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「教えてくれる?レギュラスのこと」
「クリーチャーから言うことはなにもありませぬ。お帰りくださいませ」
「そんなこといわないでさぁ。ほらコレ見て。レギュラスから私手紙を受け取ったの。とても大切な事が書いてあって。」
「……もしや名字名前様なのですか。」
「そう!そうよ!名字名前!レギュラスが死んだって聞いて…。私、真相を知りたいの。セブルスが言ってた。クリーチャーがなにかを知ってるけど口を割らないって。けど、私はどうしても知りたくて。」

クリーチャーは私に手を招き、着いていくとレギュラスと書いてある扉に立たせると去っていった。扉を開けると殺風景な部屋が飛び込んできた。なにも乗っていないテーブルの上には一つだけ写真立てが置いてある。

「セブルスの時と一緒だ」

写真立ての中にはなんにも入っていない。それを手に取ると、私を中心に世界が回っていた。

「またこの感覚だよ。戻しそう」

胃酸が出るのを飲み込み、立ち上がる。窓を覗くと周りは一面海だ。トランクを床に音がしないようにゆっくりと置いた。「どうやって買い物行くんだろ。」テーブルには飲みかけだろうか。マグカップが置いてあり、パンも食べかけだ。マグカップを触ると冷たい。どのくらい前のものなんだろう。壁には、海の光が反射してキラキラしている。綺麗だな。そんな時いきなりすごい音が部屋に響きわたり、私は心臓が止まりそうなほど体が跳ねた。暖炉は火が焚いてなかったのに、物凄い勢いでうねっている。「え、え、なに!?」火事になったらやばいとマグカップを手に取り炎目掛けて中身をぶちまけると、暖炉の前に人がたっており、その人の顔面は私が中身をぶちまけたことによってびしょびしょだ。その人はゆらゆらこちらに歩きながら手を伸ばしている。「タッタオルですか!?」後ろのキッチンに丁寧に畳んであるタオルを取りビビながら差し出すと腕ごと捕まれ引き寄せられた。「すみません!殺さないでください。悪い子じゃないんです。まだ色んなお菓子食べたいんです」と叫ぶと「名前先輩」と言われ体が金縛りにあったかのように固まった。ゆっくりとタオルで顔を拭くとそこには大人びたレギュラスがいる。

「レギュ、やっぱり死んでなかった。」
「名前先輩、会いたかった。」

レギュラスは今一度ゆっくりと私に抱きついてきた。匂いはそのままだ。レギュラスの抱擁に私はゆっくりと体を預けた。体越しに彼の鼓動がとくんと伝わってくる。

「とりあえず座りなよ!あ!それか着替えてくる!?大丈夫大丈夫!私はここでずっと待ってるから。」

気を張りつめた顔が少しだけ解けた気がした。「分かりました」とレギュラスは奥の部屋へと消えていった。コーヒーでも出そうとキッチンに入ったのはいいが、肝心のコーヒーが何処にあるか分からない。色々な扉を開け探しているとレギュラスはもう戻ってきたようだ。

「あーレギュ!コーヒーどこ?まったく見当たらないんだけど。」
「…こんな時にコーヒーだなんて。取り敢えず座って下さい。」
「こんな時だからこそゆっくりとコーヒーブレイクなんだよ。ほら、どこ?」
「…僕の家では珈琲は挽くんです。名前先輩が教えてくれたんですよ。魔法で淹れるよりも美味しいと」

レギュラスは冷蔵庫から珈琲豆を取り出し、コーヒーミルへと慣れた手つきで入れ、ガリガリと挽き始めた。私はそれをじと見つめ、「いい匂い。」と肘をついた。

「名前先輩はあの頃のままですね。」

レギュラスは私に目を向けることなく珈琲から目を離さずにぽろりと言葉を落とした。

「そうなの。実は、私が消えたあの日からこの時代にきたみたいなの。ぶっちゃけ帰り方も分からないし、」
「…あれから色々あったんです。リドルさんも、スネイプ先輩も。全員名前先輩が消えて全て変わってしまった。」

静かな空間に、岩にあたる海の飛沫音とレギュラスが挽く音が相まっていた。全員が変わってしまった。それは全員を目の当たりにした私が1番よく分かっている。リドルもセブルスもレギュラスも。変わっていないのはこの世界で私だけなのも分かってる。

「…そうだね。レギュはこんな所でなにをしていたの?」
「僕はずっと名前先輩をずっと探していたんです。けど何故か今日は名前先輩に会える様な気がして…」

当たり前のように言ったレギュラスはお湯を注いで抽出している。香ばしい匂いが小さな部屋に充満し始めた。

「私ね、この時代でレギュが…。レギュが死んでいたら過去に戻って思いっきりぶん殴る予定だったの。だから、生きていてよかった。」

レギュラスは小さく「…はい」と頷くと、ことりと私の前にカップを置いた。口に運べば苦味が口全体に広がり物凄い顔をしてしまった。レギュラスはふっと笑うと蜂蜜とミルクを入れてくれた。ほんのりと甘みが増した珈琲はとても美味しかった。

「けど、名前先輩。」

「なあに?」と、珈琲を飲みながら返事をするとレギュラスは飲み終わったカップをシンクに置きながら振り返る。

「過去に戻れたら、元に戻れたら…。いえ、なんでもないです。」とレギュラスは顔を逸らし「おかわりは?」と聞いてきた。「なによ、気になるじゃん。」とおかわりを申し出た。

「リドルさんは、お元気でしたか?」
「んー、こっちのリドルは元気なさ気だけど、違うリドルは元気そう。会ってみる?」

懐から日記を取り出すと、出てくるように促す。あまりに出てこないのでブンブンと振り回すと後ろから慣れ親しんだ拳が飛んできて、衝撃で日記を落としてしまった。

「やめろ。ばか名前。」
「痛いじゃん!無言ででくるのやめてくれる!?」
「まさか…リ、リドルさん…」
「やぁ、レギュラス。」

日記を広いパンパンと叩くとレギュラスは私にその日記を手渡す様に言い始めた。何処と無くレギュラスの様子がおかしい気がする。私は日記をギュッと抱える。

「リドル、日記に戻って。」
「名前先輩、それをこちらに」
「リドル!!!早く!」

リドルはその場から消えると少しだけ日記が重くなったことを確認した。より一層力を入れ少しづつ後ろに下がる。

「レギュ、どうしたの。落ち着いて。」
「名前先輩はそれがなんだかまだ知らないんですね。それが如何に大事かも。」
「レギュ、これは私の大事な物だから渡せない。」
「名前先輩、それは…その日記は」

「渡してください!」とレギュラスは私目がけ駆け寄ってきた。私はとりあえずレギュラスから離れなきゃ、と「アクシオ、トランク」と唱え私の手にトランクが収まると、すぐに目を閉じた。また嫌いなあの感覚が私を支配した。少しは姿くらましが上達した気がした。だって胃の中の物をぶちまけなかったから。どうやらここはリドルの屋敷らしい。階段を上りリドルの部屋を開けると、相変わらずリドルは無表情で羊皮紙を眺めていた。

「ただいま、リドル。」
「…見つかったのか」
「うん、ほら。」

トランクを開けガラスの中に入っている花びらのボールをリドルに渡した。

「それどうなってるの?割れないし投げても跳ね返るだけなのよ。」
「そういう風に魔法を掛けた」
「なんのために!?とりあえず魔法といてよ。」

リドルはただそのガラス玉を見つめている。どうやらその魔法をとく気はないようだ。私は急かすように声をかけるがリドルからは無視され悲しくなってきた。

「手紙読んだ?実家に行ったらレギュに会えたよ。」

リドルの眉がピクリと跳ね上がる。どうやらこの話題なら話す気がありそうだ。私はトランクを閉じながら話を続けた。

「レギュがこの日記を欲しがってた。あんなレギュ見たことない。この日記はなんなの?ただの日記じゃないの?」
「…それは。」

リドルは私の目を見てゆっくりと隣に腰を下ろした。リドルの手が少しだけ震えていた。私はそれを治めるようにリドルのほっそりとした手に重ねた。リドルの目が少し暖かみを取り戻した様な気がした。


20.11.09
22.05.24-修正・加筆-

「そういう風に魔法を掛けた」

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