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これは、名前と出会った時の話だ。ホグワーツ行きの汽車の中、コンパートメントを独り占めしていた時の事だ。扉から顔だけを出し、「座ってもいい?どこも満席なの」と僕の返事を聞く前に入って来た図々しい女が名前だった。「どうぞ。」と顔を上げれば、今まで見たことない芸術作品の様な彼女に僕は息を飲んでしまった。胸が高鳴り、動揺した僕は違うことを考えざる終えなかった。例えばそう、名前は黒髪だから珍しいとは思わなかったけど、黒髪黒目は物珍しいなど訳が分からない事を考えていた。それに、名前はとても人懐っこい子だった。初めて会ったのにも関わらず、やたらと話しかけてくる。

「リドルって言うのね!顔に反して性格はダメね!」

こんなことを言う女は初めてだった。じろりと、顔を睨むと彼女は綺麗に笑っていた。それから、彼女は独り言を言い出した。ホグワーツでは、たくさん友達を作るだのと、彼女は下らない目標を。先程の言葉に気分を害した僕は黙って車窓から、外を見た。
長い時間、会話と言う拷問に耐えやっと駅についた。着いたのはいいけが、何故わざわざ小舟に乗らなきゃ行けないんだ。それに何故か名前はニコニコと笑いながら僕についてくる、小舟に乗る時、湖に落ちそうだな、と思い手を差し出すと、「ありがとう」と素直に礼を行ってきた。小舟が動き出してから名前は身を乗り出し、ずっとはしゃいいた。

「ほら、危ないから」

一瞥を投げると、名前は大人しく「はーい」と返事し、静かになった。周りから目線を感じ何気なく見てみると、どうやら僕たち2人を見ていた。それはそうだね、こんなに顔が整った僕と僕程ではないけれど、綺麗な名前が一緒にいるんだから。目立つに決まってる。名前は静かにしてれば、本当に綺麗な子だった。喋ったり動いたりすると、台無しになる。小さくため息をつくと名前は肩を軽く叩いてきた。それがホグワーツについた合図だったようだ。僕だって、魔法界と言うより学校その物が初めてなのでドキドキと胸踊らせながら校内にはいった。名前は人混みが落ち着かないのか何故か、何故か僕のローブをつまんでいる。やめくれないかな?シワがよるだろう。

「りりり、りどる、。これから何が始まるのかな。」
「皆、初めての場所だし知るわけないじゃないか。」

教授の話を聞く限り、組み分け帽子というやつで自分に適した寮に分けられるみたいだ。僕より先に名前が呼ばれた。だが、名前それはそれは目立っていた。組み分け帽子が言葉を発する度に、奇声を発しているのだから。ただ、違う意味でも目立ってた。名前はスリザリンという寮に組み分けられたみたいだ。名前と一緒の寮だなんて、この先思いやられる。
食事が始まると、名前はちゃっかりと僕の横に座り込んだ。「いただきます」と手を合わせて食べ始める。名前からして日本人なのは確かだが、日本にはこんな形式があるのかと少し関心してしまった。孤児院でもこんな食べ方をするやつは見たことがなかったからだ。
それから、約2ヶ月が経った。あれから名前とはちょくちょく会うけど特に話したりなどはなかった。けど、噂では名前が誰々の彼氏をとっただの、弄ばれただの性格が悪い、ビッチ、ゴミだの言われてると聞いた。久しぶりに見た名前は、前よりも痩せていて今にも倒れそうだった。今思えば名前はいつも1人だった気がする。そんな名前をぼんやりと眺めていると、2、3人の女子に腕を引っ張られてどこかに連れて行かれた。みるからに女共は悪そうな顔を浮かべている。これが原因で名前が、「自殺しました」とかなったら後味が悪い。気付かれないよう様子を見に行く事にした。空き教室では、名前は殴られ蹴られても何も言わず、ただの人形の様だった。

「あんたって本当ブスだよね。忌々しい顔でみんなを苦しめてるの!わかる?」

ほかにも色々言われていたが名前が反応したのはこの言葉だけだった。女子が出ていったあと、教室に入ると名前は死んだように床に倒れてこんでいた。ゆっくりと近づき名前を仰向けにすると、鼻血を出し真顔で死んだ魚の様な目をしていた。なんて顔してるんだ。ハンカチで血を拭ってやると名前は目を閉じ口を開いた。

「リドルの匂いだ。」
「人は時に馬鹿みたいに自分にないものを持っている人を目の前にすると、嫉妬して壊してしまう。類は友を呼ぶといって持っていない同士がどうしても、引き合い集まってしまう。君は別に迷惑を掛けていない。どちらかというとあいつらの方が僕達みたいなやつらに迷惑を掛けているのさ。君は君らしくしてたらいい。その顔にコンプレックスを抱くなら、その顔を隠せばいい。」
「隠せばいい、か…。紙袋被るとか?」
「…ふふ、馬鹿だなぁ、名前は。もっと他にあるだろ?例えば、眼鏡をかけるとか、前髪伸ばしてみるとか。」
「そうだね、考えてみる。リドル、ありがとう。」

考えると言っていたくせに次の日には分厚い眼鏡をしていた。無理やり後ろから髪を持ってきて前髪に成り代わっていた。唖然として、変わってしまった名前を見たあの日から、何度も僕の名前を呼び、後を追ってくる。今では、逆に僕達はセットになっていて一緒にいない日があると不思議に思われた。

目を開けると、いつも通りの寮のベッドの上だった。何故いきなり記憶が蘇ったのか分からない、と言う気持ち悪い疑問もあるが、やっと記憶を取り戻したんだ。今まで感じて何とも言えない感覚は僕の中から消えていた。記憶が戻った事を名前が知ったらどう思うだろう、と考えると名前の顔を少しは拝んでもやるかと着替えを済ませ寮を出た。だがどこにも名前はいない。大広間にも上庭にも屋敷しもべの部屋にも。
昼を過ぎても一向に姿を現さない名前に俺は内心焦りや不安を覚えていた。昼食を食べにこないなんて絶対に有り得ない事だ。

「な?不思議だろ?こんな魔法見た事ない。」
「しかもこれ、噛むんだろ?」
「あぁ、手を伸ばした瞬間思いっきり噛まれた。」
「これ、あれだろ?東洋のオリガミってやつ。」
「オリガミ?」
「紙を折って色んな物に模するんだって」
「なら、これは?何に模してるだ?」
「……犬?」

折り紙と聞こえた瞬間ボソリと呪文唱え、ポケットに羊皮紙が戻った事を確認すると、大広間を後にした。人気のいない場所で羊皮紙を取り出すと僕は絶句してしまった。あの男子生徒には同感する。この羊皮紙は何を模しているのだろうか。犬にも見えなくはない。はたまた猫だろうか。この羊皮紙は僕が作り出したもので事前に2枚名前に持たせていた物だ。「羊皮紙がひらひらと飛ぶのはなんか可愛くないからこれで折り紙していい?」と言う名前を無視していたがまさかこんな物を折っていたとは。手のひらに羊皮紙を乗せると、何かの姿に模した羊皮紙は宙に浮かび勢いよく前へと飛んでいく。飛行速度の計算をミスってしまったのか、有り得ない速度で遥か彼方に消えてゆく。羊皮紙のいく先をみると、どうやら禁じられた森へと迎っているようだ。速く、速く追わなければ名前には辿り着けない。「…っ、もっと速く」地面を蹴り上げる様に前へ飛ぶとそのまま僕は空を飛んでいる。好都合だとばかりにそのまま羊皮紙へと距離を縮めた。地面に足を着くと少しばかり光っている方へ走り込んだ。羊皮紙は倒れ込んでいる名前の側で心配そうに浮かんでいた。羊皮紙をポケットにしまうとゆっくりと名前の上半身を支えた。「名前、?」名前の貧相な胸は上下に動いていない。そのまま抱き抱え俺は裁断された幹の上に腰を下ろし、膝の上に乗せている名前の眼鏡をゆっくりと外した。長い前髪を横に流し、名前を呼ぶが期待した返事はない。傷一つない名前はまるで眠っているかのようだった。

***


眩しい光が瞳を刺激して目を開くと、薄暗い空と視界の半分が黒に覆われていた。懐かしい匂いがする。そう、だ。これはリドルの髪の毛だ。何故かリドルは私を抱きしめて、啜り声を上げていた。自由の効く左腕をあげてリドル髪の毛を触るとリドルは両肩を震わせた。

「り、どる」

リドルの顔に手を添え顔をのぞき込むと、初めて見たリドルの真っ赤な泣き顔。それは、なんだかとても愛おしかった。そっと頬に触れるだけのキスをすると、リドルはまた泣き始めた。やっぱりリドルは人の心ある人間だ。気持ちを晒し出せる人間だ。違和感を感じた右手には、夢かと思っていたロケットペンダントが握られていた。

「リドル、私ね。私ね、お母さんに会ったんだよ。リドルのお母さん。死んだ私を助けてくれたの。」
「僕の、母…?」
「うん、メローピーさんって言ってたの。笑顔がさ、リドルとそっくりだったの。」

リドルは何も言わない代わりに私の事をきつく抱きしめた。リドルは私を抱いたままずっと泣いていた。それがすごく心地が良くて私もリドルを力が入らない腕で抱きしめた。

22.05.19

「リドルの匂いだ。」

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