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陽乃乃くんからもらったピンク色のボールは、ドリームボールというらしい。今ではココちゃんの新たなボールとなっている。

「うんうん、ちゃんと分かったみたいやな。良い子やで、心音」
「……子ども扱いせんといて」

アカネさんに頭を撫でられながら、ココちゃんは少し頬を膨らませる。何だか嬉しそうだ。可愛いなあ。
ひとしきりココちゃんを撫でたところで、アカネさんが私の目の前に手を差し出す。その上に乗っているのはジムバッジ。レギュラーバッジ、だったかな。

「ひよりちゃん、これからも心音のこと頼んだで」
「はい!」

先ほどの戦いならば、私も自信を持って受け取れる。
ココちゃんと一緒に戦い、認められた証としてもらったバッジ。大切にケースに収めてからじっくり眺める。それから鞄の中にそっと置いて、視線をあげる。

「あ。せや、ひよりちゃん。次はエンジュジムに行くん?」
「そのつもりです」
「……実はな、エンジュジムのとある噂を聞いたんよ」
「噂?」

アカネさんが声を小さくしてからこそこそと話し出す。

「最近、ジムリーダーのとこ行くまでに変な声がすぐ近くで聞こえてくるんやって!でも周りを見ても何もおらへんって……」
「え…………」
「前まではそんな話しなかったんやけどなあ。ジムの仕掛け増やしたんやろか」

……ぞわり。思わず背筋が凍る。
私の苦手なものを知らないアカネさんは「まあ、ひよりちゃんなら大丈夫やろ!」なんて可愛らしい笑顔を見せている。
うう……エンジュジム、行きたくない。しかし陽乃乃くんのために行かなければいけない。
……分かった。さっさと行って、すぐ次の街に行けばいい。そうだ、そうしよう!

「いつでもウチのこと頼ってもええからな」
「はい!ありがとうございます、アカネさん」
「気いつけてなー!」

そうして手を振るアカネさんに振り返してコガネジムを後にした。

とりあえず今日はもう遅いし、先ほどのジム戦で多少なりとも疲労しているココちゃんを休ませてあげないといけない。
再びポケモンセンターへ向かうと、ジョーイさんからメモを受け取った。見れば、グレちゃんとロロからのものだった。部屋はすでに二部屋分予約してあることと、殿からの伝言でロロがうざったいから早く帰ってこいとのことだ。
……よーし、ゆっくりお買いものしてこよーっと!

「……ひより、」

回復を終え、戻ってきたココちゃんが私の服の裾を掴んでもじもじしている。
まだ気まずさが残っているのだろうか。なんにしても可愛い。

「どうしたの?」
「今日……ひよりと一緒に寝ても、いいかしら……?」
「!、も、もちろんだよ……っ!」
「ありがとう……」

はにかみながら笑顔を見せるココちゃんに、思わず自身の胸元に手を当てる。……もしも私が男なら、完璧に落ちていた。私の相棒、可愛すぎる……ッ!
それからココちゃんは私の服を離すと、今度は陽乃乃くんと話をするため後ろに下がっていた。
代わって今度は私の隣に美玖さんがやってくる。未だ緩みっぱなしの私の顔で察したようで、「よかったね、ひより」と笑顔を浮かべる美玖さんに、ぶんぶん顔を縦に振る。

「そういえば殿の怪我はどうだったんですか?」
「大丈夫、……ではないんだけど、大丈夫だってさ」

少し屈んで口元に手を添え、私の耳元でそう言った美玖さんは困ったように笑っていた。ちらり。後ろにいるココちゃんを見てから聞こえていないのを確認して、美玖さんを見上げる。
……殿は私たちにはどの程度の傷なのかすら見せてくれなかった。それはやっぱり、そういうことだったらしい。

「傷、残っちゃうんですね……」
「そうだね。でも、何だか嬉しそうだったから心配いらないと思うよ」
「う、嬉しい……?傷が残るのに?」
「うん。おかしいよね」
「おかしいです……!」

お酒の飲みすぎでとうとう脳まで溶けてしまったんだろうか。別の意味で心配になってしまった。
……まあ、殿が良いならいいか。



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