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「貴様はだまって従え。殺されたいなら別だがな。」

そう言いのけた全身黒マントの男(声だけで判断するしかない)は足を組み替えた。隣を見ると真っ青な顔で老婆が震えている。なぜこんな状況になったのかと言うと、話は役1時間前に遡る。何故トム先輩は記憶が戻ったのだろうか。私は記憶修正呪文を失敗したのだろうか。名前先輩とトム先輩が一緒にいる所を見たくなくて、ずっとトム先輩を避けていた。ため息をつきつつ、鏡に映る自分のカサカサとしたケア出来ていない唇を指先で撫でた。いつからこんなにやつれたんだろう。伏し目がちだった目を鏡に戻すといつかの老婆がまた鏡に映っていた。

また会えると思っていた。少し話をしないか。

「嫌よ。どこの誰かも分からないのに話なんてしたくないわ。」

いいのかい?これはお前さんにとっては好都合な話かもしれぬぞ。

好都合。その言葉に私の眉はぴくりと動いた。きっと「好都合とはなんなの」と聞いても答えてくれない気がしたから敢えて黙っていると、醜い老婆はふと笑った。鏡からシワだらけの汚らしい腕を伸ばしてきて無理やり私をあちら側に引き込んだのだ。
気持ちの悪い感覚から、目を開けるとそこはただただ広い部屋に長いテーブルが置いてあるだけだった。部屋はかなり暗く、代わりに申し訳程度に暖炉の今にも消えそうな火がぱちぱちと燃えていた。老婆は変な笑い声とともにテーブルにティーセットを置くと飲みなさいと勧めてきた。大人しく席に座りカップへと手を伸ばす。口に近づけるとカモミールのいい匂いが鼻を刺激した。

「よいか、よく聞くがいい。お前さんにあることを頼みたい。これは某の決定ではなく大事な依頼人からの依頼なのだ。」

「……それで?」

「詳しい話は依頼人を交えてからした方が効率がよいの。依頼人がお見えになるまで、ゆっくりしてるがいい。ただし依頼人がお見えになった場合はすぐ様席を立ち、頭を下げるのだ。そして質問もなにも、口すら開くな。あの方がこの部屋を出られるまでだ。そうしなければお前さんはすぐに殺される。」

「馬鹿馬鹿しい。私は関係ないじゃない。あなたが依頼人と2人で引き受けると決めたことなんでしょ?」
「お前じゃないと都合が悪い。」
「どうせろくでもないことなんでしょ?自分の事は自分で決めるようにしてるのよ。だいたい依頼人が私に頭をさけるべきなのよ。頼まれるはこっちなのよ?」
「何と言う…黙らぬか!!」
「いやよ!!!どんな人だろうと関係ない!」
「…っこの小娘が!生意気いいおって」

「騒がしいぞ。なにをやっているのだ。」


声のする方に顔を向けるとそこには全身マントを羽織った男が扉で佇んでいた。顔が見えない様フードで完璧に顔を隠している。老婆は少し青ざめた表情ですぐに頭を下げた。絶対頭なんかさげるものですか。そう思っていたのも束の間で、私の体が押さえつけられた様に頭を下げていた。抵抗も許されずに、老婆と私はマントの男に頭を垂れることになったのだ。不思議な力で押さえつけられていたのが開放されたのは、その男が席についてからだった。席に座れば汗がどっと溢れ出てきた。男はなにも発さず、どこを見ているのかさえわからない。そんな中、老婆は耐えきれずに口を開いたのだ。

「忙しい中、足をお運び頂きありがとうございます。今回は以前依頼されたくだんの件でキーパーソンになりつつある小娘を連れてまいりました。」

頭を下げたまま老婆はそう言い終わると身動きせず姿勢は変わらない。

「ああ、気にするな友よ。座ったらどうだ」
「なんと、勿体無いお言葉…。失礼します」

丁寧に椅子を引くと背筋を伸ばし席についた。無言の時間が刻一刻と過ぎていく。

「ケイト、その女がそうなのか」
「左様でございます。貴方様と同じ憎しみを持っているからこそ、貴方様のお役に立てると思っております」
「では、話しを進めるがいい。時間がないのだ。無駄には出来ん。」
「名字名前を葬り去るには、同じ憎しみを持ち合わせているこの小娘が1番適しています。」
「そうか、褒美はなんなりと用意させよう。次に俺様に連絡を寄越すときは成功したという連絡だけにしろ。」

私抜きで勝手に話が進み、いつの間にか協力すると言う話なっていて正直話についていけなかった。わかったのは名字名前に関係があることだけ。そんなことを考えていると男は扉に足を向かわせていた。まだ私は協力もなにも納得すらしていない。

「待ちなさいよ!!私は協力するなんて言ってないし、第一どんな依頼かも聞いていないのよ!詳しく話すって話だったわよね!ちゃんと理解できるように話しなさいよ!それにあんたの依頼だかなんだか知らないけどね頼みたいことがあるなら頭ぐらいさげ…」

言い終わらない内に私の髪半分が、床にバサりと落ちた。ビリピリする頬に指先で触れると生ぬるい液体が指に絡まる。暖炉の炎のに照られた指は鮮血に染まっていた。

「貴様は異世界から来たただのマグル風情がこのヴォルデモート卿に口答えしてもいいと思っているのか。汚い口を閉じろ。いいか一度しか言わない。貴様はだまって従え。殺されたいなら別だがな。」

男はフードを外し暗闇の中には赤い目だけが浮かんでいた。ヴォルデモート、闇の帝王だ。名前を言ってはいけないあの人だ。…トム先輩だ。ヴォルデモートが部屋を出ていった後すぐに老婆は椅子に崩れ落ちた。ただ老婆は杖を向け、気力のない声で「クルーシオ」と口にした。その瞬間言葉に出来ない痛みが体中を駆け巡り倒れ込んだ。目も開けれない中、しがれた老婆の声が聞こえてきた。

「なんと馬鹿なことをあの方に言ったのだ。某は申したはずじゃ。頭をさげよと。口を開くなと。約束を守らなかった罪は重いぞ…」

老婆の声を聞くことだけに集中するが、痛みで頭がおかしくなりそうだった。苦しい、こんな痛みは嫌だ。だれか殺して。殺して殺して。

「お前はもう逃げることも出来ない。命令を聞いてもらう。よいか」

だんだんと意識が遠のいていくのが分かった。血の気が引いていく感じと、ふわふわする感じが交わりあって痛みさえなけれはそれはすごく心地が良くて居心地のよい感覚なのに。

「返事をせぬか!!!もっと痛みつけてやろうか!!!」

呼吸さえままならない苦しさの中、小さな声で返事をすると、一瞬にして痛みが体からなくなった。その後、クラクラする頭で老婆の話を懸命に聞いていた。「依頼の理由を探るな。絶対失敗するな。できる限り早めに、この件が成功すればお前は強制的に元の世界に戻る。」と。私に、任せられたのは名字名前の殺害だ。老婆は、気持ち悪く笑いながら成功したら、その褒美としてこの容姿で元の世界に戻してくれると言ったのだ。この容姿なら向こう側で私をさんざん馬鹿にした連中に復讐することができる。お母さんだって戻って来て私を愛してくれるかもしれない。気付けば鏡の前に座っていた。あんなにカサカサだった唇は潤いを取り戻し鮮やかなピンク色になっていた。
そのまま私はすぐに実行に移った。老婆からの入れ知恵で禁じられた森に誘い出し、老婆から貰った杖で呪文を口にした。役目を果たした杖は解けるように消えていった。全く動かない名前先輩の横を目もくれず通り過ぎた。役目は果たしたのだ。それにきっとトム先輩は、気付いているはずだ。私が記憶を消したのだと。そうなってはトム先輩を私の物にするのは無理だ。ならばこんな世界から早く抜け出したい。だが一向に私は元の世界に戻らない。何日経っても、あの老婆が鏡に現れなかった。そんな時、たまたま私は見かけたのだ。トム先輩の隣で笑っているあの女を。名前先輩が目に入って来た時、私は息を飲んだ。何故、あの女は生きてるの?確実に殺したはずだ。杖だって役目を果たして消えていったし、もしくは修正呪文の時の様に私はまた失敗したのだろうか。そう思うと、老婆にかけられたあの苦しい痛みが脳裏を過り体が震えた。まだ死にたくない。どうにかしないといけない。親指の爪をガリガリと噛み辺りを彷徨った。背後から、落ち葉が踏まれる音がし、顔を向けると会いたかったトム先輩がいた。

16.08.09
22.05.23-修正・加筆-

殺して殺して。

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