「おーう。ほな、また後でねー」



そう、妙に間延びした声で携帯の向こう側へ告げて、嬉しくてにやける顔をそのままに、ウチは電源ボタンをピッと押した


12月後半。クリスマスも過ぎてしまい、一気に淋しくなってしまった今日この頃

風も更に冷たくなって、まだ氷点下になりはせんものの雪が降ってもええ位には寒いし、イヴ特有のムードも無くなって祭の後みたいな雰囲気が漂ってる
簡単に言い表すなら、ふーやれやれ後は年越すだけだ、みたいな

……でも、そんな淋しい感じのする時期でも、ウチにはまだ取って置きの記念日が残ってる



「母ちゃーん、かーあーちゃーん!大輝たち、あと30分程度で着くとさー」

「了解ー、あと20分もせん内に料理出来るー」

「ういーす」



全身を隠してた炬燵からのそのそと這い出てキッチンの方に顔を向けると、何とも言えない食欲を誘う匂いが鼻腔を擽る

それだけの事やのに、特別な日やっちゅーだけでこんなにもテンション上がるんやなぁと、またも頬を緩ませてニマニマと笑みを浮かべた
端から見たら、何と言うかまあ不審な人物やろうけど、それでも止めへんのはやっぱり嬉しいから



「にしても、良かったなぁ」

「んー?」



完全に炬燵から出て、何か手伝おうとキッチンに向かうウチに、手を止めんまま僅かに振り返った母ちゃんがニッコリ笑う

炒め物は大丈夫やろかと少し心配になったけど…慣れた手つきで素早く掻き混ぜてたから大丈夫か、多分


視線をフイと逸らして適当に生返事を返しながら、食器棚から大小色んな皿を取り出してカウンターへ並べていく

うん、こんくらいでええかな



「いつも私ら二人で祝ってた誕生日、今年はいっぱい来てくれるやないの」

「ああ、そん事か。おうよっ!」



今年はいっぱい来てくれる
その言葉に、またふにゃっと笑みを零して強く返事した

今日は、特別な記念日…ちゅーかまぁ、ぶっちゃけるとウチの誕生日

冬の最大イベントっちゅーたら大体がクリスマスやろうけど、ウチ個人としてはクリスマス終わった後のこの日が最大イベントです、はい

やっぱり楽しめる内に楽しんでおかんとね!何せ年に一回の贅沢っスよ!!やっふぅ!きゃっほ…



「あ、せや。舞、ケーキ予約してあるから買っといで」



……ぉう?



「え、あ、ゴメン。聞き逃したっぽい、もっかい言うて」

「ケーキ買っといで。今、母さん手ェ離されへんから」

「自分で自分の誕生日ケーキを買いに行くん?!」



何ソレかなり虚しい
て言うか寂しい

そう思ってちょっとの間固まっとったけど、確かに母ちゃんの手元は今忙しそうや
それに、よくよく考えたら食べるんウチやしね。他にやる事も手伝えそうな事もないし

……しゃーないか



「リョーカイ、行ってくる」



それだけ告げて居間に戻り、ソファーに置いてあったダウンと財布を手に取って、ダウンはその場で素早く羽織る
ついでに携帯をズボンのポケットに押し込んで、「行って来まーす」と廊下へ足を踏み出しながらキッチンへ言葉を投げた

あー…やっぱ寒い、暖房点いて暖かい部屋に居た上コタツでゴロゴロしてた体には廊下の空気は寒い通り越してちょっと痛い気がする。気がするだけやけども



「よっ、と!」



愛用のもこもふブーツ(自分命名)を穿いて玄関の扉を開けると、やはりと言うべきか、12月の冷たい風が顔に思いっ切り当たってとんでも無く寒い。いや寧ろ痛寒い。顔凍りそう

これは…帽子かマフラーか持って来た方が良かったなぁ……



「……あぁー…さむ…」



ウンザリとした気分をそのまま言葉に出そうとすると、かなりやる気のなさそうな自分の声が耳に届いた

…まぁ、また家に入って2階まで上がって取って来るってのも面倒やしなぁ…
しゃーない、このまま行くか


何に対してか一度だけ小さく頷き、申し訳程度にある黒い門を開けて、前の細道に飛び出すと同時に走り出す
右に曲がり左に曲がりしながら比較的大きな通りに出て、疎らに人が歩くその隙間を小走りで駆けていく

そうしてる内にケーキ屋の近くまで来てて、もうすぐそこや!って所で信号に引っ掛かった



「っ、あー…ここ長いのに」



弾む息を整えつつ溜息を零して、何台か目の前を横切っていく車何とは無しにを見、そうや!と、今更ながら急いで財布の中身を確認した

…うん、ケーキ買う位の代金はある!
これでお金足らんで家まで引き返してたりしたらアホにも程があるわ、自分


ホッと小さく息を吐き出して、それが白く揺れて消えるのを見ながら、真向かいにあるケーキ屋に目を向ける
すると、必然的にその手前の歩道も見える訳で



「およ?」



そこに先程までは居なかった、さっきまで電話してた見慣れた友人達を見付け、何か口論してるようにも見える六人の姿に、ほんの少し笑みが零れた

軽い悪戯をする時の気分で携帯をポケットから取り出して、さっきまで電話してた人…一応恋人でもある大輝に再び電話を掛ける

車道の向こうでは、少し目を見張った後訝しげに携帯を開く彼の姿とそれを覗く周りの友人が目に入って、益々愉快な気分で眺める



『あー、もしもし?舞?』

「うん」

『どうかしたのか?もうすぐ着くけど…』

「せやね、今ケーキ屋の前やもんねぇ」

『………はっ?!』



ちょっとの間固まって、すぐ驚いたように後ろを振り向く姿が面白くて、思わず小さく吹き出した



「ははっ、前見てみ、前」

『は?前って……』



不自然に言葉が切れると同時に、さっきよりも驚いた顔をした大輝が目に映る
あとの皆も、何だ何だと言った様子でこっちを向いて、上に同じく瞠目した

携帯をパクンと閉じつつ手を振ってみると、苦笑してたり手を振り返してくれたりと三者三葉の反応ではあるけど、何だかさっきよりもずっと嬉しくなった


そうこうしてたら、やっと隣の歩行者信号が点滅し出して、青になったらすぐ行ける様にと一歩だけ前に踏み出す
向こう側に視線を移してみると、また何か話し合ってる様子やった

そして、やっと青になって、小走りで渡ろうとした、時



「っ!舞ッ!!」



切羽詰まった様な大輝の声がその場に響いて、びっくりして目を合わせた瞬間、横から爆発音みたいな音とガラスの割れる音が飛んできて、反射的に足を止め音がした方向を向く



「…あ……」





……そんな、間抜けな声しか出ぇへんかった

目に飛び込んで来たのは、運送用の大きなダンプと、それにぶつかられたのであろう軽自動車
ダンプの方は…信号を見てなかったのか、居眠りでもしてたのか、全く減速してなかったみたいで、今更けたたましくブレーキ音をたてながら車を巻き込んで真っ直ぐにこちらへと突っ込んでくる

視界の端に、これでもかと言う程目を見開いて、焦燥と微かな絶望を滲ませた表情の大輝たちが映ったけど、そっちを見る余裕なんてなくて



「(あ……ウチ、死ぬ…)」



……そう、頭で悟った瞬間

いきなり、後ろから誰かに右腕を掴まれて、グイッと凄い力で引っ張られた
かと思うと、次には頭に思い切り殴られた様な鈍痛が襲ってきて……、



「(…な…に……?)」



ウチの腕を掴んで、恐らく助けようとしてくれた人の姿を視認することも出来ずに

プツンと意識が切れる音がどこか遠くで聞こえて、ウチの身体は崩れ落ちた




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