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「──それで、あの日から二年後のジョウト地方にひよりちゃんはいると……?」

ロロの問いに一度静かに頷くマシロさんは、急いで来てくれたのか息があがって肩で呼吸をしていた。

──ひよりを探して早二年。
手分けをして、イッシュ以外の地方も探して回った。似たような人間は何人かいたものの、ひより本人はどこにもいない。有力な情報もない。捜索は行き詰まっていた。
そんな中、とうとうマシロさんからセレビィを見つけたと連絡を受けて、一同ここに急遽集まった次第だ。二年前は嫌でも毎日顔を合わせていた仲間だったのに、今ではめっきり会わなくなった。だからなのか、久々に会った今、妙な気分になっている。

「二年後にいるんじゃ……ここでいくら探しても見つからないわけだ」

そう小さく呟くと、ふう、と息を吐くロロ。なんとなく少し近寄りがたい雰囲気を纏っている。眼帯と伸びた前髪でその表情は隠されていて、俺の位置からでは伺えない。

「ひよりはそのミロカロスのところにいるってことは無事なんだよねー?!」
「あの子が懐くぐらいだ。何かあってもそのポケモンが守ってくれるだろうし、きっと大丈夫だよ」

よかったー、とチョンが笑みを浮かべる。髪が伸びて大人びた顔つきになったものの、雰囲気は相変わらず。

「となると、問題はどうやってそこへ行くかだなぁ」

アカメのおっさんとは昨日ぶりだ。カントーからイッシュに戻ったときに、偶然再会して何度か会ってはいた。それのせいもあるとは思うが、一番外見で変化が見られない。

「……プラズマ団の問題もある」

おっさんとは反対に一番変化が著しいのがセイロンだ。背も急激に伸びて、もうチビなんて言葉は使えない。それに、……。

「それについてもみんなに話すことがあるんだ」

プラズマ団に追われていた日々は、時が経つにつれ、いつの間にか普通の生活に戻っていた。だから俺はてっきり自滅でもしたかと思っていたが、違ったようだ。
最近になって再びその名を聞くようになったプラズマ団の情報だということに、胸がざわつく。

「現在プラズマ団は、ゲーチス派とN派に分裂しているらしい。そして懲りずに世界征服をうたっているのがゲーチス派だ」
「そりゃあご苦労なこったなぁ。だが、今回はどうやって世界征服する気でえ?」

前回はNを傀儡にして成就させようとしていたものの、Nも現在ひよりを探して他の地方へ行っているはず。……もう使える駒はないのにどうするつもりだ。

「今度はどうやら力で征服するみたいでね」


それなら相当の力が必要だ。勿論その力を使うのはポケモンであって、あいつら人間ではない。となると必然的にそのポケモンは限られてくる。
伝説のポケモンであるレシラム、ゼクロム、……そして、

「今回の傀儡は──……キュウムだ」
「でもさー、ひよりを連れてセレビィの力で時間移動したわけでしょー?ならキュウムもここにはいないんじゃないのー」
「それが、彼だけはなぜかいるんだ。このイッシュにね。付け加えるとあれから一度姿を眩ませたが、つい最近またプラズマ団に戻ったらしい」

……分からない。キュウムの行動の意図が全く読めない。冷静に考えると別れ際、おかしい点がいくつかある。
無理やり連れて行くように見えたがひよりは最後、一人で俺のところまで歩いてきた。逃げる気があったなら逃げられていただろうに、あろうことかまた自らキュウムのところへ戻っていたのだ。
それにキュウム一人イッシュに残ったことも気になる。何故ひよりだけジョウトへ行かせ、その後一度姿を消したのか。何故主人であるゲーチスを凍らせたのか……。

「今のところプラズマ団に目立った動きは見られないが、用心するに越したことはないだろう」

マシロさんの言葉に頷きつつ、意図を探ろうと考える。そんな中、リンと鈴の音がなった。セイロンが付けている鈴だ。

「……それより、俺は早くひより探しに行きたい」

リン。この場の雰囲気を壊すような心地良い音を響かせる。

「でも方法が、」
「方法なら、あるよ」

マシロさんのその言葉と同時ぐらいだろうか。どこからか一人の男が現れた。灰色の髪に青いコート、無愛想な表情には不満が露わに出ている。……が、こいつがポケモンで強大な力を持っているということだけは分かる。

「貴様が言っていたのはこの小僧共か?」
「ああ、そうさ。……紹介しよう、彼はディアルガ」
「全く面倒くさいことこの上ないぞ!」

ディアルガ……確か時間を操る力を持つ伝説のポケモンだ。キツく赤い瞳が俺たちを睨みつける。

「ディア、宜しく頼むよ」
「マシロよ。貴様、この俺様がただで小僧共を飛ばすとでも思っているのか」

その言葉にマシロさんが苦笑いをすると、一歩後ろへ下がった。逆に手前へ出るのは隣にいた男……ディアルガだ。

「なるほど、そういうことね」
「久々に全力を出せそうだなぁ!」

どこかで見た光景だ。嬉しいやら懐かしいやら、これから戦うというのに顔が緩む。

「面倒だ。全員でかかってこい」

伝説相手にどこまでやれるか分からないが、これは負けることが出来ない。
いや、負けるものか。絶対に勝ってやる。
──……勝って、そして、。



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