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約束してくれるなら



『ねぇ、リドル…』

「なに」

『クリスマス休暇、うちにこない?』

「はぁ?なんで」

リドルは面倒くさそうに欠伸をすると私のポシェットに手を入れ一冊の本を取り出すとまたペラペラと読み始めた。レギュラスから貰ったマフラーをふかふか触る。

『リドル、前に言ってたじゃん。孤児院には帰りたくないって。それにこれ…』

私はポシェットから一通の手紙を差し出しリドルに手渡した。リドルは便箋を取り出し、静かに読み始めた。読み終わると便箋を封筒に戻しポシェットに投げ入れると「なんで僕が名前の花婿候補になってんの?」と問い詰めてきた。私は『ただ、両親に書くことなくていつの間にか、もうリドルの観察日記みたいな手紙のやり取りしてたらクリスマス休暇に連れてこいって…』「あのさ、勝手に人の生活報告するのやめてくれる?変なことかいてないだろうな。」『や、やだなぁ。そんなこと書くわけないじゃん!!!』「はぁ、まぁ孤児院に行きたくないのは事実だしお邪魔させてもらうよ。」とリドルはまた本を読み始めた。

***


『リドル、こじんまりした普通の家だからビックリしないでね。』

リドルは特別何も言わずに私のトランクを持ってくれていた。トランク2つは重いんじゃない?と言うと鼻で笑われた。私の家は小さな小高い丘の上にこじんまりと経っている。古い家だから歩けばぎしぎしと音がするし外壁だってツタで1/3は覆われている。玄関には母親が趣味で育てているサルビアが埋めつくしてる。『まぁ、普通の家だけどどうぞ』と玄関を開けると出迎えてくれるはずの両親が出てこない。『お母さーん?』と呼びかけるが返事は帰ってこなかった。リビングへと向かうと母親の足がソファーの前から見えている。『お、お母さん?』と近づこうとすると「まて、名前。」リドルは私の肩を掴み、背中の後ろに隠すと杖を取りだした。私はリドルの服の裾をぎゅっと固く掴みリドルの後に続いた。ソファーの前を覗くとやはり母親が倒れている。『お、おかあ、さん』と近づくといきなり部屋中に花びらが舞い散り「サプラーイズ!!!!」と倒れていた母親と背後から現れた父親が仲良く同時に叫んだ。私とリドルはまったく同じ顔をしてたと思う。あほ面で口を開けたままの顔。

「やーだぁ。そんなに驚かなくても可愛い娘と息子が帰ってくるんですもの。お父さんと話し合って驚かそうってなって…」

『いや、うん。普通に心臓に悪い。』

「そうそう、名前がリドルくん連れてくるって言うから今日すっごく料理頑張ったの。あとパイ焼くだけだから少し手伝って頂戴な。」


「君がリドルくんか、初めまして。名前の父だ。」

「初めまして。トム・リドルと言います。今回お招き頂いて本当に…」

「肩苦しいのは少し嫌いでね。適当にくつろいでくれ。毎週名前からの手紙は最初から最後まで君のことしか書いてなくてね、もう長年そんな手紙を読んでいると君のことを他人とは思えないんだ。自分の家と思ってくれていい。好き勝手に自由気ままに過ごしてくれ。」

「そんな、僕は…」

「私達がそうして欲しいんだ。」



お母さんは本当に気合いが入っているようで4人でも食べきれない量の料理がズラリと狭いテーブルにそこ狭しと並んでいた。これに今からパイを焼くとなると、多分テーブルには乗らないんじゃ。『お母さん、パイはもうテーブルに乗らないし、食べるとこもないよこれ。』と言うと母は笑ってなんとかなるわ。と謎の根拠で片付けられた。リビングに残してきたリドルと父親の存在が気になったけどまぁ大丈夫だろう。

「後は待つだけね。リドルくんと部屋一緒でいい?」『いいよ。』「言い訳無いでしょ!」『自分で言ってきたんじゃん!』「取り敢えず玄関に放置してある荷物を片付けてきなさい。リドルくんは客室へ案内してあげて。」あい、わかったと玄関からリドルの分のトランクと自分のを抱え込むとリビングへと向かった。

『おまたせ、リドル。お父さん暗いから話し相手つまんないでしょ。部屋に案内するから行こう。』

「少し、失礼しますね。」

お父さんは何も言わずにただリビングに座って何も無い壁を眺めているようだ。客室の扉を開けると母が掃除していてくれたのか案外埃っぽくなく少し安心した。窓を開けると懐かしい匂いの風が入ってきて肺いっぱいに空気を吸い込んだ。

「さすが名前の親、って感じだ。心臓にわるいような悪戯をするなんて。」

『私もびっくりしたよ!まじでお母さん死んだと思ったんだから。』

「名前は少しでも父親の方に似たら良かったのにね。」

リドルはベットの下にトランクを置くと徐ろにクローゼットを開け、トランクの中の服やらをしまっている。『私も荷物置いて着替えてくるから。』と扉を閉め、目の前の自分の部屋の扉を開けた。何一つ変わってない自分の部屋。デスクにトランクを置き中の荷物を整理整頓し、ふぅとベットに倒れ込む。目を瞑ると懐かしい匂いだぁ。と安心してしまった。

「名前、名前。」

『ぅ、おおおん。』

「名前、おい」

『あ…れ、寝てたんか。』

「汚ったない涎が垂れてる。…っておい!僕の服で拭うな。ほんっと名前って汚いよね。最悪だ。もうこの服着れないじゃないか。弁償しろ。」

『お、ぉ、めちゃくちゃ愚痴るじゃん』

「何度扉叩いたと思ってんの?何回名前読んだと思ってんの?もう名前の名前を呼び飽きた。」

『なんか実家パワーで寝てたみたい』

「ほら、行くよ。ご飯ができたらしいから」

『まって、顔洗うから。』

リドルと階段を降りていくとパイのいい匂いが下のエリアを充満させていた。ぐーとなる胃を抑えキッチンへと行くと料理の皿な無理やり押し込まれ片方が上がっている。小さなスペースにグラスと取り皿が準備されており私は何故か少しばかり恥ずかしくなった。
『ご、ごめんねリドル』と謝ると「なにが?」と特になにも気にしていないようだ。食事が始まりいつも通り母親がリドルに沢山の質問攻めをしている。私はそれを見ながらミンスパイを食べ、父親はと言うとただ静かに料理を口にしている。『ねぇ、お父さん。愛娘が久々に帰ってきたんだよ?もうちょっと嬉しがってもいいんじゃない?』「嬉しがるってこれでも嬉しがってるつもりだが。」『もうちょっと顔に出してよ。』もう一個ミンスパイを手に通ろうとすると横から手が伸びミンスパイは母親の手によってリドルの皿にのせられた。私は恨めしそうにリドルのミンスパイを睨みまた1つ手に取った。

「名前、リドルくんは楽しそうか?」

『え?リドル?………まぁ、楽しいんじゃない。いつものリドルなら多分うちに来なかったと思うし。』

「そうか。」

『なに、お父さん。私よりもリドルが気になるの?』

お父さんは何も言わずにまた料理に手を出し始めた。リドルは質問攻め攻撃で少しやつれたように見えた。リドルの目が助けないとお前の命もないと訴えてる様で私は『もういいでしょ。リドルが困るじゃない』と言うとお母さんは眉を下げてテンションただ下がりだ。

「ご馳走様でした。家庭料理は初めて食べましたが大変美味しかったです。」

「あら、よかった。リビングで座ってて頂戴。紅茶を入れるわ。」

ソファーに座るリドルに『私もう限界。眠い。部屋に戻る』と言い、父親が同じ空間にいる手前リドルは「わかった」と呟いた。


***


ばか名前。ばか名前。普通に気まずいだろ。何を話したらいいのか。母親の方が名前よりうるさいし父親は口数が少ないし。そしてなにより僕も疲れたから寝たい。

「ごめんなさいね、無理して来てもらっちゃって。私たちがどうしてもリドル君と会ってみたかったのよ。」

「いえ、無理なんかじゃ」
母親は先程とは違って随分と静かった。伏し目がちの表情は名前によく似ていた。

「名前が手紙によくあなたの事を書いてるってのは聞いてるわよね。名前がよく書くのよ。リドルに家庭ってものを体験させてみたいって。」

「名前が、そんなことを…」

「リドル君は名前が好きか?」
好きは好きだ。けれどそれは友達として好きという事なのか人として好きということなのか恋愛感情で好きということなのか。色々な選択肢が頭に浮かんだがどれにしても名前に置き換えても嫌いという感情はなかった。

「……はい、好きです。」

「なら、うちの娘を頼んだ。そう約束してくれなら私たちは安心してあの子を手放せる」

と父親の方は仕事が溜まってるから部屋に戻ると出ていってしまった。母親は眉尻を下げて「お父さんたまに変なことを言うのよ。ああいう所が名前に似ちゃったのね。残念な子だわ。」と名前は蔑まれているのを知らないんだろうな。

「リドルくん、うちはどうかしら?嫌だったりしたら無理しないで言ってちょうだい。」

「いえ、そんな。ここは居心地が良すぎて僕には毒になりそうです。」

本当に名前の家は何故か居心地がよかった。甘いフローラルの匂いのせいだろうか。なんにせよあの孤児院よりも断然マシだった。

「リドルくん、名前は馬鹿で間抜けなおかしな子だけど、どうか友達でいてあげてね。迷惑はかけるだろうけど…」

「本当に迷惑ばかりかけられ、…いえ迷惑なんてそんなこと無いです。」

「正直に迷惑掛けられてるって言ってくれてありがとう」

と皮肉をいう母親の向こうに名前が見えた気がした。完璧に名前は母親似だな。父親に似れば良かったのに。

***



「おい、起きろ!ぶす名前!」

リドルの声が頭の中に響いている。リドルは夢の中でもうるさいなあ。夢の中なんだからもう少し静かにしたらいいのに。頭に衝撃がきて寝ぼけ眼で目を開けると私はリドルの腰に抱きついて寝ていたようだ。『ふぁあああ。おはようリドル』「おはようじゃないだろ。僕のベッドでなんで寝てるんだ。」『昨日はー、その、ほらさむ、寒かっ…』あぁ、リドルの温もりが気持ちいい。またどんどん眠くなる。「寝るな!」

「おっはようー!リドルくん!……え?お邪魔しました。」

お母さんの甲高い声で私の体はビクリとし、『え、え、なに。』と上半身を起こした。扉の向こうでは母が嬉しいそうになにかを父に大声で話している。「名前のせいだからな。きっとからかわれる。」『嫌なの?』まだ眠くて自分がなんの話をしているかは分からない。また瞼が落ちてくる。すると半端じゃない痛さが頬に広がり落ちてきていた瞼は上へと戻って行った。『は、え!なんでビンタ!?痛いんですけど!?』「その寝ぼけた顔を洗ってこい。そしてもう僕に関わるな。近寄るな。消えて。」リドルはいつも通り機嫌が悪そうだ。私はそそくさと部屋から出て冷たい水で顔を洗いキッチンへと行くとリドルはもう席についていて母はこれでもかと言うぐらいにまにまと薄気味悪い笑みを浮かべていた。『おはよう、お父さん。』「あぁ。おはよう。」と私と入れ替わるように父は行ってくる。と仕事へと出かけて言った。お母さんは「素敵な夜だった?」と聞いてきたがそれをシカトしてトーストに齧り付いた。そうしていると母も仕事へと出かけていく。私は機嫌が悪いリドルと2人きりの朝食を味わったのだ。
リドルは父と何故か気が合うらしく、たまに私を放置しリドルは父の書斎へと遊びに行っていた。私は特にすることもなく、1人部屋で圧倒的量の宿題に頭を抱えていた。時折父の書斎から2人の笑い声が聞こえてきふと寂しくなる。けど、リドルも笑っているからなにげなく安心はした。やはり2週間もすれば流石にリドルも慣れてくる訳でもう我が家の様に振舞っていた。いつだか、母にもうすぐご飯が出来るからお皿を出してと言われソファーから腰を上げキッチンへと向かうとリドルは慣れた手つきで皿を棚から取り出しテーブルナプキンやナイフフォークなどを迷うことなく引き出しから取り出し並べていた。いつだか私は母に紙で指を切ったから絆創膏はどこにあるのかと聞くとリドルはテレビ台の下から救急箱を開き「はい。」と手渡してきた。きっとリドルは今の私よりもこの家に詳しいんだろうな。と少し悔しくなった。



『あー、あと1週間でまたホグワーツに帰らなきゃなのかー!やだなあ』

リビングで甘いコーヒー片手にクッキーを貪り食べていていると扉の開く音がした。もちろんその主はリドルだ。リドルの目の下には軽くクマができている。『え、昨日ちゃんと寝た?』と聞くと私のコーヒーを横取りして口をつけた。「…あまっ。」リドルは音がしないようにテーブルに戻すとふらふらとキッチンへと赴きリドルのために母が買ってきたマグカップにコーヒーを注ぎ、パンを1つ摘むと私の隣に腰を下ろした。

『ここ3週間で随分となれたものね』

「……名前の両親は不思議な人達だね。初めて会う僕にまるで我が子の様に接してくれるし。お人好しすぎる。」

『その性格のせいかたまに詐欺にあって帰ってくることもあるんだから。』

「まるで名前みたいだ。……名前のおかげで普通の一般家庭がどんなもかよく分かったよ。ありがとう」

リリリリドルが「ありがとう」だって!?明日は槍でも降ってくるんじゃなかろうか!素直にお礼も言うリドルに身震いを感じながらまた1つクッキーを手に取ると、横からパシッと腕を掴まれる。
「そろそろ溜まりに溜まった宿題を終わらせようね。」
先程との身震いより、こちらのリドルの台詞の方が私の全身を震え上がらせた。


20201016