなの?……ああ、そうだよね」

コイツはやたら電話をかけている。いつも誰と話してるか分からないが、これが女だったらぶん殴りたいと思う。
こんなに前髪も伸びていてぱっと見ると根暗な印象を受けるのに、よくよく見ると整った顔立ちだから女に言い寄られるヤツなのだ。本当に世の中、理不尽だ。顔が全てではないのに……おっと、話が逸れてしまった。

「わかった、うん、また」
「……終わったか?」
「はい、終わりました。……言っておきますけど、俺が仕事中に電話かけるのは先輩と一緒のときだけですよ」
「なるほどな。お前が俺のことを舐めているってことがよーく分かった」
「違いますよ。何だかんだ言いつつ待っていてくれる優しい先輩だから、その優しさに甘えているんです」
「…………」

そういうと微笑みながら懐にライブキャスターをしまって、制帽を被り直す。……口が上手いところも、女が寄ってくる要因だろう。
そうして警察手帳を取り出しては歩きだすヤツを見る。やたら家宅捜査をしたがるところも変わっている。訳が分からない。警察手帳を持っていることを良いことに片っ端から家を訪ねているのだ。まるで事件とは関係ない誰かを探しているような気さえする。まあ、捜査に貢献しているといえばしているが……。

「先輩、何しているんですか。行きますよ」
「お前が言うな!」
「はいはい」

しかしまあ、どうして上もこんな身元不明なポケモンを雇ったのだろうか。いくら人手が足りないからといっても、身元を明かさずに国際警察をやっているヤツなんてコイツぐらいしかいないだろう。
この地方のポケモンではない上に、トレーナーもいないのに「いる」と言い張っているおかしな新入り。片目は眼帯で覆われているし、首には俺には理解し難い首輪のようなものを付けている。外見は……まあ俺が気に障るだけだが。

「……」

仲間内では、奴の隠された右目には何か秘密があるのではないかと噂になっている。俺も多少は気になるものの、眼帯を外すことはないから明らかになる日はもしかしたら一生ないだろう。
……まあ、今回はたまたま一緒に行動することになっただけだし、この事件が解決すればこいつとの接点も無くなるだろう。余計なことは考えず、仕事を全うしようではないか。

「遅いですよ、先輩」
「うるさい!」

気に食わないが、ヤツの後を追って足を運ぶ。
今回の事件、すんなり解決できれば早くヤツとも離れられるんだが……はあ、頑張ろう。



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