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私の朝はミルクティーとクロワッサンを食べるの。優雅にね。前の生活とは一変していることを感じたいから。いつも通り朝からアリアナが私を迎えにきて寮内でミルクティーを飲むのが習慣だ。

「今日アリアナは何するの?」
「そうねぇ、マイクと湖デートかな。美織も来る?」
「カップルの間にいるのも気不味いのよ。私は私でなんとかするわ」
「あ、この前の話。行ってみたら?時計塔」

アリアナはニコリと笑った。アリアナを見送ると寮に戻り着替えを始めた。前にアリアナから聞いた噂とはトム先輩は何故か分からないが1人で時計塔に行くらしい。何をしているのかと言うと寝てるらしい。ただの噂だから確証はない。だけどこの話が本当ならばいい機会だと思った。だって寝込みを襲えるのだ。
休日なのも有り、ガヤガヤとしている生徒を縫って通ると時計塔が見えてきた。長い階段を確実に登って行く。出来る限り静かに。1番上にたどり着くと、顔だけをゆっくり出した。時計の真下で柱に背を委ね、ダランとした手からは本が落ちそうになっている。音を殺しゆっくりと近づくと、規則正しい寝息は消えてきた。瞼に前髪がかかっており、ゆっくりと髪を横に流すと少しばかり顔が緩んできた。落ちそうな本を床に置くとトム先輩の横に座る。左半身がトム先輩とくっついていて、すごく暖かいのが分かる。トム先輩の肩に、頭を預けると階段の下から来る風に乗りふんわりとトム先輩の匂いが流れてくる。すごくいい匂い。静かに息を吸い込むとなんだか安心してくる。そっと先輩の手を触ると少しだけ肩が弾んで起きるかと思ったけどそんなことはなくて難なく手を触れた。細長い白いさらりとした指。整った綺麗な爪。ほんとに私と同じ人間なのかなって思ってしまう。顔をのぞくと長いまつげにぷくりとした唇。魅入ってしまう。まるで先輩の唇に吸い込まれたかのように私の顔は先輩に近づいて行く。その時、先輩は小さく

名前、

と呟き頬が緩んだ。あぁ、名字先輩の夢を見てるんだ。私と居るのにトム先輩は名字先輩だと思っているのね。心の中にドス黒い憎悪と言う感情が芽生えてくる。なんであいつなの。なんで…。私はゆっくりとポケットに手を伸ばした。杖を取り出し、トム先輩に向けた。

オブリビエイト

別に緊張もしなかった。焦りも不安もなかった。ただ練習の通りに呪文を声に出したのだ。トム先輩の頭からは、キラキラとした煙のようなモヤが杖に入ってくる。その時、今更だが罪悪感が体中を覆った。震える手をもう片方の腕でしっかりと握って「トム先輩、起きてください」と肩を揺らした。

「ん、」

寝ぼけ眼でうっすらと目を開けるトム先輩に問いかけた。

「おはようございます、トム先輩」
「…Ms佐藤、あぁ眠っていたのか。」
「名字先輩は一緒じゃないんですか?」
「名字…?」
「ふふ、なんでもないです!」

修正する記憶は名字先輩に関する記憶だけだ。見た所、どうやら上手くいったみたいね。名字先輩の顔が真っ青になる姿を想像すると心の底から笑えてきた。そしてなんとも言えない満足感が私を包み込んだ。


16.03.11
22.05.17-修正・加筆-

「トム先輩、起きてください」

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