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ひよりと心音。二人と出会ってからのパピエはというと、──……あれから数日後。彼女自身も満足のいく、お気に入りの一枚を描くことが出来ていた。完成品を満足げに眺めては、大切に布を被せてしまい込む。
ついで、一人用のテントをのんびりと片付けたパピエは彼女のトレーナー……というよりは絵描き仲間と言った方が正しいだろうか。ともかく、家に帰るため、ひとり道を歩いていた。晴天で柔らかい日差しは、薄暗い森におたパピエの身体に染み渡る。とても暖かくて気持ち良く歩いている彼女だったが、ふと、気づく。

「……あう!そういえばお家には食べ物が何にも無かったです!」

彼女のトレーナーもパピエと同じく、別のコンクールに出展する絵を描くと言っていたことを思い出した。となると、誰もいない家には食料がない。
そうしてパピエは急いで道を戻り、コガネ百貨店へ向う途中。
──……突然、目の端で光る草むらに気が付いた。怪しい光に、パピエは一旦足を止めては、息を殺してその草むらをじっと見る。

「あうう……っ!」

どうしようかと唸りながら周りを見回してみるが、彼女以外に誰もいない。ともなれば、彼女は意を決する。"やられる前にやってしまえ"。

「……」

パピエだってポケモンだ。やるときにはやる。そう、内心で自分自身を鼓舞しながら、静かに近づいては距離を詰め。……そうして、草むら向かって飛びかかる!

「お前、不用心にもほどがあるぞ!」
「あうっ!?」

……草むら目がけて飛んだはずが、気づけば服の襟首を掴まれたまま宙づりになっていた。訳が分からず、パピエは宙づりのまま視線を上にあげると、黒髪の男が怒ったような表情で彼女を見ている。

「堂々と尻尾なんか出していると、ポケモンだとバレてしまうだろう!捕まったりでもしたらどうするんだ!?」

改めてみると、男も自身と同じポケモンだということにパピエは気が付いた。だが、今の発言はまるでこの土地を全く知らないようだと思う。

「あうう、もしかしてこの地方に来るのは初めてです?」
「……ああ、そうだが」
「あのですね、この地方ではポケモンが擬人化することはみなさん知っているです。なのでパピエが尻尾を出していても、捕まったりはしないですよ。安心です」
「そう、なのか……?」
「はいです」

パピエが頷く姿を見た男は、驚いたように切れ長の青い目で瞬きを繰り返してから「悪かったな」とパピエをそっと離した。
と同時に、彼女のスケッチブックが落ちた。その衝撃でページも開いて、ひよりと心音が描かれた絵が現れる。自分の絵にあまり自身がない彼女は、慌ててスケッチブックを拾おうとすすると、男の方が先に拾ってはジッと絵を見ていた。

すぐに返してもらえるだろうと、スケッチブックを見ている男の手前、パピエはもじもじしながら待っていたものの、いつまで経っても返してくれる気配がない。とうとう、パピエはゆっくり男の後ろに回ってからその表情を伺う。

「──……ひより……?」
「……あう?」
「これ……ひより、だよな……?」
「はいです。つい先日お友達になったひよりさんと心音さんです!」

パピエが誇らしげに答えると、男は大きく目を見開いてから突然俯き、目元に片手を当てたまま動かなくなってしまった。

「あうう、大丈夫、ですか?」
「……あ、ああ、……悪い」

心配そうに声をかけたパピエに対して、そっと男は顔をあげるとやっとスケッチブックを手渡す。それを大切そうに抱えるパピエを見ながら、男が訊ねる。

「なあ、ひよりがどこにいるか、お前は知っているか?」
「あう。正確な場所は分からないです。でもちょっとなら知ってますです」
「俺に教えてほしい。……頼む」

男がやたら深刻な表情で聞くものだから、パピエは思わず口を開きそうになってしまった。が、一度きゅっと閉じてからよく考えてみる。パピエは、絵描き仲間から「抜けている」と言われるが、知らない人に大切な友達のことを簡単に教えるほど抜けてはいなかった。
パピエは少し時間を置いてから、そっと顔をあげて男に訊ねる。

「失礼ですが……あなたはひよりさんと、どのようなご関係なんですか?」

彼女の質問に、男は一度視線を伏せた。それからゆっくり口を開き、質問に答える。

「ひよりは、……」



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