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差し出された手を私はゆっくりと確実に握った。なによ、なによ。よく見たら不細工じゃない。地味だし、髪の毛もボサボサじゃない。爪だってケアなんてしていない。なんでこんな女がトム先輩の横にいるのよ。似合わない。貴方じゃトム先輩の隣は似合わない。いい男の隣にはいい女がいるって決まっているのよ。貴方にその器はない。そもそも外見からして不合格よ。

「よろしくお願いしますね、先輩。」
「ええ!もちろん!」
「名前、本当に遅れる」
「うん!それじゃ、佐藤さん。また今度話そうね!」

手を引かれ目の前から去っていく。見えなくなるまで2人を見ていると私を見つけた友人がトム先輩とすれ違い入ってきた。「もう、食べちゃった?寝坊してごめんね」と適当な席を見つけ座る友人の横に腰を下ろした。

「そういえば、アリスタって噂好きだったよね」
「まぁ、そう言われたらそうかも」
「3年のトム先輩の噂とかないの?」
「あー、人気だよねトム先輩。悪い噂なんか聞かないもん。」
「名字名前とかの噂は?」
「あぁ、トム先輩と一緒にいる女子よね。なんか前はかなり虐められてたらしいよ。誰々の男をとっただの。まぁ所詮は噂だし…本当かわからないけど」

そんな話をしながら食事をしていると、少し離れた席から食器が落ちる音がした。4人の生徒が1人の生徒を囲んでいるようだ。よく見るとその4人はシリウス達だ。

「おーおー、スニベルス、また泣くのか」
「今日もリリーが助けてくれるのを待っているだけか」
「泣き虫、スニベルス!」
「なに、してるの?」
「なんだ美織か!」
「やぁ、美織ご機嫌はいかがかな?」
「スニベルスって、もしかしてスネイプ?」
「はは、よかったな!スニベルス!獅子寮のお姫様にも認知してもらって」

私の知っているスネイプとは遥かに違った。痩せ細り顔色もよくない。パッと見、不潔だ。私はシリウスに近づき「そんな奴より食事はした?よかったら一緒にどう?」と誘うとジェームスは笑顔になり二つ返事し、席へと戻った。スネイプは気にしていないのか、何事もなかったかの様に本に齧りついていた。
楽しい食事も鐘の音が終わりを告げる。4人と別れ、授業に出る気のない私はアリスタにやんわりと言い訳をすると中庭へと向かった。中庭のベンチに腰をかけて青空を仰いだ。風が気持ちいい。ふと頭にある疑問が浮かんだ。私は何をしにこの場所にトリップしたのかしら。分からない。向こうでできなかったことをやるため?それとも恋愛をしに?だからこの容姿に?それとも向こうにいた私は死んでいてここは天国?それとも神様からの贈り物?何をしたらいいの。私は。唯一向こうの世界で出来なかったことは恋愛だ。友達なら少しは出来た。けど出来なかったことは恋愛だ。第一私のあの容姿を好きになってくれる人なんているわけがない。死んでも行きたかった世界がここだ。昔は、素敵な人生を送りたいとか普通に恋愛して結婚して子供を産んで幸せに死にたいと願っていた。密かな願いだ。そのためにはやっぱりいい人(イケメン)と結婚したい。それには絶対にトム先輩が必要なんだ。けれどその為にはあの女が邪魔だ。あれだけは邪魔なんだ。どうにかしないと。どうしたら……。なにか策はないのだろうか。あっちの世界ならなにも出来なかったが、今は違う。今の私には魔法があるのだ。魔法があればなんでもできる。魔法使いには魔法で対抗するしかないのだ。その前に役たつ魔法の勉強しなくちゃ。

16.02.17
22.05.17-修正・加筆-

「泣き虫、スニベルス!」

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