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敵同士だったら



朝起きるとルームメイトはもぬけの殻だった。こうも寒いとベッドから出たくなくなる。ペタりと地面に足を下ろすとつま先から一気に冷たさが襲ってきた。椅子にかかっていたローブを手に取り肩にかける。窓に近づき覗き込むと生徒らが飛行訓練を個人で楽しんでいた、『元気だなぁ…』けどやはり寒そうに飛行訓練をしている生徒を見ていると身体中を冷えが襲い珈琲を注ぐため、マグカップを手に持ち談話室を目指し扉を開けた。さっきまでの静けさとは違い談話室に近づくと少しだけ騒がしくなった。珈琲を注いだマグカップを両手で持ち、暖炉の傍にある椅子に座り、ひと口飲めば喉から身体中を暖かい液体が巡っていく。足を暖炉へと伸ばすとじわじわと足先が暖かくなってきてどんどん眠くなってくる。

「名前さん、おはようございます」

顔を横に向けるとレギュラスがニコリと笑っていた。『おはよう、レギュ…』と言いながら欠伸を噛み殺し挨拶をする。

「またあなたはそんな格好で…。少し待っていてください。」とレギュラスは階段を下がって行った。暫くすると彼は戻ってきて私の前に跪いた。少しどきりとした。彼は私の冷たい足を手に取ると手に持っていた靴下を履かせてくれてる。

『ふふ、レギュお母さんみたいだよ』

「ソックスを履かない子に育てた覚えはないんですがね。」

『あったかい。』

ズズと珈琲を飲みレギュラスの説教じみた話を大人しく聞きつつ着替えなきゃなーって考える。あ、もうお菓子ストックが無くなるからハニーデュークスに行こうかな。久々にオシャレして外を歩くのもいいかもしれない。

『ハニーデュークス!ハニーデュークス行く!』

「全く人の話聞いてなかったんですね。と言うか仲直りしたんですか?リドルさんとは」

『うぎゃぁああ!やめて!わざと考えないようにしてたのに!』

「ちゃんと仲直りした方がいいですよ。こういうのは長引くとどんどん謝りにくくなりますよ。」

『私、着替えてきます!』

レギュラスの話から逃げるように走りながら部屋へと向かいローブをハンガーにかけクローゼットにしまう。久々の外出だからたまには少しばかりオシャレをしたい気分。ベッドの下に仕舞っていたトランクを引っ張り出し中を開けるとほんの少しホコリ臭い。
冷たい服に袖を通しその上にコートを羽織り談話室に向かう。そこにはまだレギュはいて、目が合うとレギュラスは少し笑い「今日は大変可愛らしいですね。とてもよく似合ってますよ」と褒められ私は恥ずかしくなった。
「名前さん、外は寒いので僕ので良かったらこれを…」
とレギュはマフラーを首に巻いてくれた。ふんわりとレギュラスの匂いがする。

『ありがとう!お土産ちゃんと買ってきますので!』
「はい。気をつけて行ってきてくださいね」
手を振りレギュラスに別れを告げると私はホグズミードへと足を進めた。

「おー、名前じゃん!名前がホグワーツから出るの珍しいな!今日は1人か?」

ジャックと会うのは悪戯仕掛け人以来だ。久々のジャック特にいつもと何も変わらないジャックだった。ジャックと駅まで歩くことになった。

『いやぁーストック分のお菓子が無くなりそうだったから。調達しようかと…』

「てことはハニーデュークスか。途中まで一緒に行こーぜ。俺三本の箒で友達と待ち合わせしてんだ。」

列車の中でもジャックは話が止まらないようだ。それはホグズミード駅に着いても止まらない。他愛もない話をしながらホグズミードへと続く小さな道を歩いた。ジャックは無視してても、特に気にせずずっと1人で話す性格だから一緒にいてすごい楽。ホグズミードまでは特に会話に困ることなくついた。ジャックとはハニーデュークスの前で別れ、店に入ると色んなお菓子の混じりあった匂いが充満している。私は慣れた足取りでお菓子コーナーへと向かい、いつもよく食べるお菓子を手当り次第に腕へと抱え込んだ。レギュ、お土産どれがいいかなぁ。あ、フィジングウィズビーズにしよう。レギュたまに空飛びたいとか言ってるし…。一通り見終わり会計を済ませると人と肩が当たる。今日は休日なだけあって生徒や人がすごく多いな。人酔いしそうだから早く帰ろう。
外に出ると中とは違いやはり寒い。コートをよりいっそう強く羽織り直す。駅へと向かう途中にショーウィンドウに目をやると綺麗なドレスやアクセサリーが飾ってある。はぁー可愛いなぁ。こんなのが似合うような大人の女になりたいなぁ。色々なアクセサリーが飾ってある中に何故か1つだけ気になる指輪がある。エメラルドの小さな宝石がついてるシンプルな指輪だった。普段はアクセサリーの類は全く気にならないのにこの指輪はどうしても気になって目が離せなかった。

「あら、名前さん?」

あぁ、嫌だな。この風に乗ってくる香水の匂い。駄目だ。振り向きたくない。ゆっくりと振り返るとそこには想像してた人物が立っていた。

『どうして名前を…』

「トムから聞いたもので…。名前さんはショッピングですか?」

『もう帰るところなんです』

「この前は本当にありがとうございました。トムを呼んでいただいて…。無事に友人たちと合流できました。名前さんはトムと同じ学年なんですか?」

『まぁ、そうですね。』

なんでこんなに話しかけてくるんだよぉ。一分一秒でも話していたくない。この子と話すと素っ気なくなる。嫉妬のせいだってわかってる。この子は何も悪くない。悪くないけどきっとこのまま話してたら余計な事を言いそうになるに決まってる。

「昨日のお礼に、よかったらお茶でも…」

『いや、全然気にしないでください。私少し急いでるんで失礼しますね。』

ショーウィンドウの指輪を一瞥し、名残り惜しいけど…と後ろ髪引かれつつその場を離れる。「あ、待ってください!」と勢いよく腕を捕まれ私はバランスを崩しその場に転倒した。「名前さん!?大丈夫ですか!」自分が引っ張いといてなにをそんな驚いてるのかな。痛みのするほうに目をやると黒いレギンスが破れ少しだけ血がでていた。「ご、ごめんなさい!私のせいで血が…っ!」『別に、このくらい大丈夫ですから。』それよりも横を通る生徒達からくすくすと笑われている方が心が痛い。すぐ後ろの扉が開く音がし、通行の邪魔になると思い立ち上がり腰をパンパンとはたいた。「エリーゼ、ずっと外にいて何してるの?」といつも傍で聞いている声がする。あぁ、まただ。もやもやとする感情が私の心を埋めつくしていく。「トム!私、名前さんを!」「名前…?」節目がちにショーウィンドウを見るとガラスに反射した私は酷く滑稽に映っていた。破れたレギンス、転倒したせいで腰部分が少し汚れている。こんな姿リドルには見られたくなかった。見せたくなかった。綺麗な格好の彼女と比べると余計に…。
『…それじゃ、急ぎますので、これで。』
とホグズミード駅へと急ぎ足で向かう。後ろからは彼女が私を呼び止める声がするが今の私には反応する余裕はなかった。我慢してた泪がぽろり、ぽろりと零れ落ちる。

「名前さん?」

顔をあげるとレギュラスが立っている。なぜここに?と言いたいけど声が出なかった。その心情を読みとるかのようにレギュラスは「雨が降りそうだったので、傘を持ってきたんですが…その様子だとまた何かあったんですね。ほら、ホグワーツに帰りますよ。」とレギュラスは私の手を引き駅まで歩き出した。レギュラスは私の泣いている理由を聞いてこなかったし私も話さなかった。理由を聞いてこない辺り彼の優しさを感じた。レギュラスはハンカチを取りだし涙を優しく拭き取ってくれた。
『レギュは優しいね』
「はい。僕は優しいんですよ。」
『レギュ』「はい。」
『レギュは何があってもずっと仲良しでいたてくれる?』
「はい。もちろんです。名前さんと敵同士だったとしてもずっと仲良しですよ。本当はリドルさんと仲直りはして欲しいんですが…今はリドルさんの愚痴、聞きますよ」

いつの間にかポツポツと雨が降ってきてレギュラスは「間に合ってよかった」と傘をさした。私の泣き声は小さな雨の音でかき消されると思い嗚咽をあげる。
『レギュ、ご、ごめ、んね。マフラー、濡らしちゃった…』
泣きながら謝るとレギュラスはまた笑ってくれた。


20201009