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暗い洞窟の中だと時間の経過がいまいち分からない。だから家へ戻ったとき、時計を見て驚いた。
セイロンと陽乃乃くんのバトル練習を見ながら後からやってきたココちゃんと他愛も無い話しを続けていて、気が付いたらもう夜になっていたのだ。話が盛り上がりすぎていつグレちゃんとロロが家の中に戻ったのかも分からなかったし、結局何の話しをしていたのかすら覚えていない。でも楽しかったから良し!

「……よく飽きずに話せるな」
「飽きるなんて、そんなのないわ」

呆れた表情を向けるグレちゃんをココちゃんが軽くあしらう。
すでに美玖さんが晩御飯の準備を済ませてくれていたようで、長いテーブルには美味しそうな料理が綺麗に並んで待っていた。捲った袖を直すグレちゃんや台所から戻ってくるロロを見ると、どうやら今日は三人で作ってくれたらしい。その光景を想像するだけでも面白い。
ふと、私とココちゃんが居間に入ると同時に殿が廊下へ出てきては美玖さんに声をかける。

「美玖、わっちの飯は部屋に運べ」
「どうしてですか?殿も一緒に、」
「わっちにあの童と共に食事をしろと言うのかや?笑えぬ冗談を言うものではな……なんだひより、その目は」

これは不満を訴えている目だ。殿のそばに歩いていく間も睨んでいると、睨み返されては思わず怯んでしまった。……いや、今日は負けないぞ。

「殿も一緒に食べましょう!」
「わっちに言うよりもまずきちんとトレーナーの言うことに従うよう、愚かなポケモンを調教するのが先であろう」
「やだわあ。少し睨まれたくらいでまだ根に持っているなんて、まるで子どもみたい」
「はは、心音よ。わっちが主の弱みを握っていることを忘れたのかや?」
「……サイテー」

にんまり顔の殿に対して一気に表情が曇るココちゃん。はて、弱みとは。気になるところではあるけれど二人とも楽しそうなのであえて聞かないでおこう。
しかし、唯一殿に対抗できるココちゃんがやられてしまったとなると叩かれるの覚悟で食いつかなければ。
……去る殿の着物の裾を捕まえると、案の定、扇子で頭を叩かれる。痛い、けど離さない。

「くどいぞ、本当に諦めの悪い奴だ」
「みんなで一緒に食べたいんです!お願いします!」
「ふん。何度言われてもわっちは、」

握りしめる裾を強く引っ張り、顔を思い切り上げて殿を見上げる。

「……これが最後の、みんなで一緒に食べられる晩ご飯だと言っても、ですか?」

──……一瞬。殿が目を見開いたのは、一瞬だった。
すぐに私の手を振り払い、背を向けては先ほどよりも随分の遅い歩みで部屋へと進む。

「これが最後?はっ。……馬鹿なことを言うものだ」

鼻で笑う殿を見送ってから、後ろで固まったままのココちゃんを見た。
口は固く閉じたまま、下ろされている両手はスカートの裾をギュッと握りしめている。

「…………ひより、」
「なーんて、冗談だよ冗談!あーあ、殿も騙せるかと思ったんだけどなあ」
「殿"も"?……それは違うわよ、ひより。──……わたしだって、そんなのじゃ騙されないんだから!」
「……やっぱり、そっかあ、。残念だ!」

あはは!、二人して大げさに笑うと居間から声が聞こえた。「早くしないと僕が全部食べちゃうよー!」なんて、陽乃乃くんの可愛い脅し付きである。
それに慌てて返事を返し、居間へ向けて身体の向きを返ると腕が伸びてきた。大人しくそれを受け入れ、少しばかり寄りかかる。

「──……もうすぐ、なのね」
「……うん、多分。……あ、あのね、ココちゃん、!」
「ごめんなさい。……答えはもう、出ているの」

腕からすり抜け後ろを見ると、ココちゃんはぎこちない笑みを浮かべていた。
それに私は何も言えず、その手を握ってはみんなが待つ居間へと導くことしか出来なかった。



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