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生まれてこの方いい事なんて1つも無かった。両親は金銭面の事で離婚し、私の親権は父親へと渡ったのだ。祖母の家で暮らす事になり、精神面的にも私はボロボロで明るかった性格はどんどん内気な方へと変わって行った。そもそも私はそれ程可愛い顔をしていない。この顔をカバーする為に愛嬌を振り撒いていたのだが、その愛嬌も失い私は学校ではいじめの的となっていた。それから私は学校に行くのも辞め、部屋に引きこもり本の虫へと成り代わったのだ。分厚い本ならばそれなりの暇つぶしになるだろうと思い、図書館から借りて来たのはハリーポッターだ。私は寝るのも忘れただ只管にハリーポッターを読みふけた。最終巻を読み終えたところでパタリと本を閉じるとベッドへとダイブして意識を手放した。

***

「Ms.佐藤。いつまでここで寝るつもりですか。教室は寮ではありませんよ」

シワの多い先生は私を一瞥すると奥の扉へと引っ込んでしまった。辺りを見回すと壁にある絵画は忙しなく動いており「これは夢なのか」としばし考え込んでしまった。「ハリーポッターの世界でも確か動く絵画あったよね…」と考えながら教室を出た。扉のすぐ横にはトロフィー棚がある。綺麗に磨いてあるガラスに触れると、私のあれだけ嫌だった羨んだ綺麗な手だ。細い指にちゃんとケアしてある爪。光の反射でガラスには私の頭身が映っている。その姿はまるでモデル並みだ。手足もスラっとしており、お腹には無駄な肉が全くない。髪の毛は今ではブラウンでふわりと軽くウェーブされている。鼻も小さく目だって二重だ。

「な、んて美しいの…」

自分で自分のことを生まれて初めて綺麗だと思った。そんな思いはこれから先はきっとないだろう。

「美織!探したよ?次薬草学だから早めに行こう!」

友人は「なんで薬草学の教室はこんなに遠いのかなぁ」と前髪を触りながら私の腕を軽く引っ張った。友人から腕を絡ませて歩くのはいつぶりだろうか。他人の温かみを感じるのは嬉しかった。

***


あれから1ヶ月が経とうとしていた。ありえないくらいの異性からの愛の言葉が後を立たない。モテる人は毎日こんな生活を送っているのだろうか。こんな経験も初めてで私はいつの間にか有頂天になっていた。周りからは毎日可愛いと持て囃され、甘やかされ今思えば私はグルフィンドールのお姫様になっていたのかも知れない。この世界がハリーポッターの世界だと確信した時は舞い上がってしまった。だが寮内にはハリーやロンなどの主要人物はいなかった。暖炉前で友人達とお茶をしているとアニータは何かを思い出したかのように口を開いた。

「そう言えば、うちの男子たち、やっと謹慎とけたみたいよ」
「やっと?一ヶ月なんて長かったわね」
「けど、あいつらが戻ってくるなんてまたまともに授業が受けられそうにないわ。」
「あの人たちってだれなのかしら?」
「あら、美織忘れちゃったの?」
「ポッターたちのこと。」
「ルーピンもいい迷惑よね。シリウスとポッターがやらかしたことなに連帯責任だなんて」

親世代…?と言うことは私が好きなドラコはいない事になる。けれどシリウスがいるなら話しは別だ。きっとシリウスも私の美貌にすぐに落ちる事になるだろう。まだ6年と半年以上ある。時間は沢山ある。

16.01.07
22.05.16-修正・加筆-

「あの人たちってだれなのかしら?」

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