「…で、結局集まったのこんだけかよっ!」



7月某日、と言うか一週間ちょい位前に皆で約束した筈の日、当日

開け放した窓からミンミンジワジワと蝉の大合唱が聞こえる中、それよりも遥かに大きい声で仙釐がこの状況にツッコミを入れた

ついでに机もバンッと叩きやがった為コップの中身が少し飛び散ったが、誰の問題集にも掛からなかったので一先ず安心する


ホントこの上ない位近所迷惑な大声だ。そしてただでさえ蝉が五月蝿いのに余計に喧しい
あと俺達にも迷惑だ。机汚してんじゃねーよ、お前は一々ツッコんでなきゃ生きてけねーのか

……まあ、ツッコミたくなるのも多少解るけど



「な ん で、ノリノリだったあの変態馬鹿は来てないんだよ!口先だけか?アイツは口先だけなのか?!しかも散華も濔也も居ねぇしっ!!」



一人でギャーギャー騒いでる仙釐を尻目に、舞が鞄からティッシュを取り出して机に飛び散ったジュースを拭いていく

それに気付いた仙釐がハッとしたように、「わっ、悪い」と一言発し、舞と一緒に自分が零したソレをティッシュで拭いた

世話が焼ける奴だな、全く



「仙釐くん、落ち着けた?」

「ああ、ゴメンな」

「そうそう。さっきの仙釐が言ってた事の返答。濔也は確か、銀杏くんと次郎くんに勉強手伝ってくれって泣き付かれたらしいよ?」

「…ハァー、珠李と散華は何とかって漫画のオンリーイベント参加、その後オフ会に行くから今日は無理って朝電話来た」

「ちょっと待て、濔也は仕方ないとして珠李のその理由何だよ先に言えっての!つかちゃっかり予定入れてんじゃねーかあのヤロォォ!!」



ほんっとーに勝手だなアイツは!と続けて叫ぶ様に言うも不本意ながら納得したらしく、少しした後長い溜息を吐いて、後ろに置いてあった鞄から課題とペンケースを取り出す仙釐

それを合図にしたかの様に、俺は携帯を閉じ、貴壱は課題をめくり、舞は何と無く教科書の向きを揃えていた


予定より人が少なかったとは言えやる事は変わらない。遊びに行くのなら兎も角、今日はただ勉強をしに来ただけ

楽しい事をする訳でもないんだ、人数なんてさして関係ないだろう



「じゃあ、何からしようか?全科目から出てるみたいだけど、美術とか読書感想文とかは今無理だしね」

「つーか今時、読書感想文なんて宿題で出るんだな。小中学までじゃねぇ?こう言うのって」

「生活体験文とかも、特に書く事なんてないし、ね…どこか目新しい所に遊びに行けたら内容も豊富になるんだろうけど、私は町から出られないし…」

「…だよなぁ」



頬杖をついて重く深い溜息を吐き出す仙釐の横で、舞が「ごめんね」とでも言う様に苦笑する

そこまで外に遊びに行きたくなるものか?とも思うが…相手がこの二人なら仕方ないかとも思える


……外なんて、汚いだけなんだけどな



「さて、どれからする?やっぱり問題集からが良いよね」

「貴壱お前…ちょっとは空気読んでくんねぇ?」

「読んでたら先に進まねぇだろ。恋人同士で外に行けないってだけでウジウジしやがって、このリア充が」

「ぐっ……そう言うけどよ咸斗、お前もホントは羨ましいだけなんじゃねーの?」

「ハッ」

「てめっ、今鼻で笑いやがったなこの野郎っ!」



何をほざいてんだろう、この隠れヘタレ馬鹿は
馬鹿過ぎて脳みそが溶けたのか?

うん、有り得ない事じゃないな、コイツなら


頭の中のみでそう貶しながら、仙釐が言ってる言葉は全てスルーし、俺も貴壱と同様に問題集に手を掛けて、一番得意な数学を開く

やっぱりこう言うのは出来る教科からやっていった方が良いか。出来ないやつで止まったままより効率良いし…



「咸斗、解らない所があったら遠慮なく聞いてね」



ボーっと、何とは無しに取り敢えず内容の確認をしていたら、左隣から降ってきた声

チラリと覗くように、上目遣いで見てみれば、机自体が大きくない所為だろうか、いつもと変わらない朗らかな笑みがいつもより近くにあって…



「…っ…!」

「…あれ?咸斗くん顔が赤いよ、熱あるんじゃ…」



仙釐を宥め、ふとコチラにも視線を向けた舞にそう聞かれ、ヤバイ!と素早くバッと顔を俯かせて小さく首を振った

駄目だ、顔熱い
くそっ、今までずっとここまでならなかったのに…暑いからか?うん、きっと暑さの所為だ。違ってもそう言う事だ


風邪?だの、大丈夫?だのと聞いてくる心配性二人に更に小さく首を振って否定していると、「咸斗なら大丈夫だろ」と、仙釐が溜息混じりに呟きながら先程の俺と同様に課題に手を伸ばした



「ホラ、夏風邪は馬鹿しか引かねーって言うし。憎たらしいけどコイツ期末20位以内に入ってたろ」

「あ、そっか、そうだね」

「なら、咸斗は大丈夫だ」



……この場に馬鹿しか居なくて本当に良かったと思う

何でそこで納得してんだ、しかもソレ迷信だし。それに突然顔が赤くなる夏風邪なんてねーよ
きっと俺よりもコイツ等の頭の方が重症だ

…けど、コイツ等が珠李達や濔也みたいに聡かったら確実にバレてた。今だけは馬鹿仙釐と馬鹿な秀才二人の脳みそを作った神様に感謝しておこう


等と考えて心の中でロクでもない神様にお礼を言っていたら顔の熱はいつの間にか引いていて、ホッとしながら課題を…



「あああっ!!」



…やり始めようとした時、同じく課題をやろうとしていた舞が突然叫び、肩を微かに揺らしつつも勢いよく視線をそちらに向ける

すると、この世に絶望したかのような表情で



「この課題…去年のだ…」



……本当に重症だ。どうやったら間違えるんだ



「マジかよ。じゃあ一旦取りに帰ろうぜ、俺も行く」



余りのドジっぷりに呆れて相手に解らない程度の冷めた目で見ていたら、同じように驚いていた仙釐が当然のように言う

まぁそう言うだろうとは思ってたけど



「…えっ?わっ、私一人で行けるよっ!仙釐くんは二人と勉強してて?」

「いや、外暑いしなんか舞は暑さで倒れたりしそうだし、俺日傘持って来てるから一緒に行こうぜ。じゃあまた後でな、二人とも」



仙釐は既に立ち上がり、日の照っている外と舞とを交互に見、そして手を引いて立ち上がらせるとそのまま扉の方へと向かう

舞は若干オドオドしていたが…仙釐なんかが舞なしで勉強するとは思えないし来た意味がないとかブツブツ言いそうだし、これで良いんだろうな、多分



「舞ちゃんが居ないと来た意味ないもんね、仙釐。行ってらっしゃい」

「うっせ」

「う、うん。すぐ帰って来るね」



…、貴壱も同じ事考えてたのか…


三人の何でもない遣り取りの後、パタンと閉められたドアと二人が階段を降りる音が、やけに耳に残る



「さ、俺等は続きしよっか」

「…ん、おう」



扉を見つめてまたボーっとしていたら、柔らかい笑みを浮かべながら話し掛けて来た貴壱が目に入る

今度はその近過ぎる笑顔を直視しないように気をつけながら、俺は課題の最初の頁を開いた



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