「ねぇ、そろそろ夏休み入るしさ、先に課題終わらせておかない?」



始まりは、貴壱が何気なく俺達に言ったそんな言葉



「始まってすぐにか?止めろよテスト終わった直後にそういう事言うの。何も初っ端からやり始めなくても大丈夫だろ」

「あら仙釐ったら、いつも長い休みが終わる二日前位に【宿題写させてくれっ!】って泣き付いて来ますのに、今回は随分余裕ですのね」

「うぐっ」



いつもの如くカフェに学校帰りに寄って、いつものメンバーと適当に選んだケーキを話しながら食って、丁度話題が一旦途切れた頃

にこやかな笑みを浮かべていた貴壱が、突然思いついたように言ったのだ



「でも、先に終わらせとくと効率良いよね。遊びに行きやすいって利点もあるし」

「うっ、舞まで…」

「んー、それもそうだね。舞んトコは教師が二人も同居してるし、高い確率で宿題の事聞かれるだろうしねぇ。良いんじゃない?」

「俺も…特に予定無いし、暇だし先にしとくのも良いかもな」

「ぐっ……ったく、解ったよ俺もやるよ。はー、めんどくせ…」

「別に呼んでませんから面倒臭いなら来なくて良いですわよ?私達だけで楽しくお勉強会を致しますわ」

「お前って俺に対してつくづく酷ぇよな。行くっつーの」



ノリノリの珠李と舞、便乗した散華と濔也、嫌々ながら参加はするであろう仙釐

そして、嬉しそうな顔をして「じゃあ決まりだね!」と笑う貴壱



「ああ、そうだ。咸斗も来るよね?課題の内容は違うだろうけど、やる事は一緒だし」

「…ん、行く」



皆の様子を見た後一拍置いて小さくそう呟くと、俺の横に座ってる男は目を細めて優しく微笑む

もう昔から何度見たか知れないその笑顔に、俺のポーカーフェイスがどれだけ崩され掛けた事か…

…と、そんな事を思いつつプイとそっぽを向いて、気を紛らわす為に今日返ってきたテストの事を考えた
まぁ、そんなモンで収まるなら、ちょっと別の事考えただけで簡単に収まってくれるんだろうけど



「で、貴壱、いつにしますの?確か終業式は…」

「終業式は確か20日だよ。でも私と珠李ちゃんは21日に生徒会の仕事あったから…」

「ありました?」

「覚えてねーのかよ…」

「私は基本、漫画や小説やゲームやグッズ関連、そして同人関連以外の事は覚えませんわ!」

「いや、ソレ胸張って言える事じゃねーだろ」



こっちの方が気が紛れるか、と耳に入って来る会話に耳を傾けつつ【その割には珠李、いつも学年2位だったな…】とかどうでもいい事を思い出して、水を少し口に含む

ついでに溶けて小さくなった氷も一緒に含み、水を沈下させてからガリッと一噛み



「んじゃあ、七月下旬辺りとか?」

「ん…まぁ、その辺が妥当だろうな」

「皆その辺り、何も予定ねーのかよ?」

「このクソ暑い中、わざわざ予定なんて誰が入れますの?それに、町の外なら未だしも町の中では行動範囲も限られてますし」

「町の外に出るにしても、ちゃんと申請しなきゃいけないってのもあるし、皆面倒臭がって家でゴロゴロ過ごすのがお決まりみたいになっちゃってるよね」



「私は管理員だから出られないし」と舞が苦笑しつつそう続けた途端、珠李と仙釐の溜息が被った

多分、仙釐は舞と外に遊びに行けない事がつまらなくて、珠李はわざわざ手続きしなきゃならない手間を思い浮かべて、つい零れたんだろう


俺もその溜息には同意だ。皆で遊びに行こうっつったって外に嫌な思い出しかない奴は絶対に町から出たがらねぇし、申請するのも面倒臭い…

まぁ、この町にも程々に遊べる場所はあるから不便してるって程じゃないし、俺も外に出るのは嫌いだから関係ないけど



「なら、休み中集まって喋ったりでもしようよ。俺もお菓子作るし、皆で居たら暑くてもきっと楽しいよ?」

「あ、賛成っ!貴壱くんの作るお菓子大好きっ!!」

「舞ったら、物に釣られるなんてはしたないですわよ。貴壱、私はアップルパイが良いですわ」

「お前なんてさり気なく要望までしてんじゃねーか、人の事言えねーだろ」

「お黙り下さいませミス紅矢羽」

「だーからそれ蒸し返すの止めろッ!男だ俺は!!」

「あら、知らないんですの?今は男の娘と言うモノがありまして…」

「ああもういいっ!聞きたくねぇっ!!」



珠李と仙釐の言い合い…と言うよりは珠李の一方的な言葉弄りを何処か遠くで聞きながら、微笑ましいものを見てる様な表情の貴壱を盗み見る

だけどすぐに視線を逸らして、何か別の話をし始めた残り三人を見てみるが、皆慣れている事だからか関与せずと言った感じだ

ったく、いつになったら纏まるんだよこの話題は…



「…取り敢えず、七月の下旬は誰も用事ねーんだろ?そんで、その辺の適当な日に貴壱の家に集まりゃ良いんだよな?」



放っておいたら収まらないであろうこの状況に、俺も先程の二人の様に溜息を零して、最低限の事柄だけ呟く

すると一斉に話し声がピタッと止まり、一拍置いて珠李が息を静かに吐き出し俺の方へ向き直って喋り出した



「そうですわね。先程の会話の中で誰も異論を唱えないと言う事は皆さん了解したと言う意味でしょうし、良いんじゃないですの?」

「ねぇ、現地集合で良いわけ?て言うか、何時に集合すんの?」

「貴壱くん家で勉強するんだし良いと思うよ?時間は…どうなんだろ、お昼からの方が良いかな?」

「あ、俺ジュースか何か買ってくわ。あの辺に自販機ねぇし」

「…じゃあ、俺も何かスナック菓子とか買って行く」



騒いでたのが嘘みたいに収まって、各々「誰が何を持って行く」だの「いつその勉強会とやらをする」だのと、今度は逸れずに話し合い出してくれた

その様子を達観しながら、もう氷しか残っていないコップを持ち上げて、また冷たい四角の欠片を一つ口の中に含んだ




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