×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

生まれた世界が違ったら




私は人気者のトム・リドルをそっと柱の影からよく見つめていた。トム・リドルの周りにいる彼女達みたいに私はぐいぐい行ける性格ではないし、トム・リドル話す機会があっとしても口下手な私はきっと上手いこと会話すら成り立たない。けどトム・リドルを見てるだけで私は幸せだった。それがすべてだった。薬草学の授業で私は遅れてしまい教授に軽い注意をされながらくすくすと笑う声を後に焦りながら席に着いた。今日の薬草学はペアで実験をするそうだ。私はよろしくと顔を上げると隣にいたのはトム・リドルだった。

「よろしくね、Ms.苗字」

ニコリと今にも消え入りそうな笑顔を浮かべた彼は早速器具の準備に取り掛かった。私はドキドキとする胸を抑えながら少しでも役に立とうと邪魔にならないように彼の手伝いをする。無事に実験は上手くいったようだった。授業に必要なだけの最低限の会話しかせず、特になにもなく終わってしまった。別になにかを期待してた訳じゃないのだけれど、何故かなにも起きない事に私はひどく落胆した。

「今日はありがとう。また機会があったらよろしく。」

とトム・リドルは右手を差し出し私は握力のない手で彼と握手をした。私もありがとうと言うとすると彼はすぐに友人たちに囲まれ教室を後にした。「トムとペアになれたからって調子乗らないで。」の言葉と共に肩に痛みが走り私はその場に手を着いた。私の手から教材や羽根ペンが散らばるのを私は何故だか涙を流しながら片したのだ。

****
季節はあっという間に冬になった。窓の外を見れば暴れ柳が綺麗に雪化粧をしていた。少し外を歩こうとハッフルパフカラーのマフラーをしっかりと首に巻き、白銀世界に足を踏み入れるとキュッキュと雪が鳴る。寒いだけあっていつも賑わってる湖には誰一人として居なかった。湖の側にある小さな木の下に腰を下ろすと凍った湖を見る。まるでスケートリンクのように綺麗に氷が張り、この世界に誰もいないかのように周りはシンとして怖くなった。手に持ってた本を開き続きを読み始める。そこに笑い声が聞こえ声の方に顔を向けるとトム・リドルと女の子が手を組み歩いている。見たくなかった。スっと目を本に戻し続きを読むが全然頭に入ってこなくて、綺麗な本は私の涙で滲んでインクがぼやけた。

***
季節は流れ私は相変わらず柱からトム・リドルを見つめていた。卒業式なのに相変わらず私は柱から彼を見つめていた。思えば7年間トム・リドルと会話した記憶は2回しかなかった。その少なさからなんとか会話したのかはしっかりと記憶している。彼の元にはあとが途切れることがなくどんどん人が寄ってきては離れの繰り返しだ。その中には教授やらもいた。彼の7年間はとても素晴らしい年月だっただろう。私の7年間は何一つ誇れるものなど何も無かった。どのくらいそこに居ただろうか。やっとトム・リドルの周りには人が居なくなり何故か私はこれが本当に最後のチャンスなのかも。と思いゆっくり足をトム・リドルへと進めた。

「やぁ、Ms.苗字」

そう言って笑う彼はいつぞやの薬草学でペアになった時と全く同じだった。彼は何も変わってない。私も変わってない。それだけで彼と共存してる様で私は心が暖かくなった。

『私、7年間あなただけだったの。』

トム・リドルは特別驚くのともなく「それで?」と優しい顔で私の言葉を待った。

『あなたの中に私がいないのは知ってた。だから私があなたを知ってればいいって思ってた。今思えば私はあなたが…トム・リドルが居たから私で居られたのかもしれない。本当にありがとう。これでさよならだね。体に気をつけてね。本当にありがとう』

「……うん」

彼は私が話している途中から下をむいて話し終わっても彼は顔をあげることは無かった。最後に綺麗な彼の目を見たかった。私は死ぬまでもうあなたとは関わりがないと思うけど、この後悔はずっと胸に残るんだろうなと思いながら涙をぽたぽたと流しながらホグワーツを後にした。あぁ、私ずっと泣いてばかりだったな。



*****
勢いよく起きると私は泣いていた。

『はぁっ…っは…嫌な、夢』

テーブルにある水差しを取りグラスに注ぐことなく一気に飲み干す。それでも悪夢の気持ち悪さは流れなかった。ホグワーツに入学してずっと一緒にいるリドル。違う世界だったら私たちは夢のように関わることが無かったのだろうか。ルームメイトが寝ぼけ眼で「大丈夫ぅ?」と呂律が回ってない感じで話しかけてきた。『大丈夫大丈夫!ちょっとした悪夢見ただけ!寝てて!』といつも通りに接する。時計を見るとまだ朝の4時過ぎで私は2度寝する気分じゃなくてガウンを羽織り、寝に着いたルームメイトを起こさないように忍び足で部屋を抜けた。部屋の横の螺旋階段を音がしないように長い時間かけて登り、テラスへと出ると冷たい風が通り過ぎて言った。まだ真っ暗な空間がまるで私を闇へと誘うように包まれていくのがわかる。膝に頭を乗せまたさっきの夢を思い出す。幾度となく流れる涙を私は止める術を知らなかった。ふんわりと暖かなガウンが私の肩に降りてきた。びしょびしょの顔を上げるとリドルが無表情で私の横に座った。そしてそっと優しくリドルは私の手を握り2人で真っ暗な空を見上げた。空は先程よりも明るくなってるような気がした。

20200928

リドルも同じ夢を見ていたと思う。