マルヘル・ブルーナ


 ルニ・トワゾ歌劇学園三年。
 身体での表現を得意とするクラス、クーデールに所属し、主に名前付きのクロウまたはレイヴンを担当する。
 百八十という高身長と、長い手足を使ったダイナミックなダンスを持ち味とするマルヘルは、幼少期から音楽とダンスに触れて生きてきた生粋のダンサーである。
 元々は幼いながらにストリート系のダンサーとしてステージに出ていたが、オリーブ・オーカーの兄であるオールド・オーカーとの出会いが悪い意味できっかけとなったらしく、以降ストリート系以外のダンスに対しても貪欲に手を出すことになったという。
 その後、劇団ロワゾの歌劇を観た彼はその舞台に衝撃を受け、ルニ・トワゾ歌劇学園への入学を目標としはじめる。練習風景からも見て取れるように、彼は非常に努力家で、憑依型のオリーブに反して技術型、或いは自力型と呼ぶべき役者だ。彼はひたすら練習の数をこなし、とにかく身体に覚え込ませて、一つ一つ役の人格を自分の中に形成していく。
 そんな彼がルニ・トワゾの入学試験に突破し、クーデールという身体表現のクラスへと組分けられたのは、彼の努力の証であり、また必然とも呼べる結果だろう。
 また、入学後の新人公演ではレイヴンを務めあげた。
 余談だが、彼は自身の髪型をよく変える。基本的には癖毛のセミロングだが、ドレッド、コーンロウ、ブレイズなど、そのときの気分や役によって様々だ。最短は三日である。


『ケラ・ケラ・ケ・セラ・セラ?』
 マルヘル・ブルーナが三年次の春公演にてレイヴンを務めた作品。スワンはヴェニット・ヴェローナが担当。脚本はダリア・ダックブルー、原案はガーネット・カーディナルが考案。前公演の『アンチ・コケティック』に反して、こちらの舞台には膨大な量の台詞と、役者の配置はもちろんのこと音楽が鳴りはじめる位置まで、細部に渡り考え抜かれた舞台構成となっている。
 「どうやら。僕は。死んだ。らしい」、というレイヴンの台詞から始まる物語は、その長い手足を惜しみなく使ったマルヘルが演じる骸骨男が主人公の作品である。レイヴンとスワンの一挙一動に対して刻むように短い台詞が当てられているこの舞台では、ストーリー性よりも五感に入り込むリズム感、観ている人間の気持ちよさを追求している。ただ、原案がガーネットなだけもあり、奏でられる終始明るい音楽に対するストーリー自体は歪で重暗い。が、その不和性がある種観客たちの癖にもなっている、とのこと。
 骸骨男は死んだことによりほどよく自我が溶け、ほとんど人の訪れない辺鄙な墓場で毎日踊る日々を過ごしていた。そんなところに、かつての恋人であるスワンが現れ、彼は彼女が誰なのかも分からないまま彼女に一目惚れをし、街の方へと向かう彼女を追いかける。彼女は骸骨男には気付かないまま、他のクロウやダッキーと踊り狂う毎日。そんな彼女を追いかける内、骸骨男は生前自分が抱いていた劣等感や自己嫌悪などといった感情を思い出していく。
 そして最後に自分がスワンに捨てられ、果てに自殺をしたことを思い出す。骸骨男は墓場に戻り、ナイフを自分の胸に突き立ててみるが、彼はすでに死んでいるためにもう死ぬことができない。
 「今夜。僕は。会いに行く」。いくつかの謎を残しながらも、骸骨男のその台詞でこの物語の幕は鋭く下りる。彼はどこに行くのか? そもそも彼女は何故現れたのか? 観劇後のオーディエンスは空中ブランコとお化け屋敷とメリーゴーランドを同時に体験したような気分になったらしく、その不可思議な体験が焼き付いたのだろう、この演目はクーデールの中でも「もう一度上演してほしい」との声が非常に多い作品である。


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