Story : " You Die "
物語が死ねと言う
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- 指揮 ..... マドンナ・マジェンダ
演出 ..... マドンナ・マジェンダ
..... アルマンド・ダイアモンド
脚本 ..... グースグレイ・クリアスカイ
出演 ..... ホワイト・ファーストフロスト
..... ヴィオレッタ・ウィスタリア
..... ルピナス・ルピリエ
..... ノワール・ノクテュルヌ
..... ミスルトウ・ミッドナイト
..... モード・モーニングローリー
..... アザレ・アジュール
..... サントス・サンセット
..... メヌエット・モーベット
..... アウローラ・フローライト
..... カメリア・カメオクリーム
..... 他アンサンブルキャスト
上映時間 ..... 2時間55分(休憩1回) 主な配役
ブラン:少年期(S) ..... ホワイト・ファーストフロスト
ブラン:青年期(S) ..... ヴィオレッタ・ウィスタリア
ニュイ:少年期(R) ..... ルピナス・ルピリエ
ニュイ:青年期(R) ..... ノワール・ノクテュルヌ
サンドル(C) ..... ミスルトウ・ミッドナイト
クラルテ(D) ..... モード・モーニングローリー
カルマン(C) ..... アザレ・アジュール
ドゥマン(C) ..... サントス・サンセット
アプレ(C) ..... メヌエット・モーベット
ドレ(D) ..... アウローラ・フローライト
シェール(D) ..... カメリア・カメオクリーム
それじゃあ、また舞台で会おう
ココリコ第一三○期生の卒業公演。レイヴンをルピナス・ルピリエ及びノワール・ノクテュルヌ、スワンをホワイト・ファーストフロスト及びヴィオレッタ・ウィスタリアが務めており、かつてレイヴン・レグホーンが晩年のスワン・スーダンと演じた物語として非常に著名な作品である。
昔昔、あるところに、ひとりぼっちの少女がおりました。彼女には家族がおらず、いつも寂しく貧しい生活を送っています。けれどもある日、そんな少女の元に市民を装った王子様が現れ、心根の優しく親切な彼女と王子は恋に落ちました。身分の異なる二人には様々な苦難が降りかかりますが、出会うべくして出会った彼らは共に逆境を乗り越え、ついには一国の王と妃として結ばれます。そうして二人はいつまでも一緒に、末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし……
少女は煌びやかで豊かな色彩に溢れる人々を眺め、それが描かれている絵本をそっと閉じて息を吐いた。ブラン・ド・ラ・フィニブラックスの持つ本というのは大方このような内容のものであり、本棚に姿勢良く並べられている書籍たちは、大抵がロマンチックな恋物語や夢物語のような童話ばかりだった。十七歳のブランはいつか王子様がと夢見るような年頃でもなかった上、そもそもひとりぼっちではなかった。およそ、人々から見れば彼女は一人ではなかった。両親は健在かつ健康で、かつブランは政治家という裕福な家庭の生まれであったので貧しさとは縁遠かった。けれどもブランは自分のことを幸福な娘だとは思っていなかった。むしろ、不幸であるとさえ感じていた。彼女はとにかく毎日が退屈だった。
ブランは生まれつき身体が病弱で、医師に二十歳まで生きることができない、と診断されている。ゆえに、彼女の両親は、短い生であることが定まっているブランに対して、この世の娯楽──醜く生にしがみつく要因になりそうな、この世界の楽しい≠アとを決して教えようとはしなかった。フィニブラックス家の人間として生まれたからには、気高く生き、誉れ高く死すべきであるというのが、両親のもつ考えだったからである。しかし、そんなブランを不憫に思う彼女の兄は、両親に隠れてブランに様々な娯楽──特に小説や絵本を買い与えた。
兄サンドルは若くして士官学校を主席で卒業した、フィニブラックス家の長男として秀逸な存在というだけではなく、ちょっとした悪知恵のよく働く人間だった。彼は両親の出張中にブランの部屋に改装工事を施し、挿絵のない哲学書ばかりが並べられた彼女に一冊の本の形をしたスイッチを備え付けた。その『飛び立たない小鳥の育て方』という本のスイッチを押すと、じつに静かに本棚は部屋の両端に動き、ブランの目の前には兄が作った彼女のためだけの秘密の部屋が現れる。そこには兄が用意したこの世の様々な娯楽が置かれており、ブランは両親に隠れて丸一日をこの秘密の部屋で過ごすことが多かった。
そうして過ごす内、彼女はこの世界の広さと色彩の豊かさを知り、同時に自分が生涯過ごすだろう屋敷という一つの世界の小ささも知った。サンドルがブランに買い与えた娯楽品はどれも彼女の心を高鳴らせ踊らせたが、愛し合う者たちが苦難の果てに結ばれる物語を読むたび、美しい人々が笑い合う素晴らしい絵を見るたび、心が揺さぶられるような美しい音楽を聴くたび──そういったこの世界に溢れる芸術品に触れるたび、ブランの胸にはどこか重たくも虚しい思いが広がるのだった。これらはすべて、自分にはきっと一生、手の届かない世界の話なのだ、と。
それはもちろん彼女の病弱な体質もあったが、ブランの暮らす国は今、戦時下にある。娯楽と呼ぶべきものは最近では国の方針によってほとんど排され、民間人は家の中に閉じこもって身を縮こませているのが普通だった。政治家の両親は家を離れて議会に出ていることが多かったし、士官の兄もまた戦場に出て久しい。屋敷にはメイドや執事が何人か残されてはいたが、近付く火の粉を恐れては暇を乞うて遠方へ逃げる者も少なくはなかった。戦争は長く続くだろうという予想を両親が洩らしていたのをブランは前に一度聞いている。けれども、それもまた彼女には別世界の出来事のように聞こえた。彼女は死が怖くなかった。死はブランにとっていつか近しい内に訪れる必然であり、それが病のためか戦のためかなどというのは、彼女にとってはどちらでもいいことだった。彼女は世界で生きている感覚がなかった。そのため、ある意味で彼女は自由だった。自由で──ひどく退屈だった。それでも彼女は心のどこかで夢見ずにはいられなかった。いつか、と。いつか、物語が始まるのだ、と。いつか、物語が。
そんなある日のことである。いつものようにブランが秘密の部屋に籠もっていると、地面が地響きのように揺れ、どう、と雷のごとく爆音が轟き、途端に辺りが焦げ臭くなるのを感じた。彼女は今しがた聴こうとしていたレコードと読んでいた絵本を持ったまま部屋を出ると、驚くべきことに辺りは炎に包まれていた。外の世界に明るくないブランでも、状況が変わったことは分かった。戦火はここまで近付いていたのだ。そして彼女は悟った。自分は今日、ここで死ぬのだと。どこにも行けないまま。
しかし、その瞬間、部屋の扉がけたたましい勢いで開く。
ブランは思わず音のした方を振り向き、煙の中に浮かぶ人影を目にした。彼女は一瞬兄が助けに来てくれたのだと錯覚したが、よく目を凝らしてみればそこに立つのは見たこともない、自分と同じほどに見える少年だった。「早く!」少年はブランを見付けるなり、彼女に手を伸ばして大声で叫んだ。ブランは立ちすくむ。「で、でも、どこへ」「どこでも。いいから早く!」「私に行けるところなんて」「死ぬよりましだ。僕と来るんだ、さあ!」少年は動かないブランの手を引き、彼女の部屋を飛び出した。屋敷は爆発と火の手に掛かってもうほとんど崩れかけており、見るも無惨な姿と化していた。「他の人は?」「もうみんな逃がしたよ。あとは君だけ」少年はブランが上手く走れないことに気が付くと、彼女を容易く抱え上げて身軽な様子で屋敷の外に出て、そのまま走り続ける。ブランは呆然と火に包まれた景色を眺め、駆ける少年に身を任せた。そして、そうするうちに、彼女の眼前に色鮮やかな小屋めいたものを引いた二頭立ての馬車が何台か現れる。「ここは?」ブランが問うと、少年は彼女を地面に降ろしながら「僕の家さ」と答えた。その言葉と同時に、馬車の扉が一斉に開いては中から子どもから大人までの様々な姿をした人々が飛び出してくる。少年は彼らの方に歩み寄り、そうして再びブランの方を振り向いて笑う。「僕らのね」
「僕たちはミグラテルっていうんだ。ミグラテル・サーカス」馬車の一室に導きながら、少年はブランに向かってそう説明した。彼は馬車の中に腰掛けている人々を一人ずつ紹介してゆき──「彼らはアクロバットのドゥマンとアプレ、ドゥマンが地上曲芸でアプレが空中だ。すごいコンビなんだよ。彼女は猛獣使いのドレ。ライオンも彼女にかかれば赤ちゃんみたいなものさ。こっちは踊り子のシェールで、あっちはピエロのカルマン。そして彼女は演出家のクラルテで──他にもたくさんいるよ」──誇らしげに胸を張った。ブランは首を傾げる。「座長は誰なの?」「座長? 僕さ」「あなた? 私とあまり変わらないのに?」「そう。この戦争で先代が亡くなったんだ。それで継ぐことになった──僕の声がサーカスの中で一番よく通るからって理由でね。ほら、演目前の前口上は大事だろう?」「前口上?」「知らない? それじゃ、後で見せてあげるよ」
馬車は少年が先ほど助けたという街の人々をも乗せて、隣町にある避難所を目指して走り出した。少年はブランと隣に腰掛け、まだどこかぼうっとした様子の彼女の顔を覗き込む。そうして「安心して。君のことは両親のいる首都まで連れていってあげるから」と言う少年に、ブランは困惑の表情を見せる。「どうして両親が首都にいるってご存知なの?」「君のお兄さんとは親友同士なんだ」「兄とサーカス団の座長さんが?」「まあね。出会ったときは兵士同士だったけど」「士官学校で出会ったということ?」「いや、戦場でだよ。彼は僕の上官でね」「それならば、あなたも今頃戦地にいるはずでは。どうしてこちらに?」「逃げ出してきたんだよ」「え?」「逃げ出してきたんだ。死ぬのが怖かったから」「あなた一人で?……兄のことは?」「サンドルは──まだ、戦場にいるよ」「なんて人なの……」「ごめんね、でも、これが約束なんだ」顔を背けるブランに、それでも少年はそっと微笑むばかりだった。「まだ名乗っていなかったね。僕はニュイ。ニュイ・ニュームーンだ。少しの間だけど、よろしくね」
その夜のこと、ニュイ率いるミグラテル・サーカスは避難民を引き連れて隣町に到着した。ミグラテルの一座は町に着くなり馬車の中身をひっくり返し引っ張り出し、町の外れにサーカステントを張った。ブランはニュイに連れられてテント内の客席に腰を下ろしたが、ほとんど無料同然の入場料にもかかわらず客足はまばらで、表情の明るい者はいなかった。当然だった。避難民の中には先の攻撃で家族や友人を失った者も多かったし、隣町の人間だって、こんな戦時中に嬉々としてサーカスを見ようなどという気持ちになる者は早々現れるものではなかった。だが、それでも、サーカスは始まった。スポットライトに照らされるニュイの口から、レディース・アンド・ジェントルメン、という高らかな声が響き渡る。
それからはすべてが万華鏡のようだった。まるで見えない羽が生えているかのように空を飛ぶ人間が、塔のごとく積み重ねられた椅子の上で逆立ちをする人間の脚をぱっと掴んで二人で宙を滑空し、ライオンの背に乗った猛獣使いがいくつもの火の輪をくぐる。煌びやかな衣装を纏った踊り子たちが超凡なダンスを披露しながら地上で舞う姿はさながら宝石が辺りに散らばるようだったし、それに比べてピエロは粗野で足を滑らせたようなダンスばかり踊っておりそのさまはじつに滑稽で、ブランや他の観客は思わずくすくす笑いを洩らしていた。そして、ステージがどれほどの狂騒を呈していようと、どれほどの轟音を立てていようと、座長であるニュイの発する言葉だけははっきりと高らかにテント内に響き渡り、観客の視線をあるべきところへと導いていた。その夜、ニュイの声がサーカスのまばゆいほどの騒々しさの中に埋もれることは決してなかった。
そうしてミグラテル・サーカスはブランを乗せて首都へと向かいつつ、町や集落を通り過ぎる際には必ずテントを広げてショーを行った。戦火に逃げ遅れた人々や彷徨う人々がいれば彼らは迷わずそういった者たちを受け入れ、現状安全だと思われる場所まで馬車で共に向かうこともあった。もちろん、戦時下に公演を行う彼らの振る舞いやサーカスという存在自体に反感を抱く者も少なくなかったが、それでも尚ミグラテルは様々な町でショーを上演し続けた。
ある夜、公演を終えたミグラテル・サーカスはテントを畳み、各々が使う基材や動物たちを馬車の中に積み込んでいた。ブランもそれを手伝っており、ニュイはその何倍もの速さで重たげな荷物をひょいひょいと運び入れつつ、彼女に首都までの経路を説明していた。「それじゃあ、一月後には首都に着くんですね」と言うブランにニュイは頷きつつ「そうだね、それまでの間──」と言いかけて、彼ははたと動きを止める。それとほぼ同時にぐしゃりと鳴った音に、ブランはそちらの方へと視線をやった。ニュイのこめかみだった。卵が割れていた。ニュイは自分に卵が投げ付けられたことを確かめるようにゆっくりと瞬きをすると、それを投げつけた者がいる方へ顔を向ける。「
ブランはニュイのこういった姿をこの馬車の短い旅の中でももう何度も見てきた。そのたびニュイはいつでも相手からいちばん攻撃されやすい位置に立って、どんな侮辱や暴力にも怒ることなく悲しむこともなく、ただ笑って受け止めるばかりだった。思えば、ブランの「なんて人」という言葉に対してもニュイはそっと微笑むだけで他にどんな表情も彼女に見せることはなかった。何故? ブランは堪らず、ニュイに理由を問うた。すると、彼はやはり微笑みながら「僕らは一幕の夢だ」と言った。「苦しい現実に現れる夢の前で、人はそう綺麗なままではいられないこともある。僕らはそういった観客の感情も笑って受け止めなければならないんだよ、それこそ幻のように。それがサーカス団の権利で、責務なんだ」「でもあなたは──あなたたちは幻ではないでしょう」「幻さ。現実離れした光景を観客に見せたと思えば、次の日の朝には町を去って、観客の記憶からもそのうちに消える……それが幻じゃないならなんて言うんだろう? 僕らは一時でも観客の心を明るくできればそれでいいんだ。辛い現実があっても、観客に夢を与えること。それが座長の願いだったし、戦場を逃げ出して国の役に立てなかった僕らは、せめて残された人たちの役に立たなくちゃ」「なら、尚更幻じゃあいけないわ」ブランは毅然と言った。「だって、夢は幻ではないもの。夢は心に残り続けて、その人に希望を与えてくれるし──希望だけじゃなくて、その人を傷付けることだってあるかもしれない。見た夢に比べて、自分の置かれた環境はなんて虚しいものなんだろうって思うこともあるかもしれない。でも、それでも、夢は力なのだから。胸に灯る、生きていくための力なのだから。私だって、そうなのだから」言いながら、ブランは馬車の中から自分が唯一家から持ち出せた絵本とレコードを引っ張り出してニュイに突き出した。「ずっと、一生何も変わらないんだと思って生きてきた。でも私には、兄のくれた物語や音楽があったの。それは希望だったし、どこにも行けない私の心を傷付けもした。だけどやっぱり、楽しみ≠セったの! 生きていく上での楽しみだった。いつか私の物語が、ほんとうの物語が始まるんだって、そんな夢を見ながら生きてきたの。馬鹿みたいだけど、馬鹿みたいでも夢は──夢は消えない。どんなに小さく、儚くなっても夢は消えたりしない。だから、夢を与えようと思うのなら、消えないものをやらなくちゃ」
ブランの瞳が爛々と輝き、ニュイの目を見た。ニュイは瞬きもせずにブランの目を見返し、彼女に突き出された絵本とレコードを手にする。「消えないもの……?」ブランの言葉をおうむ返しするニュイに、彼女は頷いた。「物語よ、それに音楽! 演じたらいい──だってここには演じることが得意な人が、いろんなことができる人がこんなにたくさんいるじゃない?」「いや、演じるといってもサーカスとこれでは全く……」「いいからあなた、それを読んでみて。声に出して!」言われるままにニュイは絵本を開き、その物語を口に出した。よくあるおとぎ話だった。なんの変哲もない姫と王子の恋物語。それはきっと誰もが子どもの頃、夜眠る前に親から話して聞かされたやさしい物語で、この戦時下では家共々燃やされてしまった愛しい物語だった。
月明かりを唯一のスポットライトとして、ニュイは朗読を続けた。辺りはしんと静まり返っていた。はじめはただ座長らしく朗々と読み上げていたニュイの声色は徐々に物語の質感に合わせて色味を変え、地の文と台詞によってそれぞれ声色を変化させながら物語を進行させていく。そして、それを呆然と眺めていたサーカス団の中で、はたと演出家のクラルテが慌てた様子で彼らに指示を出しはじめた。すると楽器が趣味の団員が馬車の中でしっとりとしたピアノを奏ではじめ、他の団員たちはいつかのショーで使った細かなビジューが縫い付けられた黒い布を板と共に引っ張りだし、それをニュイの後ろに設える。月光をちらちら反射させるそれはどこか星空のようにも見え、クラルテはその光に合わせた淡い照明をそっとニュイの足元に置く。踊り子たちは馬車の薄水色のカーテンを剥ぎ取ってはそれを身体に巻き付けてニュイの背後でそっと踊り出し、そのさまはさながら星空の下、湖の水面が静かに揺らめいているようだった。極めつけにピエロのカルマンがそろりそろりとニュイの後ろに回り、彼の被っているシルクハットを取り上げ、それからフード付きの黒いローブをニュイに羽織らせる。
そして、ブランはいま目の前に広がる光景を見てはっとした。突如、ニュイが発する物語の光景が、絵本が手元にないはずなのに眼前にありありと浮かび上がったのだ。それも、直接絵本を読んでいるときよりも鮮明に、手の届く場所に現れた。星空の下、月光を受ける湖を背後に物語る黒衣のニュイは、物語のすべてを知っている魔法使いのようでもあり、いま発している物語に登場する王子のようでもあった。気が付けば、ブランは涙していた。ニュイの声と音楽以外、物音を立てる者は他にいなかった。誰もが息を忘れていた。瞬きを忘れていた。怒りや悲しみや、喜びや楽しささえも忘れて、眼前の物語に心を奪われた。ここに広がる光景はそれほどまでに美しく、愛おしいものであったのだ。
ややあって朗読を終えたニュイが自我を取り戻したように絵本から顔を上げると、いつの間にか集まっていた町の人々や避難民が彼に向かって大きな拍手を送り出す。拍手さえないものの、先ほど彼に卵を投げ付けた男たちも遠くの木陰からニュイの朗読を聞いており、今しがた見聞きした物語の美しさにその場を動くことができないようだった。彼は突然の拍手と、総変わりした辺りを見てぎょっとした表情をしながら瞬きをくり返した。彼は自分を取り巻く環境が朗読中にすっかり変わったことに気が付かなかったらしく、困り顔でブランの方を見る。「気付いたことがあるわ、ニュイ」ブランは彼に向かって微笑んだ。「物語は始まるものじゃない。いつだって、自ら始めるものなのね」
その夜からサーカス団はショーの終わりに毎回一つの小さな物語を演じることにした。上演するのはいつもブランとクラルテが相談し吟味した、数種類のおとぎ話の中のどれかだった。誰もが知るようなそのおとぎ話たちはどれを上演しても評判が良く、観客たちの心を夢や想い出で満たした。サーカスの芸人たちが元来演じることに長けていることも良かっただろうが、特に毎回主演を張るニュイの人気といったら、この間まで卵を投げ付けられていた者と同一人物とは思えないほどだった。いつしか、ミグラテル・サーカスをフリークス≠ニ侮辱する者はいなくなっていた。
「私、最初あなたに酷いことを言ったわ。ごめんなさい」そしてある夜、馬車に揺られながらブランは隣に座るニュイに向かってそう頭を下げた。ニュイはぱちぱちと瞬きをした後、どうしてかちょっと照れた様子で少しばかり微笑んでこう言った。「なら一つ、何か素敵なことを言ってくれるかい?」その言葉に、ブランはすぐ頷いた。「いいわ、とびきり素敵なことを言ってあげる。準備は?」「どうぞ」「あなた、歌を歌ったら?=v
それからというもの、サーカス団はその様相を大きく変えることになる。生来人の視線を釘付けにできる声をもつニュイの歌声はそれはそれは素晴らしいものであり、彼が劇中歌を歌い出してから間もなくミグラテル・サーカスには曲芸ではなく、彼らがショー後に行う寸劇を目当てにした観客で溢れ返るようになったのだ。ニュイとクラルテの判断で、サーカス団はメインの出し物を曲芸から歌劇へと変更することにし、一座の名前もミグラテル・サーカスからミグラテル歌劇団へ変えることに決めた。「俺らが今までやってきたことは無駄だったってこと?」あるとき、ピエロのカルマンがブランに向かってそう洩らしたこともあったが、ブランはかぶりを振り、自信ありげにこう言った。「無駄なんかじゃないわ。ただ、時代が変わるのに合わせて自分たちも変わらなくてはいけないってこと。なんだって、いつまでも同じ姿ではいられないものよ。それに、サーカス団は変化がお得意芸でしょう? あなたの悪役姿、身も心も震え上がるわ!」
劇場を持たないミグラテル歌劇団は今まで通り馬車で町から町へと渡り歩いてはテントを張って、客席に囲まれるぐるりのそのステージ上で歌劇を上演した。座長のニュイは主演役者となり、演出家のクラルテは脚本家も兼ねはじめ、ピエロのカルマンはその演技力を生かして悪役担当に、アクロバットのドゥマンとアプレはおそるべき空間把握能力を武器に縦にも横にも飛び回る名脇役に、シェールをはじめとする踊り子たちはしなやかな身体を大いに披露できるアンサンブルダンサーに、猛獣使いのドレは他にはない独創さと動物と心を通わせる力を舞台上でも発揮し、ミュージカルの前に十五分程度上演されるレビューにて動物と共に独演を担当した。ブランはそんな彼らの演じる舞台をいつも特等席で観劇し、常に一番大きな拍手を送り続けた。何年も。何年も。何年も。
何年も。
ブランはすっかり首都の両親の元へ向かうという目的を忘れていた。気が付けば、戦争を終戦を迎えていた。ミグラテル歌劇団は未だに巡業を続けており、ブランもそれに連れ立っていた。かつて十七だったブランは余命を超えて二十五歳となり、重ねた年月の中で彼女はニュイの唯一無二のパートナーとなっていた。
とある時、ミグラテル歌劇団は首都にテントを張り、公演を行った。ブランは昔と変わらずに特等席からミグラテルの歌劇を眺めていたが、上演が終わると同時に近くの席にどこか見覚えのある後ろ姿が二つあることに気が付いた。「お父様、お母様……?」それは紛れもなく、ブランの両親であった。二人は突然の呼びかけにやや驚いた目をしたが、しかしながらすぐにそれを引っ込めて冷徹な表情で言う。「我々に娘はいないはずだ。そうだろう、お前」「ええ、フィニブラックス家に娘はおりません。長男の葬式にも顔を出さないような恥知らずの娘は」ブランは何を言われているのかが分からず、その場に立ち尽くして目を見開いたまま両親を見た。「お兄様が……?」両親はそれ以上ブランと言葉を交わすつもりはないらしかった。ブランは気が動転して、逃げ出すようにしてテントを飛び出す。そうして町を走り抜け、気が付いたときにはその外れにある戦死者墓地に彼女はいた。ブランはほとんど這いつくばりながら墓地で兄サンドルの名前を探し、それをついに見付けると、先ほどの両親の言葉が真実だったことを痛感して愕然とした。
すると、ブランの様子がおかしいことに気が付いたのだろうニュイが彼女の後ろから切羽詰まった様子で追いかけてきた。彼はブランの姿を見付けると安堵した表情を浮かべ、墓標に刻まれた名前とブランを交互に見やる。ブランはニュイに驚きの表情がないことに気が付いた。「……知っていたのね?」ブランは呟いた。「うん、知っていたよ」「いつから?」「君と出会った日から」ニュイは言った。「サンドルは戦場で、僕の腕の中で事切れた。彼はいつも君のことを気に掛けて……最期まで君の心配をしていたよ。彼は言ったんだ──芸人の君が銃を持つなんて馬鹿げてる≠チて。君の仕事は誰かに死を与えることじゃなく、夢を与えることだろうって。だから君は生き延びて、妹にこの世の楽しみのすべてを教えてあげてほしいって。それが彼との約束だった」ブランはその言葉を聞いて、淡く微笑んだ。かつてのニュイのように。「同情だったのね」ニュイは頷き、そしてかぶりを振った。「はじめはきっとそうだった。でも、僕らを変えたのは……僕を変えたのは、他でもない君だよ、ブラン。君は変化することを恐れず、勇敢で驚きに満ちていて、まるで僕の夢そのものだ。ほんとうは首都の両親の元に帰さなくちゃいけないことも分かってた。でも僕は、君を離したくなくて、あの小さなテントの中に閉じ込め続けた……」そう話すニュイの言葉の途中で、ブランが咳き込み、血を吐いた。それは墓地の地面やブランの服にぼたりとした赤黒い染みを作り、じわりと広がっていく。ニュイは咄嗟に彼女を支え、「ブラン!……もう帰ろう」と、不安で充ち満ちた表情でそう言った。「帰るってどこに?」「君の家だよ。君の両親は僕が説得してみせるから」「私の家はミグラテルだけよ、ニュイ。あの自由な鳥籠の中だけ!」ブランは唇の端から血を流しながらほとんど吼えるように発する。「ニュイ。今の私があるのはあなたのせいじゃないわ、あなたのおかげなのよ。自惚れないで! これは私の命よ。これは私が始めた物語。誰のものでも、誰のせいでもない──私のもの。私が責任を持つの、すべて、私が」「ブラン……」「夢があるの、ニュイ。誰にも言っていない夢が……」「……夢?」ブランは頷き、いつか見せた瞳の輝きと同じほどの光を煌々と目の中に宿して、真っ直ぐにニュイを見た。「私、それを叶えたい」
それから数日後の夜、ブランはニュイと共に舞台袖に立っていた。ニュイと共にミグラテルのステージに立つこと。ブランの夢というのはまさにこれだった。
「まさか君と舞台に立てる日が来るとはね」クラルテと最終確認を終えたニュイがブランに向かってそう笑んだ。「思わなかった?」「想像はしてたよ」「どんなふうに?」「君と立てたらきっと世界一素敵な舞台になるんだろうって、そう夢見てた」「素敵な夢ね」「だろう? 僕もそう思う」「今に現実になるわ、ほら」「ああ、幕が上がる」「物語が呼んでいる」「それじゃあ、行こうか」「ええ」二人は共に舞台に上がり、一つの小さな、誰もが知っているようなおとぎ話を演じる。ブランはスワンという少女を演じ、ニュイはレイヴンという青年を演じた。それは、かつてニュイがブランに手渡され、月の夜に朗読してみせた絵本の物語──ミグラテルと二人のきっかけの物語だった。それはブランが兄から手渡された夢の物語であり、また同時に、ブランからニュイへと手渡された夢の物語だった。そして今日、舞台上で、その夢は再びニュイからブランへと手渡されるのだ。共に演じ、歌うというかたちで。
昔昔、あるところに、ひとりぼっちの少女がおりました。名前はスワン。彼女には家族がおらず、いつも寂しく貧しい生活を送っています。けれどもある日、そんな少女の元に市民を装ったレイヴンという名の王子様が現れ、心根の優しく親切な彼女と王子は恋に落ちました。身分の異なる二人には様々な苦難が降りかかりますが、出会うべくして出会った彼らは共に逆境を乗り越え、ついには一国の王と妃として結ばれます。そうして二人はいつまでも一緒に、末永く幸せに暮らしました。めでたしめでたし……
スワン演じるブランの歌声は決してニュイのように完ぺきではなかったが、命を燃やし尽くす彼女の歌はニュイの広げた歌声の翼に支えられ、どこまでも高く、どこまでも広くテントの中を響き渡った。ブランが瀕死の状態であることは観客の誰にも伝わったが、彼らが涙したのは一人の女性が命を失いそうになっているからではなく、ただただ今舞台上にいる気高いスワンの歌声に魂を揺さぶられたためである。ブランは歌った。スワンとして、レイヴンのために。ニュイも歌った。レイヴンとして、スワンのために。二人で、物語のために。
公演は三十分にも満たない短いものであったが、幕が下りると共に観客たちは全員立ち上がり、惜しみない拍手をブランとニュイに送った。しかし、カーテンコールに二人が応えることはなかった。幕の内側で、ブランが倒れたためだった。鳴り止まない拍手の中、全身の力を失うブランを咄嗟に受け止めたニュイに、けれど彼女は「観客が呼んでる。あなただけでも行かないと」と言った。「行かない」ニュイははっきりと言った。「どうして? あなたは役者で、座長よ」「でも、君を愛してる」「ああ、そうね……」ブランは笑った。「それなら仕方ないかも」拍手はまだ止まない。「ずっと、死ぬのなんて怖くないと思ってた。みんないつかは死ぬんだし、私はそれが人より早いだけだって……」ブランはニュイの目に浮かんでいるものを拭った。「でも、兄様が私よりも先に亡くなって、……そうやって人の死を味わったら、急に死ぬのが怖くなった」「ブラン」「だって、あなたはこんなだもの……きっと自分を責めるでしょう」「ブラン、死なないで」「ううん、ずっと怖かったんだわ。だから、夢を叶えるのがこんなに遅くなった。ああ、でも、今日は楽しかったな。こんなのを知ってしまったら、ますます死ぬのが嫌になる……まだ、死にたくないなあ……もうほら、ニュイ、泣かないで」ニュイの涙がぼたぼたとブランの頬に落ち、彼女は愛おしそうに笑いながら彼の涙を何度も拭った。「あなたとの日々は私の夢そのものだったわ。私、あなたに出会えて、一緒に過ごせて本当に幸せだった。できれば、もう少し、あなたとこうして歌っていたかったけれど……」「だいじょうぶだよ、ブラン。またいつでも会える。眠ったらまた、夢を見られる。そうしたら僕ら、またそこで──こうして舞台で会おう」「ありがとう、ニュイ」「僕もありがとう、ブラン」「愛してるわ」「うん、僕も……僕も、愛してる」「ほんとうにまた会える?」「すぐ会えるさ」「よかった。それじゃあ……」ブランは安堵したように微笑み、ふっとその力を抜いた。ニュイはブランを抱き上げると、秘密を共有するようにそっと彼女に囁きかけ、共に舞台袖へと姿を消した。「それじゃあ、また舞台で会おう」
目が覚めると、ブランは自分が少女の頃によく籠もっていた秘密の部屋にいた。部屋の中はひどく静かで音もせず、彼女は不安になって兄がくれた絵本の一冊を抱き締める。すると、どこからともなく歌声が聞こえてきて、ブランは聴き憶えのあるその声に導かれるようにして部屋を出て、足取りも軽く駆けていく。走りながら、ブランはいつの間にか歌い出していた。聴こえる歌声もそれに応えるように大きくなり、二人の歌声は美しく重なり合った。ブランは屋敷の扉を思いきり開ける。目の前には舞台袖に佇む人影があった。それが誰なのかはもう分かっていた。彼もまたブランの歌声に気が付いては振り返り、優しい笑みを浮かべながら彼女に向かって手を差し出す。ブランはその手を強く握り締め、二人は再び物語の呼ぶ方へと歩いていくのだ。共に、どこまでも。
そうして舞台の幕は下りる。或いは、上がるのだった。
『物語が死ねと言う』はこれまで幾度も役者や演出を変えて上演され続けてきた、劇団ロワゾ史上最も著名かつ、最も演じるのが難しいと評されてきた作品である。
ココリコの担任教師であるマドンナ・マジェンダもパートナーレイヴンであるレディバグ・レグホーンと共にこの表題作を何度も演じたことがあるが、彼らほどの実力者でも公演の評価は毎回賛否両論であり、率直に表現するならば、おそらくこの卒業公演も賛否は分かれるだろう。
劇団ロワゾ版と今回のルニ・トワゾ版では配役の仕方について決定的に異なる点が一つある。それは、ブランとニュイは少年期から青年期までを同一役者が演じることが美徳とされる劇団ロワゾ版に対して、此度の公演ではブランの少年期をホワイト・ファーストフロストが、青年期をヴィオレッタ・ウィスタリアが演じ、ニュイもまた少年期をルピナス・ルピリエ、青年期をノワール・ノクテュルヌが演じていることだ。これについては観客だけでなく、劇団ロワゾ内部でも物議を醸すことになったが、マドンナは「私は今回の卒業公演では『物語が死ねと言う』を演ると決めております。彼らが真実プロとして羽ばたくために足りないものがこの物語にはある。現状、最も美しく『物語が死ねと言う』を演じるためにはこの配役しかない、と判断した結果がこちらです。私は最後まで、彼らに遊ばせる気はありません」とこの配役での上演を上層部に押し通した。
「いい加減、恐れるのをやめなさい」それが主演四人含む卒業生へマドンナが向けた、卒業公演での最初の指示だった。「今が最高と観客に思わせてごらんなさい。それができないのならば、あなたたちを卒業させるわけにはいきません」そして彼女は驚くべきことに、ホワイト、ヴィオレッタ、ルピナス、ノワールのもつ長所とも持ち味ともいえる部分を徹底的に殺しはじめたのだ。
まず、自由に伸び伸びと歌に感情を乗せて放つことを得手とするホワイトには歌うこと≠禁じた。と、いうよりは、ホワイト演じる少年期のブランには歌唱のシーンがなかった。そもそも『物語が死ねと言う』ではニュイの持ち歌が十曲以上あるのに対し、ブランには最期の公演シーンの一曲のみしか持ち歌がない。ゆえに、彼は自身が最も不得手とする表情と台詞のみでの感情表現を行うことを余儀なくされた。次にルピナスには抑えること≠禁じ、彼自身が出せる音程から音程までをすべて惜しみなく使って歌うことをマドンナは命じた。ルピナスは己の歌に心からの自信が持てないのか、いつも自らが最も上手く発声することのできる音域しか使おうとしない。無意識的に行われるそれをマドンナは見抜き、「そんなことではニュイの歌声を演じることはできない」と断じたのだ。また、ノワールには震えること≠禁じ、声変わりによって変化した自身の音域の狭さに引け目を感じ続けているノワールに、マドンナは「失ったものばかり見つめている役者などここにはいらない」とさえ言った。マドンナは彼の狭くも深みのある歌声にレイヴン・レグホーンの片鱗を感じ、今の己の姿を受け入れて瀕死のブランを支えられる、力強く安定した歌を歌い上げることを求めた。そして最後に、驚くべきは身体の声として一つの表現スタイルを確立しつつあるヴィオレッタに対して、その身体の声≠禁じたことである。正しくは禁じたというより、喉から発せられるヴィオレッタの声≠使うように命じたのだ。これには誰もが驚愕した。何故なら、そのヴィオレッタの身体表現を確かに声≠ナあると最初に認めたのは、他の誰でもないマドンナ自身だったのだから。「使えるものを使わないで隠していられるほど、ここから先は甘くない。最後の武器は、いつでも使えるように磨いておくものよ」マドンナはそうヴィオレッタに発し、徹底的に彼のボイストレーニングを行った。
つまるところマドンナは、ホワイトとルピナスには「自由な声≠ナ不自由を演じること」、ヴィオレッタとノワールには「不自由な声≠ナ自由を演じること」を命じたのだった。
そんなまさに、主演の誰もが物語に死ねと言われているような状況を越えて上演された表題作は、今までのものとはどこか様相が異なって新しく、それでいてどこか懐かしいような気持ちにさせられる不思議な出来となった。ホワイト演じるブランは彼自身の歌いたい気持ちとブランの隠し持つ夢が相乗効果を起こして真に迫った表現を可能にしていたし、ルピナスが歌うニュイの歌はそれこそ枷が外れて飛び立つ鳥のように自由で、開花するニュイとじつによく調和していた。ノワール演じるニュイの歌は恐れさえ受け止めて力強く、今にも墜落しそうなブランをどこまでも支え続けるという覚悟があり、それはきっとノワール自身が自らの歌声にきちんと向き合ったからこそ生まれた揺るぎなさなのだろうと思えた。ヴィオレッタの声はやはり少し独特で、どこか焦げたような印象を与えるものだったが、彼のそんな声は──身体の声も含め──命を燃やし尽くして歌おうとするブランの魂に共鳴し、観客の心をこれ以上ないほどに震わせた。上演を終えて、マドンナはどの観客よりも早く、力強く彼らに向かって拍手を送った。卒業生にとっては、いつも少し間を置いてから拍手をするマドンナのそんな反応は初めてのことだった。彼は拍手に負けない声でこう言ったという。「卒業おめでとう」と。
余談ではあるが、表題作はスワン・スーダンの晩年に脚本家であったグースグレイ・クリアスカイによって書かれた作品である。ゆえに、この物語は「スワン・スーダンとレイヴン・レグホーンの人生を元にしているのでは」と当時からよく囁かれている。この疑問について、初代劇団ロワゾメンバーで最も長命であったグースグレイは首を縦にも横にも振ることなく、最期までただ悪戯っぽく微笑むばかりだったという。
また、今回の卒業公演を受けて心に火が点いたマドンナは、再びレディバグと表題作をロワゾにて上演しようとしているらしい。曰く、「若造にはまだまだ負けないわよ」とのことである。
劇中歌 / 一部抜粋
Swan and Raven
I LOVE YOU