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あなたの望みが叶ったら



「ねぇ、名前」

『なあに、グレース』

「最近、トムに何かあったの?」

『えぇー?何もないと思うけど、』

「そう…ソフィア達が最近トムが変わったって話題ですごい盛り上がってたから…ほら、トムの事は名前に聞けば分かるじゃない?」

『へへへ、買い被りすぎだぜ。』

「でも私も彼、変わったと思うの。なんだか雰囲気が変わったと思うわ」

『そう、かなあ?』

「名前はずっとトムと一緒にいるから分からないのよ。」

グレースは編み物をしながら紅茶を上品よくすする。グレースは2年とき私が廊下でコケた時に助けてくれたのが出会いだ。グレースはすごく上品な子で大声で笑うとこなんてみたことない。彼女は扇子の後ろでクスクスと笑うような子だ。

「そう言えばあなた達は変わらず、ずっと一緒にいるわね。」

『え?』

「トムと名前よ。入学してから飽きもせずよく一緒にいるわね。なにがきっかけで仲良くなったのかしら。」

『ああ、あれは確かね………』

***


「スリザリン!」

私の頭の上に陣取る汚ったない帽子は鼓膜が破れるぐらい叫んだ。帽子から解放された私はやたらと喜んでいる席へと近寄ると年上の方がスっと席を開けてくれた。『どーもども!』とお礼をいい座る。名前を呼ばれる生徒がどんどん増え席は少し狭くなる。私の隣にも生徒が座り、長い長い組み分けが終わった。テーブルには豪華なご馳走が並ぶ。ミートパイを皿に取り齧りつくと美味しい風味が鼻から抜けていった。目の前の子は両手にパイをもって引くほど食らいついていた。横にいた先輩は逆サイドの子にありとあらゆる料理をよそってあげている。隣の子はサラダだけをのせ静かに食べている。食が細い人だなとサラダの主を見ると綺麗な顔の男の子だった。

『お腹空いてないの?肉食べなよ』

と両手に肉を持ち食らいついている子が独り占めしている肉を2、3個取り上げ怒る肉系男子を無視し彼のサラダしか乗ってない皿にお肉を置いた。一瞬嫌な顔をした彼だが、「ありがとう」とぶっきらぼうに言った。だけど彼はずっと少ないサラダだけを食べ、私が渡した肉は何も変わらず皿に乗っていた。(せっかくお肉とってあげたのに!!)とむかっとした私は彼の皿から肉を取り上げ名も知らぬ彼の口へと無理やり突っ込んだのだ。これでもかとお肉を無理やり詰め込む。彼を見ると引く程ぐらい両頬が伸びていた。私は手を離し『うわぁ…』と声が出る。彼は肉を口から取り出し皿に置きその上にナプキンを掛けた。その瞬間に信じられない程の痛みが足のつま先全体に広がった。テーブルの下を上半身を反らし覗くと隣から長い足が私の足を力強くグリグリと床にめり込む程踏まれていた。

『ぁぁいたたたたたたたたたた!!!!』

横目で彼を見ると赤い目が光口から煙が出て(煙が出ているように見えた。)いた。一頻り踏み終わると彼は消え入るように私の耳元で「調子に乗るなよ。ブスが。」とあまりに綺麗な顔で言うものだから最初は冗談かと驚いた。『はい?なんて?』と彼に耳を寄せると「ぶ す 」とやっぱり彼の口から聞こえたのだ。ブスと言われたことが気になった訳じゃないけど、綺麗な顔であまりに清々しく悪口を言う彼を私は何故だか気になった。
それから別の友人から彼の名前を聞いた。トム・リドルと言うらしい。彼とは同じ寮だけあって一日に何回かすれ違った。すれ違う彼はあの綺麗な顔で悪口と私の足を痛めつけた彼と随分かけ離れていた。トム・リドルはよく楽しそうに友人と一緒にいた。ただ私が見る彼はつまらなさそうに笑う奴だなって思った。彼との出会いから半月立たずぐらいの時に彼に呼び出されたのだ。午後に生徒があまり近づかないスリザリン寮の上にあるテラスへと足を運んだ。そこにはすでに彼は到着しておりぼんやりと肘をつき外を眺めている。

『…で、なんのようですかー?』

「あぁ、やっと来たね。単刀直入に言おう。僕が君の悪口などの件は一生をかけて黙ってて欲しい」

『そんなことして私に利益ないじゃん!』

「普通初対面の人に肉を口に押し込む罪悪感とかないの?」

『えへへ、そんなことした?』

両頬骨が陥没するかと思うぐらい彼が私の頬を片手で潰す。『はにょ、ひょろひてふはさい。』彼は私の言葉を理解したのか案外と普通に降ろしてくれた。『あいたた』と頬を擦りながら彼を見ると両手を胸の前で組んでふんっ!と笑いながらふんぞり返っていた。

『私には普通に笑うじゃないの』

「…なに、いきなり。」

『べっつにー。他の奴らに見せる顔と違うと思っただけ。』

「君には隠さなくとももうバレているからね。今更隠そうとも思ってない。」

『そーゆーのつらくない?』

「つらい?君に何がわかるの?」

『なら教えてよ。私にはもう隠す理由がないいなら教えてよ。』

「君は随分と馴れ馴れしいな。話は終わりだ。とにかく僕のことは黙ってろ。」

彼の久しぶりの怒った顔は何故だかすごく面白かった。それは今でも何故かわからないけど。すごく笑うのを我慢してたけど笑いはいつの間にか声に出ていたみたいだ。

「…馬鹿みたいに笑ってるけど、何がそんなに面白いの?」

『わかんない。けど、リドルの怒った顔がなんだかどうしようもなく面白くて』


「あまりいい趣味じゃないね」

そうリドルは言うとくすりと微かな笑みを見せてくれたのだ。

『リドルって笑うと案外可愛いんだね。』

「普通に嬉しくないんだけど。」

『リドルは笑ってた方がいいよ』

はぁ?みたいな感情が表情としてリドルの顔に現れる。リドルは思ったことを言わない性格だから感情が表情に出るのかな?

『決めた!私このホグワーツを卒業するまでにリドルの本当の笑顔にしてみせるよ!約束する!』

「あ、いや、そういうの大丈夫」

『遠慮しないで!!この名前ちゃんに、まっかせなさい!』

「遠慮するし任せたくないしもう僕の事を黙ってて、関わらないでくれたらそれでいい。」

そう言って踵を返し階段を降りていく。その彼の後ろ姿に私は頭に響くような声量で叫んだ。

『絶対笑わせてやるからなー!!!!』

テラスに私の声が響いて停まっていた鳥が羽ばたいて空へと飛んだ。

***


『ってかんじー???』

「へー、あの誰にでも優しいトム・リドルが名前を脅していたとはね…」

『あ、やべ。そこの所はきれいさっぱり忘れてくれ。あたい、その事喋ったらあいつに殺される…!!』

グレースは編み物を片しながら「大丈夫よ。そんな話誰も信じやしないわ。」と最後の一口の紅茶を飲み終わると「私次マグル学取ってたんだわ。」と颯爽に出ていった。てか、久々に昔の事思い出したなー。昔過ぎてリドルを笑顔にするとか忘れてたしそんな一方的な約束とか今思うと寒気がする。しかもそんな約束リドルも覚えてるわけないし…。けど、あの頃はリドルの笑った顔を見ることを望みながら生きてたなあ。なんでほんとに忘れてたんだろ。あんだけ望んでたのに。

20201006